§幻想舞踏会§ 番外編~貴方は誰を選ぶ?~
§幻想舞踏会§
§幻想舞踏会§ 番外編~貴方は誰を選ぶ?~
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§幻想舞踏会§
番外編~貴方は誰を選ぶ?~
天空の島々に滞在する隊士達は夜でも広場を賑わせている。
そんな中、青風八咫烏隊のボブは1人草むらに座り込み夜空を見上げていた。
「良い夜だな…月が綺麗だ。」
見上げる月はもうすぐ満月を迎えようとしており、島の木々に優しい月光を降りそそいでいた。
そんな様子を優しい目で見渡す。
(…ん?)
ボブの視線はとある一点で止まった。
視線の先には艶やかに光る桃色の花が美しく咲き誇っている。
花弁の表面で月明かりが反射し、桃色に発光しているその様はボブの視線を釘付けにした。
近づいてそっと花を撫でる。
自身の持つ知識の中に、該当する花が無い事は確かだった。
「何だこの花は?見たことが無いな…。
少し持ち帰らせてもらおうかな。」
ボブは周囲の土をかき分け、根ごと花を掘り返した。
そして木材で簡易的に作り上げたプランターに植え替え、持ち帰らんと歩き出す。
桃色の花はボブの腕の中で、ゆらゆらと揺れていた。
~~~
自身の拠点島に帰宅しようと、最短距離である噴水エリアを横切る。
噴水エリアには様々な隊士が夜の静けさを打ち消すかのような賑わいを見せていた。
「ん?ボブ何してんの?」
ていなんがボブに気が付き声をかける。
「ああ、いえさっき…うお!?」
ていなんへと返事を返そうとしたその時、ボブは下に落ちていた紙(写真)に大きく足を滑らせる。
そのまま両手が塞がっていたボブは完全に足をとられ顔面から横転した。
手から飛び出た花は地面に落ちる。
するとその衝撃で花弁が粒子化し、まるで花粉のような桃色の粒子は瞬く間に周囲へ広がった。
「うわ…なにこれ…」
「ゲホッ…ゲホッ…」
「っ…クシュン!」
「ん?なんだろぉ…この香り??」
周囲でどよめきと一緒に咳やくしゃみが聞こえてくる。
ボブは打ち付けた額を抑えながら起き上ると、周囲の視線は自身へと集まっていた。
「痛いな………それより、花は!?あれ?どこだ?
…って、あれ、皆様いらっしゃいましたか。
すみません少し躓いて…」
ボブが汚れを掃いながら立ち上がる。
一番最初にボブの元へと来たのは、暁月だった。
「ボーブ君!!明日さ、僕と一緒に出掛けてくれない?エヘヘ」
上目づかいにボブへと近づく暁月。
それに続いて、ていなんもやって来た。
「ボブくん…。明日の夜、僕とその…デート、しない?」
頬を赤らめながらボブへと言い寄る。
ボブは言葉の意味が理解できないとばかりに目を瞬かせていた。
「は?…暁月お前…温室に行く話か?
ていなん様?誰かと勘違いしてます?」
暁月とていなんの目は明らかに桃色の気を発している。
状況を理解できずに戸惑っていると、
「ボブ先輩…なんでずっと気が付かなかったんだろ…
ボブ先輩って…かっこいいし、優しいし…」
夢羽がいつぞやの光姫に見せていた以上の恍惚の表情で見つめてくる。
「ボブ…あの、さ…
明日…一緒にでかけない??
あの…でー…
み、みつひめさまのことで…
あ、いや、あの、で、デートしてほしいの!
だめ…かな?」
まりーも恥ずかしそうにモジモジとしつつも、ボブの元へとやって来た。
「…夢羽、おまえ俺を姫様と見間違えてないか?
ま、まりーさん!?ていなん様ここにいますけど!?」
ボブは慌ててまりーからも距離をとろうとする。
すると、突然片腕を後ろから引っ張られた。
「ボブしゃん…あしたいっしょに
おでかけしませんか?」
レインもいつもとは違う様子で甘える。
「ボブ…あのさ…明日、よかったら私とデート…してくれないかな…?
普段のお礼とかもしたいし。だめ…?」
さきはいつもの辛辣な態度はどこにも無く、今までに見せた事の無いような赤く火照った顔でボブを見つめた。
「レインさん!?姫様にみられたら、マズイです!すみませんまた今度で!!
さきお前もどうした!?マカロンじゃダメなのか?…というかお前、
普段そんな事絶対言わないよな!?」
レインに腕を掴まれたことで逃げれないボブは完全に囲まれる。
「ボブ…私…ボブの事が好き…。
明日の夜さ…、もしよければ…で、デートしてくれない?」
夜蝶もカメラをおろし、すり寄る。
「あの…明日の夜…みぃと夜桜を見に…
…デートしてもらえませんか…?
一緒に桜を見ながら…お茶を飲む…
そんなデートしませんか…」
色白の肌を紅潮させながら、みーもボブの服の裾を小さくつまむ。
「おい黙ってろ記者今はそれどころじゃ…!
…ん?お前今何て?
みーさんもどうしたんですか?
よ、夜桜なら今度皆さんで見に行く会を催そうかと思っておりまして…!」
いつも口論から始まり口論で終わる夜蝶も様子がおかしい。
ボブは必死に応対をしながら、混乱する思考を必死に巡らせていた。
必死に逃げ道を探そうと辺りを見渡すと、光姫ともバッチリ目が合う。
(まずい!まりーさんやレインさん、みーさんもいる!)
ボブは真っ青な顔で固まったが、光姫から出てきた言葉は予想外の台詞だった。
「………。
ボブさん。明日空いてる?
別に予定があるならいいのですけど…。
…デー……じゃ、じゃなくて…
ちょっと私に付き合いなさ…でもなくて…
付き合ってほ…し……。」
そう言って顔を赤らめながらうつむいてしまった。
「…姫様、またからかうおつもりですか?
というかこの状況どうにかなりませんか!?
干渉術系の魔法でしょうか!?おかしなことが起きてるような…」
必死に状況を説明しようとすると、その声は遮られてしまった。
「えー?ほら温室だとれいんちゃんもじゃん?
僕ね、明日ボブ君と二人っきりででかけたいなぁって…」
暁月は可愛らしい顔で下からのぞきこむことで上目使いになりながらボブを見つめる。
「っ!ボブくん!
ぼ…私っ、ずっと前から好きだったんだよ?君の事!
だから…ね?一瞬だけでいいの。私に時間をちょうだい?
明日の夜…デートしてほしいなって…」
ていなんもその美しい顔を火照らせ潤った瞳でボブを見つめる。
「光姫様ですか…確かに…姫様の事はお慕いしてます…
けど…なんだかボブ先輩は違うんです…惹かれるんです…」
夢羽は胸を抑えながらモジモジとつぶやく。
「あっ、れーちゃんずるい!手を掴むなんて。
てぃー様じゃなくてボブとデートしたいって言ってるじゃん!
え、だめ…?」
レインが掴んだ腕とは反対の手を握り、まりーも肩を寄せてくる。
「むっ…いいじゃないですか!
姫様がっていつもそれじゃないですか!…こんなにも私はあなたのことが大好きなのに…グスッ」
レインは涙目になりながらボブの腕に抱き着く。
「えへへ、いいじゃん。ばか。
たまには私だって言いたくなるの。明日、私に付き合ってくれない…?」
普段だったらボブに対して絶対見せないようなはにかみでさきも答える。
「だ、だから!私、ボブのことが…す、好きなんだって!!
1回で聞いてよね!!」
夜蝶は顔を真っ赤にしながらいつもの喧嘩口調で答えつつも、内容は普段とは真反対だ。
「もうっ…ボブさんと2人で出かけたいんじゃないですかっ
…わかってください。」
みーはその色白な肌が月夜でもわかるほど紅潮している。
しかし、しっかりとその目はボブを見つめていた。
同時に女性隊士達から言い寄られ完全に混乱状態のボブは助けを求めるべく周囲を見渡す。
しかしこんな時に限って、そうまやジェイド、爽はおろか
他の隊士は誰ひとり見当たらなかった。
(本当にこれはどうなってるんだ!?!?)
そして身体に染みついた習慣がボブの身体に冷や汗を吹き出す。
本来だったらこの状況で自分の隊士がボブと仲良くしていると、光姫から問答無用で攻撃が来るためである。
しかし普段だったらとっくにぶっ飛ばされているのにも関わらず、いつまでも攻撃がこない。
光姫の方へと視線を移すと、彼女は攻撃のそぶりを全く見せようとはせず、ただ他の女性隊士と同様に頬を赤らめていた。
そして目が合うと、光姫は何かを言おうとしては黙り、また言おうとしては黙り…
そして、最終的に…やけくそ気味に怒鳴った。
「…あ、貴方はいつもそうやって女の子達といるでしょう!?
どこがおかしいのかしら!?
もう知らないです!こんなの魔法でもなんでもない!
純粋な気持ちよ!!ばか!」
そう言って完全に目をそらされてしまった。
ボブはてっきり吹き飛ばされると予想していただけに、驚愕する。
しかし自身を取り囲む女性隊士の勢いは止まらない。
「ねえ…なんで返事くれないの…?僕は嫌…?」
「何よ…ずっと前からボブくんが好きだったの…!」
「ねえ!無視しないでよ!私だってもっとお話ししたいのに!」
「他の人を呼び捨てにしてるんですから私の事も呼び捨てで呼んでください!」
「ばーか。細かい事はいいから私について来てよ。試合前の頑張るためのおまじないって事で。」
「う~…ボブ無視しないで?」
(これは普通じゃない!!!ど、どうにかしないと…
この中でこの状況を解決できる人は…!!)
ボブは普段とは違う顔を見せる女性達の誘惑に翻弄されながらも必死に思考を巡らせる。
…そして、決断したボブは、
一瞬の隙を見て女性隊士の輪から抜け出し、光姫を担ぎ上げると一目散に走り出した。
「ちょっと姫様すいません!!!
何やらまずいことが起きているようで!!!
強力をお願いします!!!」
「ちょっと!何するのよいきなり!?
なんでいつも抱き上げるんですか!?」
光姫は顔を真っ赤にしながら怒鳴る。
「今凄く皆さんの様子がおかしくて!!!
多分干渉術系の魔法か何かだと思いますので!
…明日デートでもなんでもしますので知恵をお貸しください!!」
必死に走りながらボブも叫ぶ。
その言葉に光姫は目を見開く。
「なっ!?デッでっ!?
ほっ…本当に私としてくれるの…?
……約束よ?約束だからね!
約束破ったら本当にただじゃおかないんですからねっ…」
光姫は嬉しそうにボブの肩へとしがみつく。
しかしこのままハッピーエンドで終わらないのが彼である。
「逃げないでよ!どこ行くの!?」
「あ!ボブ逃げた!!」
「なん逃げんの?おーい?」
女性隊士に負のオーラが漂い始める。
「皆さんすいません!!!
今は姫様が必要なんです!!!」
ボブは精一杯(無自覚に)叫んだ。
「…。ボ、ボブのばかああああ!!!」
「もう知らないからね!!!」
「お前…本当に有り得ないわ…この女好き!!
人でなし!!お前なんてこうだわ!!!」
「ボブなんて…ボブなんて…!
ばかああああ!!!!!
○ねええええ!!!!!」
「もう怒ったんだから!!!」
「ボブくんの…ばかやろおおおお!!!」
「バカ…もう知らない…
もう絶対にカフェに入れないですからね!!!」
「ボブ先輩酷いです!!!もう知らない!!!」
そんな罵声にボブはとっさに光姫を自分から引きはがし植林の方へと投げ捨てる。
「なっ!?ボブさ…」
光姫は背中から茂みへと落ちて行った。
ボブが瞬時に振り返ると…
光のクナイ、
雷魔法、
炎を纏う武器、
鬼の形相の水龍、
薪(小)、
コーヒーカップ、
そして氷の塊が
一直線に飛んできてた。
「あ~…結局こうなるのか…」
ボブは遠い目をする。
可愛さ余って憎さ百倍。
その後、爆音と地鳴りが響き渡った。
~~~
「…あれ?」
「ん、私は何を…」
先ほどまで怒りに身を任せていた女性隊士は次々に我に返る。
「ん?なにこれどういう事?」
ていなんも同じく、不思議そうにあたりを見渡すと、ボロボロになって地べたに伸びているボブと、
その近くで涙目で起きあがる光姫を見つける。
「あれ?光姫泣いてる?
どういう事だボブ野郎!!」
先ほどまでの記憶は一切ないかのようにいつもの如くボブへと罵声を浴びせる。
ボブは完全に気絶していた。
「あれ?私、なにして…姫様?」
まりーもていなんに続き、光姫の元へと駆け寄る。
「え、ボブwww
どうしたのソレwww
マジで笑えるんだけどwww」
夜蝶はいつもの調子でカメラでその光景を撮りだした。
「大丈夫?立てる?」
ていなんは光姫に手を差し出す。
「あ、ありがとうございますていなんさん…。」
補助され立ち会がる光姫は、あたりをきょろきょろと見回す。
先ほどと違いいつもの表情に戻っていた。
そして、伸びきっているボブを見つけると。
顔に影を落とし、ゴミを見下ろすかのような視線を保ちボブの元へと歩いて行った。
「ボブさん…。
聞こえますか…?」
「………。」
返事が無いただの屍のようだ。
光姫は軽く舌打ちをすると、回復魔法を意識が回復する程度だけ掛けた。
「ボブさん。
聞いてます…?」
「ひめ…さま…?
どうか…なさいましたか…」
ボブは頭だけを動かし光姫を見上げる。
光姫はいつもの笑顔を見せていた。
そして、胸ぐらを掴むとボブを引きずり起こした。
「あなた…私の事…投げ飛ばしたわね…?
私これでも姫なんだけど…
あの扱いは何かしら…?」
顔は笑顔なのだが目が完全に笑っていない。
しかし既にネタキャラと言えど重症のボブは、抵抗する体力もない。
「いや…ああするしか…ぐは…
…いま持ち上げられるだけで痛いんです…
お、降ろしてください…」
光姫はそんな様子も意に介さず、言葉を続ける。
「ふんっ!貴方の体調などどうでもいいですね!?
本当女心を解ってないんだから!」
そう言って、ボブをその場に投げ捨てた。
地面に倒れ込むボブは痛みが無い事に気が付く。
自身の身体を見ると、いつの間にやら外傷は回復していた。
(…姫様が治した?)
光姫の方を向けると、既に背を向け歩き出していた。
数メートル離れるとその足はピタリと止まる。
「…明日の約束を破ったら、今日以上にボロ雑巾にしてやりますから。
…覚悟なさい。
…まりーさん!拠点に帰りますよ!」
「えっ、あっ、はい!」
振り返ることなく光姫はまりーを連れて去って行った。
「…承知いたしまし…。
ん?明日の約束?あれ…正気に戻ったんじゃ…」
ボブが不思議そうに首を傾げると、背中に重い踵落としが入った。
「グハッ!!」
「そこは気づかねぇフリしろよこの女ったらしクソ野郎が」
ていなんが軽蔑の眼差しでボブを踏みつぶす。
この後もしばらくていなんによって制裁されていたボブだが、彼はネタキャラなので次の日には完全回復していた。
…番外編 おわり(つづく?)
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