§幻想舞踏会§ 第二十九話~五隊長会合室と目的の片鱗、そして変化の兆し~
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§幻想舞踏会§ 第二十九話~五隊長会合室と目的の片鱗、そして変化の兆し~
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第二十九話~五隊長会合室と目的の片鱗、そして変化の兆し~
広場でさきが歌を奏でていた同時刻。
広場の北エリアにひっそりと建つ、五隊長会合室。
そこには一人の影があった。
赤炎鳳凰隊のていなんである。
いつもの女性に見せる優美な笑顔は無く、真剣に室内を見渡す。
壁に掛けられた紙をまじまじと見ては、
壁をおもむろにノックし、さらには窓を開閉させる。
「…これ…どう考えてもおかしいよな…。」
その独り言は誰に聞かれることもなく、静かな室内に消えて行った。
~~~
さきが水質調査を終え、そうまと理事長への報告をする為に島へと帰還する。
それと入れ違いに、ていなんが広場に現れた。
難しい顔をし、腕を組む。
「ジェイド!」
ていなんは一声上げると、赤炎鳳凰隊のジェイドが即座に現れた。
「なんでしょうか、ていなん様。」
「あのさー、僕隊長の中で1番暇してると思ったのね。
だからちょちょーっと五隊長会合室を調べてきたんだよ。」
「…まぁ…そこは、ハイ。否めませんね…。
で、何かわかりました?」
ジェイドはていなんを見る。
ていなんは…
「まりーちゃぁん!♡」
光姫と共にいたまりーの元へと飛び出してた。
「あらあら、てぃー様どうされたんですか?」
まりーも満更でない様子。
光姫だけが面白くないと言わんばかりに顔をしかめていた。
光姫は目の前でイチャイチャされるのが大嫌いなのだ。
(その後、リア充撲滅隊を立ち上げるとはこの時誰も予想しなかった。)
「………。」
ジェイドは冷めた目で一瞥すると、ツカツカとていなんの元へと歩いて行き。
首根っこを鷲掴みにし、まりーから引きはがした。
「ちょ、ちょっとジェイド!僕の扱い酷いぞ!!」
「ていなん様が悪いんです!」
「子猫ちゃんがいたら声をかけるのは常識でしょう!?」
「…何ですか騒がしい…。植物が怖がるから静かにしてください!」
青風八咫烏隊のボブが2人の喧嘩のうるささに腹を立てたのか近くの茂みから如雨露を片手に現れる。
ジェイドはギロリと睨み付けた。
「ボブ君。きみに用はないんだ。大人しく土に埋まって植物ごっこでもしてて。」
「何だお前。土に根を張るだけが植物じゃないぞ。この無知め。教科書やろうか?」
「悪いけど君にかまってあげる時間はないんだ、ゴメンネ?
それに植物の知識は無くとも気に入らないヤツをぶちのめす知識があれば十分だから。」
「俺だってお前に構う気なんて更々無いぞこの野郎。」
「ちょっとジェイド!ボブ!僕を引っ掴んだまま頭上で喧嘩するなよ!」
「文句があるならていなん様も女性を追いかけないでください!
国王にチクりますよ!?
ほら!報告の続きをしてください!!」
ギャーギャーとやりとりをしているのを、ぽかんと見つめるまりー。
光姫はその中の言葉を聞き洩らさなかった。
「…報告?何かあったんですか?」
思い出したようにていなんとジェイドはピタリと制止する。
「うん、ちょっと五隊長会合室調べてきたんだよね。」
広場の片隅に集まり、ていなんの報告を聞くことにした。
この時その場にいた全員は気づいていない。
目を輝かせた夜蝶が背後でメモを片手に隠れていることを。
「で、どうでした?」
ジェイドは仕切り直さんとばかりに、声をかける。
「んーとね。
あそこさ、真ん中に円形のテーブルがあって、いつもそこから映像とか文字が映し出されるんだよね。」
ていなんが記憶をたどりながら説明を始める。
「あとは…そうだな
5隊長室の壁にはこの島全体の地図、そしてもうひとつ。
光姫曰く、さっきさきちゃんが調べたと言っていた水脈の経路…
そして、
防衛システムの稼働内容がそこに書かれていた。」
「稼働内容…ですか?」
「ああ。白は矢、黒は斧、赤は剣、青は槍、黄は槌だと書かれていた。」
「全て武器名…?
地図に水脈経路…防衛システム…。
防衛システムとは何のことですか?」
ジェイドは頭を悩ませながらていなんに質問を繰り返す。
ていなん自身も全てが明確に解っていないようで眉間にしわを寄せていた。
「各拠点島の防衛システムなんだが…
んん…赤の国に代々伝わる設置型攻撃魔法の術式とほぼ同じだった。」
「赤の国の設置型攻撃魔法の術式…。
あ、そういえば、昔は攻撃魔法は全て円形魔法陣を組み敷いて行われていたと聞いたことあります。
そして、この円形魔法陣と魔力さえあれば、半永続的に設置できる魔法もたしかありました…!」
どよめきがはしる。
島の起源に赤ノ魔法も関与している。
これでまた一つ関わっていたとされる国が増えたのである。
「あとこれさ…、余談なんだけど…。
防衛システムとかなんだかの他に目立ったものはなかったが…
五隊長会合室なんだけど…
窓はあるし、防音でもない。
隊長同士が秘密裏に会合をする為に本当に建てられたものなのか?
っていうのを疑問に持ってる。
…密会するなら防音とか窓がない部屋とか
そういう部屋の方があっているとは思わない?」
ていなんが腑に落ちないという風にぼやく。
ジェイドは会合室の造りを初めて聞いたのか目を丸くしていた。
「…え…?窓があって防音じゃない?
それは密会をするには不向きですね…もはや隠す気もないというか…。」
「そうなんだよな…。」
ていなんは後頭部をガシガシと掻きながら空を見上げる。
何もかもがスッキリしない。
まるで炎を全て消そうとする雨を含んだ暗雲が今にも雨を降らそうと、空を漂っている気分だった。
「…拠点の防衛システムは設置型攻撃魔法だけだった。
何か手がかりはないか他も調べたけどそれ以外の攻撃術式はどこにも見当たらない。
…僕はてっきり僕たちの魔力を使って、
戦いに勝利した国以外を攻撃魔法で蹂躙するのかと思ったんだけどなぁ…」
「物騒な事をおっしゃらんでください…。」
ボブが冷静に突っ込みをいれる。
「…どこにも?」
突然口をついて出た言葉。
発した張本人である光姫に全員の視線が集まる。
「ていなんさん、それは確実?
本当にどこにもないの?」
「どこにも見当たらなかったさ。本当に。
この広場はむしろ、<何もない>。この島々に攻撃術は各拠点にしかないってこと。」
光姫は七色の宝石を見上げる。
(以前調べた通り、七色ノ宝石は
[隷属魔法による魔力供給と島の統括及び運営]
そして各隊士を呼び集め、又は国へと返す
[転送魔法]しか備わってないはず…
そう…私達を初めて集めた時のように…
………?
初めて集めた時…七色ノ宝石は何て言ってた…?)
まりーとていなんが何か雑談を繰り広げ、ボブとジェイドはいがみ合いを初めていたが
それらは光姫の耳には届いていなかった。
――… 五つの国を
一つに統べる時が来た …――
――… 戦いの場へ招こう
言の葉を音に乗せ
数多の勝利を手にした国は
未来永劫の繁栄を約束せん …――
(戦いはいつも[何処]でやっている?
…そう、ここじゃない!別次元の闘技場!
この島では[戦う]ことが想定されていない。
だから私の魔力にも誤作動を起こして島は不安定になる…!)
「…ていなんさんの言うとおりですね…。」
光姫の声で全員が静かになる。
「ん?僕の?何が?」
「そうですよ。
確かに全ての隊の長が集まるのに、魔法だってあそこでは使える。
…そこで私が全員の首をとってしまえば…試合なんてしなくても勝ててしまいますもの。
機密性を重んじる[会合室]としてはあまりに可愛らしい設計です…。」
「姫様まで物騒な事をおっしゃらんでくださいよ…。」
ボブが顔を青くする。
ていなんは困惑顔で光姫に問いかける。
「なにが言いたいの?わかりやすく教えて。」
「最初のお告げではすべての国を一つに統べる事で、国の永劫の繁栄を約束すると、提示した。
私達はこれを信じてここにきた。
…しかしどうでしょう?
[数多の勝利]という曖昧な勝利条件に対し、ここでの戦いの期間は設けられていない。
私達は[いつまでここで戦えばいいのか]知らされていない。
そして勝利後の事は隊長の私達でも知らされていない。
…そうでしょう?ていなんさん。」
「…確かに。」
「…。
私達の内、ひとつの部隊が仮にここで全ての部隊に勝利することで、戦いが集結したとしましょう。
それを知らされた下界はどうですか?
国の重鎮…国王や宰相達はその勝利を無効にしようと口八丁手八丁で言いくるめようとするでしょう。
そんな中でこの島が、自身が定めた勝利の国に他の国を従えるのならば、
どの歴史を見ても明らかな通り、
【武力制圧】が当たり前…。
鎮圧、または制圧の為のシステムがないなんておかしいです。
私達は…戦いの為にここに呼ばれたのではない…。
当初の目的は嘘…。
別の目的がこの島にはあるのです…!」
「嘘…!?」
まりーが絶句する。
他の面々も言葉を失っていた。
「一番強い部隊を決めるというのは建前…?」
ていなんも状況を飲み込み切れないのか、独り言が口をついて出る。
その言葉に反応したのはジェイドだった。
「一番…。そういえば!
思い出しました!
設置型攻撃魔法の基本の円形術式は
【初代光姫と共に、一番の強さと謳われた魔道騎士が作り上げた由緒ある術式】である。
こんな感じのことを僕の師から聞いたことあります。」
その言葉にていなんも記憶を巡らせる。
「そうだったね…。
そして、それは神聖な儀式の時に厄災から儀式の神官を守る魔法であって、【守護騎士】と謳われていたものだ…。」
「また初代光姫の名が…!」
ここ連日、何かを調べれば必ず[初代光姫]の名が上がる。
ボブは七色ノ宝石を調べた際に現れた、光姫の別人格を思い出していた。
(…もしかして……。)
ひとつの疑念がボブの思考をよぎる。
(まだあの別人格については誰にも話していない。
せめて今いる人達にだけでも相談をしたほうがいいのかもしれない。)
そう思い立ちそのまま光姫に視線を移すと、
「え。ちょ、ちょっと…なんですか?」
ジェイドとていなんが光姫に詰め寄っていた。
「姫様…。本当に初代光姫様についてなにも知らないんですか…?
ほんの少しでもいいです。
今ある情報以外で何かありませんか…?」
光姫は困惑の表情を見せている。
「え、私?
情報…?
わ、私が他の皆さんにも同様にお伝えしている事以上の情報はわかりませんよ…!?」
「光姫!本当に?
初代光姫の情報…知らないのか?
何でもいいんだ、何でも!」
ていなんがさらに距離を詰め、光姫の腕を掴む。
「え!?待って下さい!?
むしろ…皆さんの国の文献にある情報の方が、私より新しい発見を…!
え、なんで私に矛先が向くの!?」
「ちょ、ちょっと2人とも落ち着いて…」
まりーが仲裁に入ろうとするが、2人は光姫にどんどん近寄って行く。
(ふーむ…。)
ボブがこの後にとった行動は、完全に無意識でのことだった。
「む…ちょっと失礼します。」
ボブは光姫を背後から引き寄せ、片手で軽々と抱き上げる。
そして、ていなんとジェイドの前に自分の身体をはさみこんだ。
「大丈夫ですか?」
ボブは光姫に問いかける。
状況を理解できない光姫は完全に固まっていた。
「ちょっとボブ!いきなりなんだよ!」
「ていなん様、一旦落ち着いてください。
…それに、近いんですよ。」
ジェイドも驚いた様子で尋ねる。
「…ボブ君。ていなん様の前にいきなり出てきてどうしたのさ。」
「姫様が困ってらっしゃるだろ?」
「は?」
(何故か面白くなかった…)
ボブは先ほどの光景を何故か面白く思わなかったのである。
そう自覚したら、身体が勝手に動いていた。
ジェイドが食ってかかる。
「…ボブ君。今僕が姫様と話してたんだけど。
何があったの?」
「何も無いぞ?ただちょっとお前がいつもの如く頭が焼けてたから止めただけだ。」
「…焼けてるのは自分じゃないのか?
どうした?まるで当たり前のように抱き上げて。」
「だから、ちょっと近いんだよお前。
あと興奮するな…バカがバレるぞ?」
「ああ!?言わせておけば…!」
光姫は我に返り、慌ててボブに話しかける。
「な…!何抱き上げてるの!?おっ…降ろして!!」
「あ、いえ…ちょっと困ってるかと思いまして…。」
ボブは心配そうに顔を覗き込む。
光姫に先日感じた胸の締め付けが襲う。
「た…確かに困ってた…けど。
え?何してるのあなた…。」
ボブは自分の腕を見つめる。
自分は確かに、目の前の小さな女性を抱き上げ、腕にしまいこんでいた。
(………何も考えて無かったな俺。)
「…なんなんでしょう?
赤隊の面々が近いなと思ったので、ちょっと離そうかと…。」
ボブは何とも無いようにサラっと言ってのける。
光姫は自分の顔が熱くなっていく事に気が付いた。
「近いって…
……
…ぉ…お……おっ、
お前の方が近い!!!!!」
「え、ちょっ姫さmグハッ!!!」
光姫のチョップが、ボブの脳天に叩き込まれた。
「すみません!もう降ろします!!」
ボブは目を回しながらも光姫をそっと降ろす。
(ひ…人の気も知らずに…!)
「あとで説明をしっかりしてもらいますからね!!!」
「あ…はい。」
光姫は真っ赤な顔で走り去って行った。
走り去った先をじっと見ているボブの肩に手が置かれ、肩の骨が握力でミシミシと音を鳴らす。
「え?」
「ボブ…?
今は姫様追いかけるからこの件は預けるけど…
後で覚悟しておきなさいよ…。」
まりーが今までにない笑顔で、ボブへと吐き捨てると、姫を追いかけ去って行った。
「あ、…これ。俺明日を生きてられるのか?」
独り言が口をついて出る。
しかしその背後で背中が焼けるような熱を感じ振り向くと、ていなんとジェイドが真っ赤に燃えていた。
「ボブ君…。覚悟はいいよね…。」
「ボブお前…僕の邪魔したあげくにまりーちゃんまで行っちゃうし、いくら妨害したら気が済むの?」
「え、お、落ち着いてください…ていなん様!
すぐ燃やすの良くない!!!
ジェイドお前は黙ってろ!耐火性のある蔦で一晩吊るすぞ!」
「ていなん様…ヤっちゃいましょう。」
「そうだねジェイド。明日と言わず今日その生を終わらせてあげよう。」
「その通りですね。教本など持って無い僕が君の替わりに明日を生きてあげるよボブ君。」
「お前さっきの教科書ネタ根に持ってんじゃねーよ!」
「ボブ!」「覚悟!」
「ちょっ…まっ!?」
~~~
………この後、
広場に一人の黒焦げ隊士が伸びていたところを、黄晶麒麟隊の夜蝶が写真と共に面白おかしく記事にし、
今回の五隊長会合室の情報及びボブの制裁までのニュースは瞬く間に全ての隊士へと広まった。
~~~
暗黒の世界で一つの鼓動が鳴り響く。
それは地殻を震わせるような悍ましさを漂わせ、しかし確かに音を刻んでいた。
…ドクン………ドクン………
<…ミ……ヒメ…>
…ドクン………ドクン………
<……ミヅキヒメ…>
暗黒に充満したその気配は、とある円形の視界からそれを見ていた。
抱き上げられ、見つめ合う2人。
<……次コソ…ワレ…ニ……>
~~~
大陸中央部に位置する五国の中心には巨大な山がそびえ立っている。
山の裾野から、吹き出すその気配は…
[黒紫色の気配]だった。
緩やかな地形にそって各国へと流れ込んでいく。
その日の夜。
大陸各所で事件が起こった。
…つづく。
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