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#コムロウイの花火_nana
旅の妖精は一頻り話終わると、大きく深呼吸をした。先程まで自分の話を熱心に聞いていた妖精たちは、それぞれ他の妖精や自らの対の妖精と楽しげに話へ花を咲かせている。どうやらいつも少しばかり退屈そうな彼らの良い刺激になったようだった。
それはそれとして、彼らは何かとこの街には祭りが少ないという話をしていたな、と旅の妖精はふと考えた。確かに他の世界では一年を通して様々な祭りが繰り広げられているものだ。それを基準に考えると、妙にこの街は祭りが少ない。これだけ妖精がいるのだから、妖精ごとに祭りがあってもいいくらいだ。まあ、そうなってしまうと年中祭りだらけになってしまうのだが。
「ロンド。……もう次の旅に出るの?」
ふと考えごとをしていた旅の妖精の思考を遮るように、誰かが彼に声をかけていた。視線を向ければ、そこには桜の妖精がどこか心配そうに眉根を寄せているではないか。さっき帰ったばかりの旅の妖精が考え込んでいるのを見て、もう次の別世界へ行く算段を立てているのかと思ったのだろう。ゆっくりしていけばいいのに、という追従の言葉を聞いた旅の妖精は、ああ、と声を落とした。
「いや、当分はいるぞ。少しやりたいことができた」
「やりたいこと?」
「ああ、とびきり楽しいことをな」
旅の妖精の脳裏に浮かんだこと。それはきっと今までに類はない、珍しいことなのだろうというのは十二分に理解していた。それでも旅の妖精はやってみたかった。珍しいことも、類がないことも、既に今の自分の存在で事足りていたのだから。
「ただ、準備は必要だな。後のお楽しみってやつさ」
そう言った旅の妖精の笑顔は、まだ見ぬ旅路を臨んだ旅人そのものだった。
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