💐たゆたえ、七色
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真っ白な封筒を開けると、同じくらい白い百合の花びらが、まっすぐ手のひらに落ちた。手紙の主は知らない相手だったが、中身を見て、何故この手紙が届いたのかすぐに分かった。
『今年六月、椿正造は九十歳で永眠しました。兄の遺書に「自分が死んだら、こちらの住所宛へ百合の花弁を同封した知らせを出して欲しい」と書かれておりましたので、お手紙をお送りした次第です。生前賜りましたご厚情に深く感謝を申し上げます』
「椿正造さん?」
「ええ、私が昔仲良くしていた人なの。先日亡くなられたみたい。手紙をくれたのは弟さんかしら?」
淡々と述べるその声は、悲しいと言うより、昔を懐かしむようなあたたかな響きを伴っていた。だから椿も、彼女に寄り添うようにして声をかける。
「ねぇ百合お姉ちゃん、この人、私と同じ名前なんだね」
「そうね。不思議な縁だわ」
手紙の文字をそっと撫でながら、けれども視線は何処か、遠い記憶を見ているようだった。
「……ねぇ椿ちゃん、お墓参りに行こうと思うんだけれど、椿ちゃんも一緒にどう?」
椿が、柔く伏せられた百合の睫毛を眺めていると、不意にその目がこちらを向いた。突然のことに驚きつつも、「良いの?」と尋ねると、百合はふわりと微笑んで頷いた。
「もちろん。誰かがそばにいてくれたら、きっと安らかな気持ちで送り出せるから」
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彼、椿正造と出会ったのは、今からおおよそ七十年前の事だった。当時彼は十九になったばかりの若者で、勤め始めた会社で上手くいかず、よく丘の上の祠の傍で憂いていた。
紫陽花や柊は、彼を見るや否や邪魔だとか、陰気臭い顔で祠に立たないで欲しいだとか文句を言っていたが、百合はそうとは思わなかった。彼のことが、何だかとても気になって仕方なかった。
初めて声をかけたのは、丁度今と同じ、梅雨明けの頃だった。百合の存在を認知することが出来た彼は、話してみると朗らかで、優しい人だと分かった。そのまま二人が恋に落ちるのに時間はかからなかった。三日に一度、祠の前で他愛も無い話をして、時折町へ遊びに出かける。そんな日々が幾年か続き、気づけば彼はもう二十五になっていた。
何百年も変わらない百合と、少しずつ歳をとっていく彼。精霊と人間。けっして交わることの無い繋がり。本当にこの人を想うのなら、もう共には居られないのだと、嫌でも理解してしまった。
そして最後の日。百合は彼に全てを打ち明けて、小瓶に百合の花弁を入れ手渡した。
「もう会うことは出来ないけれど、私が貴方を愛する気持ちは、永遠に消えないわ。だからどうか、これを私だと思って、受け取ってほしいの」
彼は、戸惑いと悲しみを隠しきれない表情のまま、暫し狼狽えていた。しかし、百合の真剣な眼差しを目にすると、しっかりと頷き優しい手つきで小瓶を受け取った。それっきり、彼が祠の前にやって来ることは無かった。
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手紙を貰った翌日、椿と百合は海沿いにある小さな町へと飛びたった。普遍的な木造の家で二人を出迎えてくれたのは、十七ほどの少女だった。オレンジがかった長い茶髪は、緩やかなウェーブを描いて額に波打っている。桃色の宝石のような双眸が二人の姿を捉えた途端、少女はパッと笑顔になった。
「もしかして、百合さんですか? 」
「ええ。そうです。正造さんにお線香をあげに参りました」
「わざわざありがとうございます。ふふ、てっきりお婆さんなのかと思ってたんだけど、すごく若い方だったんですね。えーと、そちらの方は?」
「ゆ、百合の妹の、椿です! えへへ、おんなじお名前、です!」
はにかみながらもハキハキと答えた椿に、少女は柔らかく微笑む。
「へぇ、確かにおそろいだね。あ、私は椿千春って言います。正造じいちゃんのお墓まで案内しますね」
千春と名乗った少女について歩いていくと、左の方角に墓地が見え始めた。幾つも立ち並ぶ墓の中、彼は端の方にこじんまりと眠っていた。
「あんまり大きなお墓じゃないんですけど、正造じいちゃんはここにいます」
「ありがとう。貴女は素敵なお孫さんね」
百合がにこやかにそう言うと、千春は一瞬きょとんと首を傾げたあと、小さく微笑んだ。
「そういえば言ってなかったですね。私、孫じゃないんです。なんて言ったらいいのかなぁ? 正造じいちゃんは、私のおじいちゃんのお兄さんにあたる人で。なんでも、若い頃にした恋が忘れられないとかで、一生独身を貫いてたんですよ」
その後も千春は何かを喋り続けていたが、百合の耳には最早届いていなかった。僅かに口を開き、感嘆の息を吸い込む。
彼は、生涯百合との恋を忘れないでくれたのだ。彼はずっと百合だけを想い続けてくれていた。
「正造さん……!」
途端、堪えていたものが、はらりはらりと頬を伝った。それに気づいた千春と椿が、すぐに百合の背を撫でてくれた。そしてその上を、柔らかな潮風がゆっくりと過ぎ去っていく。まるで彼がくれた優しさのように、何処までも包み込むような風だった。
「私も忘れないわ。どれだけ沢山の人と出会っても、私が心から愛するのは、貴方だけ」
呟いた彼女に答えるように、墓前に備えられた百合の花が、小さく揺れた。
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🪁百合姉さんによく絡んでた男か。あん時は邪魔だと思ってたけど、何だかんだ良い奴だったよな。そうか、死んじまってたのか。
🌻向日葵ちゃんたちも、今度お墓参りに行くんだぞ!きっと天国で笑ってるんだぞ!
🍁そうだといいなぁ。もしかしたら、天国にいる神様たちにお願いすれば、また会えるかもしれないね。
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🍑💍🪁🌻砂浜に指で描く大切な場所
寄せる漣が染み込んだ
🔑🩰🍁つま先は濡れたまま 次の季節へ行く
🌺🍵💗⛄️時計の速さに気づきたくない
🏵🦄🫧🌾もどかしかったよ 泣きそうだよ
🏹それだって輝いていいはずだ
💐たゆたえほら七色 僕らを海岸線に写して
浮かび上がる景色をもう一度夢と名付けようか
❤️🌸🦋🌱そう過去や今は生きてく 答えにしなくてもいい
🌻道のどこか 🪁心のどこか
🏹見つけたもの未来に持っていこう
💐海に溶けた 僕らの命の音
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❤️梅‐ume‐(CV:日向ひなの)
🌺椿‐tsubaki‐(CV:@あん子)
🍑桃‐momo‐(CV:蓬)
🌸桜‐sakura‐(CV:猫小町たまこ)
💍藤‐fuji‐(CV:おと*°)
🪁紫陽花‐ajisai‐(CV:桐生りな)
🏹百合‐yuri‐(CV:琉伊)
🌻向日葵‐himawari‐(CV:RAKKO)
🏵秋桜‐cosmos‐(CV:唄見つきの)
🔑金木犀‐kinmokusei‐(CV:すずめ)
🍵菊‐kiku‐(CV:はいねこ)
🦄柊‐hiiragi‐(CV:ゆうひ)
🩰蕾‐tsubomi‐(CV:瑠莉)
💗咲‐saki‐(CV:ゆるは)
🫧葵‐aoi‐(CV:翡横)
🦋蘭‐ran‐(CV:海咲)
🍁椛‐momiji‐(CV:月瀬ひるく)
🌾稲‐ine‐(CV:らいち🌷)
🌱芽‐mei‐ (CV:香流 紫月)
⛄️霙‐mizore‐(CV:白水)
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#たゆたえ七色
#謡う季節と花姉妹
#甘味屋花音のおしながき
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