マザーランド
Ado
🎪 劣勢らにラブを 🎭 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第23幕『創造』 酷い音がした。自分が地の底に叩きつけられた音だと知るのに数秒かかった。次いで、全身の細胞が余すことなく握り潰されるかのような痛み。最早痛みと呼んで良いのかすら分からぬ、苦痛。あまりの衝撃に、少なくとも一年間はその場から動くことすら出来なかった。ようやく身体を動かせたのは、落ちてからきっかり四百日後。小刻みに身体を震わせながら、サフィはその地に両足を押し付ける。 「ここは、何だ……?」 真っ暗闇の世界で、掠れた声は辺りに大きく反響した。怪訝そうに眉をひそめたサフィは、自らの両手を恐る恐る掲げ、手探りで前に進もうとする。と、同時に気がついた。落ちる時しっかりと抱えていたはずの、エマの魂が何処にもない。 「……! エマ!」 咄嗟に声を荒らげ、サフィはぐるりと周囲を見渡す。すると、漆黒で閉ざされた空間に一つだけ、薄らと光の線が通っているのが見えた。 「これは……」 考える間もなく、サフィの足が動く。ゆっくりと、だが引き寄せられるように、サフィは光の糸を辿って歩いてゆく。どれ程の時間が経ったかも分からなくなった頃、サフィはようやくぴたりと足を止めた。彼の目の前には、真っ白なシーツで整えられた簡素な寝台と、その上に寝そべる少女の姿があった。 「エマ……?」 自然とその名を口にしていた。目の前の少女は、姿こそ異なるものの、紛れもなくエマだった。 「おまえ、生きてたのか……!」 震える声で、だが確かな温もりを含んだ声で、サフィは彼女の元へ駆け寄る。何度か身体を揺らすうちに、彼女は意識を取り戻し目を開けた。しかし── 「エマ、良かっ……」 「妾に気安く触るな」 パシッ、と跳ね除けられた手は、行き場を無くして空中で静止した。片手を上げたまま、不格好に固まるサフィを見て、エマであるはずの少女は怪訝そうに顔を顰める。 「主の睡眠を邪魔するだなんて……。まあ、今目覚めたばかりなら仕方ないか。ふうん、君は……他の悪魔たちとは随分違うね」 じろじろと選別されるような目で捉えられた瞬間、サフィの脳に新たな記録が流れ込んできた。それは、地の底に生まれた新世界の秩序、理、その全て。一瞬にして、サフィは己が置かれた立場を悟った。 エマは記憶を剥奪され、恐らくは神の手により、この世界の王として祀りあげられた。その目的は? 当然、サフィを罰する為だろう。 「閻魔、様……」 その名は彼女のものとよく似た響きを持っていたけれど、あまりにも冷たく、酷く感ぜられた。もう戻れない。天国街には戻れない。あの頃には戻れない。彼女が最期に遺してくれた言葉も、今はサフィ以外に知る者はいない。いっそ消えてしまうことが出来たなら、どれほど楽だっただろう。サフィには、自ら命を絶つ為の力すら奪われてしまった。この場所で、生きていくしかなかった。 「どうして……こんなに近くにいるのに、どうして……!」 「君、ちょっとうるさいよ? ねえ悪魔の皆。この子のこと、使えるようになるまで指導してあげてくれる?」 あどけない残酷さを秘めた声が、閻魔様の口から発せられる。それに応える空気と重量を、背後に感じた。恐ろしい予感とともに振り返ったサフィは、その視界いっぱいに、無数の醜い『顔』を見た。辛うじて目と鼻と口らしきものが存在しているものの、ドロドロに溶けかけたようなその『顔』達は、よくよく見ると全てに見覚えがあった。 悪魔と呼ばれた『顔』達は、あの日コロッセウムで、サフィが灰にした人間達だった。サフィのせいで正常な死を迎えられなかった彼らの魂は、天国街に入ることを赦されなかったのだ。 『おまえの、せい』 『くるしめる、おまえ、なくまで』 『えんまさまのいうとおり』 『しつける』 『えいえんに』 『にがさない』 彼らの憎悪と憤怒が、折り重なってサフィに襲いかかる。その様子を、閻魔様はさも可笑しそうに見届けていた。 「あ、ああ、エマ、嫌だ、おれは……!」 「じゃあ、躾が済んだらまたおいで。仕事をあげるから」 にっこりと微笑んだ表情は、あの頃から何も変わっていなかった。変わっていなかったことに、どうしようもなく、絶望した。 ─────────────── 「久しぶりだね。どう。ちゃんとしつけて貰えた?」 「文字通り、手取り足取り」 「ふふ、それなら良かった。さて、君の仕事のことだけれどね……」 「……閻魔様の仰せとあらば、何なりと」 跪く彼を見て、閻魔様は上機嫌に口の端を上げる。どこで覚えたのかは知らないが、ずっと夢にみていた事を、実現させる時が来た。 「妾は、サーカスが見たい。この世界の全てを満足させられるような、唯一無二の舞台を創りなさい」 ─────────────── 『それ以来、おれはずっと閻魔様の所有物というわけさ』 その声にを皮切りに、再び身体の感覚が戻ってきた。重力に引き寄せられながら、スーは顔色ひとつ変えずに頷いた。 「なるほど。貴方の生い立ちはよく分かりました」 シンプルにしっかりと返答したつもりだった。だと言うのにサフィは、何故か不機嫌そうな表情のまま腕を組んでいる。 『うーん、泣いてもくれない?』 「えっ」 素直な驚き。次いで感想。 「泣く要素何処かにありました?」 分からない。本当に分からない。振り返ってみても、脳内には荒唐無稽な神の話と自業自得な天使の話しか残っていなかった。まだ作り物の映画の方が泣けるかもしれない。ぽつりとそう告げると、サフィは一瞬目を丸くした後、今までに聞いた事も無いほど大きな声で笑いだした。 「あはははっ! おまえやっぱり変だね。なんて言うか、こう、全てが少しずつおかしなことになっているね」 「はぁ?」 「でも、そういうところが好きだよ」 「うわ......」 スーの懐疑的な反応を遮るように、サフィは口の端を大きく引いて、もう一度声をあげた。 「おまえはね、本当は、贖罪の機会すら与えられぬまま処分される筈の魂だったんだよ」 サフィの声が反響して、脳内に再び神の姿が映った。神は心底不愉快な表情で、光のようなものを抱えたサフィと向き合っている。 『それは、世界を根底から引っ掻き回した異常種ですよ。本来ならば、地獄街に堕とすことすら赦さない。......ねえサフィ。昔何処かで聞いたような話だとは思いませんか?』 皮肉めいた神の声に、記憶の中のサフィは一瞬だけ動揺を見せる。だが、それは直ぐに決意と覚悟に塗り替えられていた。 『そうですね。おれにそっくりだ。でも、だからこそおれは、これを放ってはおけない。神が放棄すると言うのならば、おれはこの魂に居場所を与えます』 真っ直ぐ顔を上げた彼の目が、ゆっくりと細められた瞬間、そこに僅かな光が宿ったように見えた。と、次の瞬間。 身体が予告無く地面に叩きつけられ、スーの思考は強制的にブラックアウトした。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖LYRIC〗 マザー マザー 許してくれますか 大いなる愛でも 消せないバツを はなから愛されないと知れるならば楽だったんだ そんな後ろを向いた私はちゃんと地獄に堕ちましたか ああ 私は世界中に疎まれ憎まれ生きていくと 割り切れたら本当にどれだけ良かったんだろうな 多種多様な物語(ストーリー)にも いずれはさ 飽きがあってさ そのうちのひとつに収まる器にゃなりたかないけど 溢れんばかりの期待がそのフチからはみ出すときに 『こぼしたらきちんと拭けよ』と見下すような視線に 耐えきれず逃げ出した心臓 楽園じゃない ここは楽園じゃない 誰かの顔をうかがうだけの未来 楽園じゃない ここは楽園じゃない いま向かうよ 私の Motherland 劣勢らにラブを 劣勢らにラブを ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖CAST〗 ⛓神様(cv:海咲) https://nana-music.com/users/579307 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖BACK STAGE〗 ‣‣第22幕『別離』 nana-music.com/sounds/0694e8ca 〖NEXT STAGE〗 ‣‣第24幕『つみびとは夢を見る』 https://nana-music.com/sounds/0696f90d #CIRCUS_IS #マザーランド #煮ル果実 #Ado
