少女ふぜゐ
みきとP
🎪ドウゾ御一緒二 参りましょう 地獄へ 🎭 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 第12幕『暮の空に明日を見る』前編 スーとミラを向かいに座らせた青年・グレイは、紙と筆を手早く隅に片すと背を少しだけ屈めて姿勢を崩す。その時カッターシャツの首元にちらりと見えた赤で、スーは目の前の人物が青年ではなく女性であったことを了解した。 「スーと言うのか。可愛らしくて覚えやすい。良い名前だね」 「どうも」 「それで、君の望みを要約すると、私の昔の話を聞きに来たんだったかな」 「はい」 短絡的に返事をすると、グレイは眉を下げて綻んだ。気難しそうな雰囲気が一瞬にして懐柔され、スーは何だか魔法を見ているような気分になる。 「随分と変わっているね」 「もう言われ慣れてます」 彼女に見つめられると、自然と背筋が伸びる。真っ直ぐな声で答えたスーに、グレイは肩を揺らして静かに笑う。 「まあ、異端な者でなければこんなところには来ないだろう。……君の突飛なところは、少し娘たちに似ているよ」 「娘」 「血は繋がっていなかったがね。……ミラ、羊羹は美味しいかい」 「ん、ん、ん」 ふと目を逸らしたグレイにならって隣を見ると、ミラが深い赤紫のような色合いの菓子を一本丸ごと咥え、首を何度も動かしていた。スーは見たこともない甘味だが、恐らくあれは一口大に切り分けて食べるものなのでは無いだろうか。若干引いた目線で彼を一瞥した後、スーは正面を向き直った。 「話を逸らしてしまったね。そうだなぁ、どこから話そうか」 グレイは優しい顔つきでまたもや頬杖をつくと、子守唄でも歌うかのようにゆったりと語り始めた。 ───────────────── 「『大亨は以って、正天の道なり』……この時代を示す言葉だが、この国には全くもって不釣り合いだな。一体何処が良い政治だと言うのだ」 帝都の街。とある民家の一室に、背広を纏った格式高そうな男たちが集まっていた。彼らの視線は、小さな演説台の前に立つただ一人の着物の女に注がれている。この女こそが、国の政に革命を起こそうと奮起する活動家・暮凪令子であった。男尊女卑著しいこの時代、彼女だけが特別だった。若干二十過ぎの娘でありながら、その博識ぶりと凛とした話口調には目を見張るものがあり、世の中に疑問を抱く大勢の若者を魅了した。 政治活動家の伊藤雄二もまた、彼女の思想に魅せられた一人であった。その証拠に、今日もこうして沢山の男たちに交じり演説を聞いている。雄二は覇気ある令子の辞遣いにしきりに頷きながら、彼女がこれから築く世の繁栄を願った。 「いやぁ、初めは少女風情が何を言い出すかと思っていたが、今やこの国を変えるのは令子女史で間違いないな」 演説後の飲みの席で、隣に座る友人佐竹はそう言って上機嫌に酒を煽った。雄二も笑いながら彼に合わせて杯を持ち上げると、丁度そこへ令子がやってきた。 「そんな風に言ってくれるだなんて、嬉しいねぇ。どれ、私にも一杯寄越してくれないか」 「勿論ですよ、女史、あっはっは」 「おやおや、佐竹くんはもう随分出来上がっているようだね」 令子は可笑しそうに呟くと、こっそり雄二に目配せをする。突然の事に雄二が狼狽えていると、彼女は声を上げて破顔した。 「なんだい。女学生じゃあるまいに。お前はつくづく格好のつかん男だな」 「娘時分が何を一丁前に」 「その『娘』の話を一生懸命聞いて、言いなりになっているのはどこのどなただろうね?」 「……はぁ、参りました、女史」 まるで漫才のようなやり取りに、二人は顔を見合わせると一斉に吹き出した。そんな風にして、暫くの酒に溺れた愉快な時は続いた。しかし時刻が零時を回り、さて、お開きにしようかと言う所で、令子が険しい顔でそっと雄二を呼び出した。この会の中では若い方で、尚且つ運動神経の良い雄二は、しばし政治活動における荒事を受け持つことがあった。つまり、彼女が自分を呼び出す時は、何らかの事件があったということなのだ。酒の酔いも冷め、途端に気が引き締まる雄二の耳元で、令子は小さく呟いた。 「奥の席にいる、深緑色の羽織を着た男、奴は裏切り者だ。裏で内閣と通じている」 「……ここで始末するのか」 「いや。室内では証拠が残りやすい。殺すなら外でだ。……いつもの後処理を頼めるかい」 「お易い御用で、女史」 掠れ声で雄二が返事をすると、令子は僅かに唇を引き上げた。この美しい女は、活動の為ならば人を殺めることをも厭わなかった。そんな冷徹な人間に付き従う自分もまた異常なのだと、雄二は事あるごとにそう思っていたが、それでも国に従うよりはずっと良かった。民衆が思想を抑制、弾圧され、国の為に死ぬことを美徳とする国家の有り様が、雄二にはまるで悪魔の所業のように映っていたのである。だから、全ての者が平等に日の本を歩ける様にと、恵まれぬ民にも美しい掌を差し伸べる令子に心酔した。彼女の為になら、身を捧げても良いと本気で思っていた。 その日も、裏切り者の密偵を処理した後で、雄二は令子を自宅まで送り届けた。幾ら勇猛な彼女であろうと、女は女。万が一のことがあっては大変だ。雄二にも邪な思いが無いわけではなかったが、彼女は他の女の様に容易くは行かぬだろうという思考が、彼と彼女の間柄を戦友のままに保っていた。だが、その日は違った。玄関の戸を開けたところで、令子は何かを考え込むように立ち止まった後、細い首をゆっくりと捻り振り返った。 「そう言えば、お前は一度も私に手を出したことが無かったな」 「はっ……? え、あ、いや、こう見えてもおれは硬派なんだ。大事な友にそんなこと……」 「そうか。私は少し寂しいよ」 着物の袖が夜風に揺れて、簪がしゃらりと音を奏でる。室内から零れる灯りが、薄化粧を施した端正な顔を照らしている。この女でも、こんな事を思い煩うことがあるのか。初めて聞いた彼女のたおやかな響きに、雄二は思わず一歩二歩と前へ進んでしまった。深い紅の帯に手をかけると、令子はそのまま寄り添うように雄二にもたれかかった。 「後から否定はするなよ」 「そんな事しないさ。私はね」 一度決めたことは、何があっても覆したりしない。後悔なんてしないんだよ。そう言うと、令子は雄二の顔に手をかけて、自身の唇に引き寄せたのだった。 「なぁ、私はこの名前のまま政権を握りたいんだよ。お前が良ければ、暮凪雄二になってくれないか?」 「あのなぁ、そういうのはおれから……」 「返事は?」 「……ならんわけが、無いだろう」 「あははっ、つくづく格好のつかん男だ」 「あんたが格好つけすぎなだけだ」 雄二と結ばれてから、令子は良く笑うようになっていった。目を細めた彼女の顔は、とても国を相手に命を燃やす人間とは思えない。ただひとりの、幸せそうな若い娘の姿が、そこにはあった。 二人の幸せな時は十年ほど続いた。相も変わらず政界内の攻防は続いていたが、歳を経るにつれ、身を隠すこともまた一つの策略であると学んだ令子は、ある日雄二に私塾を作ろうと提案した。 「私たちで、貧しい子どもたちが無償で学ぶことの出来る場所を作ろう。衣食住を与えて、読み書きを教えて、そろばんを教えて、歴史を教えて……ある程度の教養が身についたら、今度は彼らに私たちの思想を託すんだよ」 「それはまた思い切ったな。だが、子どもを育てたことの無いおれたちが、親や教師の真似事が出来るのだろうか」 「ふむ。自信が無いのなら、私一人でやろう」 「な、そんなつもりで言ったんじゃない!おれもやるさ」 むきになって言い返す雄二を前に、令子はまたいつもの台詞で揶揄う。かくしてある年の晩冬、帝都の街に暮凪塾が誕生したのだった。 ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖LYRIC〗 晒さないでこの体 出鱈目で摩訶不思議 揺らさないで物語 謎めいた 儘で居て 可憐に咲いた 一輪の花びら 虚構も、性も 愛して いま黄昏を噛み殺ス ハヰカラア少女は 蝶の羽根を千切り 好キ…嫌イ…「嫌イ」 また虚構ついて 安堵して 揃えた前髪 ドウゾ御一緒二 参りましょう 地獄へ ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖CAST〗 ♟グレイ(cv:桐生りな) https://nana-music.com/users/6037062 〖ILLUSTRATOR〗 常磐 光紀 https://twitter.com/7th_tm?s=21&t=yiVhixHcz-eC-1ZqMuFeqQ ─────˙˚ 𓆩 ✞ 𓆪 ˚˙────── 〖BACK STAGE〗 ‣‣第11幕『飛翔、そして下降』〖STORY ONLY〗 nana-music.com/sounds/06897943 〖NEXT STAGE〗 ‣‣第13幕『暮の空に明日を見る』後編 https://nana-music.com/sounds/068ba471 #CIRCUS_IS #少女ふぜゐ #みきとP
