蕾丝花边
楽園市街
蕾丝花边
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06
-Statice-
後悔のない選択の手助けを
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「…ぐ…ぅ」
あたたかい陽の光が遮断された病室で、俺は身体を刺すような痛みに襲われていた。しばらく歯を食いしばって耐えていると、少しずつ痛みが消えていった。ほっと息をついた途端、控えめなノックの音がした。
「どうぞ」
扉の向こうに声をかけると、最愛の妻、千夏が病室に入ってきた。
「侑斗、身体の調子はどう…?」
「…まあまあ、かな」
「そっか…」
千夏は辛そうに視線を落とすと、俺の手を優しく握った。…きっと、言わなくても千夏には分かってしまっているのだろう。俺がもう、長くはないことを。でも、彼女は決してそれを口にしないし、弱音も吐かない。いつだって俺のことを1番に考えてくれる、彼女らしい。俺はそんなことをさせてしまっている自分が憎らしくて、拳を強く握りしめた。
しばらくして千夏が退室すると、堪えていた涙が溢れ出した。…千夏の前から、消えたくない。ずっとずっと、一緒に笑っていたい。でも、それが叶わないことは、分かっている。…本当に千夏の幸せを願うなら、俺は…彼女の手を離すべきだ。だけど…俺を忘れてほしくない、一生俺だけを愛していてほしいと、どうしても願ってしまうのだ。
「こんなの…最低なわがままだ…っ」
俺はしばらく泣き続け、やがてそのまま眠ってしまった。
🥀
不思議な感覚がして目を覚ますと、俺は見たことのない建物の前に立っていた。どうやら夢を見ているようだ。扉を開けて中に入ってみると、花に囲まれた桃色の髪の女性が驚いたようにこちらを見た。
「あ…勝手に入って、ごめんなさい」
「大丈夫よ。いらっしゃい。この椅子に座って頂戴ね」
女性はまるで俺の状態が分かっているかのように、優しく椅子に座らせてくれた。
「あなたのこと、待っていたの」
女性はそう言うと、綺麗な花を手にしてから俺の目の前の椅子に座った。
「待っていたって…どういうことですか?」
「…あなた、彼女に自分のことを忘れてほしくないのでしょう?」
「な、なんでそれを…!」
病気を患ってからずっと願っていたことを当てられて、思わず身を乗り出してしまう。
「落ち着いて。そんなあなたにアドバイスをしたくてここに呼んだのよ。…ねぇ、その気持ち、本当に彼女に内緒にしておくつもりなの…?」
「もちろん…もし俺が考えていることを言ったら…千夏はきっと、その通りに生きていってくれると思う…。だけどそれじゃあ、彼女は新しい幸せを掴むことができない…。ずっと、彼女を、消えた俺が縛り付けてしまうから…っ」
「…そうかも、しれないわね」
俺が泣きながら吐露した言葉に、女性は目を閉じて頷いた。
「だけど…それが幸せか幸せじゃないかは、あなたが決めることではないわ。…ねぇ。もしあなたが奥さんの立場だったとして、そういう気持ちを隠したまま旅立たれてしまったら、どう思う?」
俺は、目を見開いたまま固まってしまった。そんなの…悲しいし、直接言ってほしかったと、思うだろう…。
「あなたは奥さんの幸せを強く願った結果、大事なことを見逃してしまっていただけよ。…だから、きちんとあなたの気持ちを伝えましょう。後悔しないように」
女性の強い瞳に射抜かれて、息を呑む。…俺だって、できるならそうしたい。けれど、"もし気持ちを伝えて悪い結果になってしまったら"というもしもが、頭の中を支配している。
「…不安、よね。でも安心して。これをあげるわ」
女性は手に持っていた花を俺に差し出した。
「おまじないをかけたお花よ。あなたと、あなたの奥さんと、この花の加護を信じなさい」
女性の凛とした声を最後に、俺の意識は落ちていった。
🥀
目が覚めるとベッドの脇に花が生けられていて、俺は小さく声を上げた。
「夢じゃなかったのか…!?」
「どうかしたの、侑斗!?」
俺の声に驚いて、千夏が駆け寄ってきた。どうやら仕事終わりにもう一度来てくれていたらしい。
「ご、ごめん…変な夢を見てさ…」
ならいいけど、と眉を下げる千夏の瞳は、心配の色を映している。…言うか言わないか。どちらも取り返しのつかないことになるリスクがある。だけど…不思議と、言っても大丈夫な気がしていた。
「…あの、千夏。…俺のわがままなお願い…、聞いてくれる?」
あえて詳細を言わずに訊くと、千夏はぱっと微笑んだ。
「もちろん!なんだって聞くよ」
そのとき、花をほんの少し揺らすほどの風が吹いて、俺は_____身勝手な願いを口にした。
🥀
数年後。千夏の部屋には、侑斗との幸せそうな写真と花が置かれていた。それを見つめる千夏の瞳は、優しい色を宿している。侑斗との思い出は、千夏の心の中で今もあたたかな輝きを放ち続けていた。
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純白な部屋で
浅い呼吸を合わせて幸せを定義した
二人で過ごせる時間は
後如何位になって了ったんだろうね
指折り數える
掌上が見える毎、困しくなって了う
数十、数年後に逢える日を待つ
告解室 花瓶が揺れる
「此儘、凡てを失ったとて、
消えることのないものがあるの。知ってる?」
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💗スターチス cv.ぱぴこ
https://nana-music.com/users/355301
💐本家様
『蕾丝花边』
Music & Lyrics 楽園市街様
https://youtu.be/DFrROeBuBrE
※伴奏を公式様からお借りしているためギフト等は御遠慮頂けますと幸いです。
https://piapro.jp/t/Z5rT
イラスト︰ゆん様
SS︰琉伊
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