🎪ほらほら見てみて大発明 🎭
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第7幕『承認と対価』前編
港の市は連日大盛況だった。戦争から帰還した兵士達は、晴れやかな顔で船から降りていく。赤と黄の旗を持つ民衆は口々に声をあげ彼らを讃えた。
「万歳! 我が国の勝利に万歳!」
「良くやった。君たちは我々の誇りだ」
「やはり時代は鉄砲と戦車だろう。気の毒に、隣国は未だ馬に乗り弓を引いているらしい」
「これもひとえに、ライヘンバッハ家の功績だな」
そう言って頷く髭面の男。後方でその言葉を聞いていた小さな金髪の少年は、急いで隣にいる父の袖を引っ張った。
「ねぇ、あのおじさん、僕らの名前を言ったよ。パパは有名人さんなの?」
服を引かれた男──先の戦の為に戦車と鉄砲を発明したライヘンバッハ氏は、優しい目をして少年の頭を撫でる。
「そうだよ。パパは夢を叶えたんだ。たくさんの便利な機械を作って、国の皆の役に立つという夢だよ」
「すごい! 僕も大きくなったらパパみたいになりたい!」
「なれるさ。リヴィ、お前は賢いからね」
シワだらけのザラザラした手は、努力の証を詰め込んだ手。少年は、誰からも慕われる父のことが大好きだった。そして、そんな偉大な父から褒めて貰えることは、世界で一番名誉な事だと思っていた。
いつか、父に認められるような発明家になって、彼の隣を歩きたい。星のように瞬く少年の夢は、小さな体には不釣り合いなほど重く強大な欲求を秘めていた。
「リヴィ、リヴァイア! 起きているのなら降りて来い! せっかく兄さんが帰ってきているんだぞ!」
階下から二番目の兄・グスタフの大声が響いてくる。リヴィことリヴァイアは嫌そうに目を擦り顔を顰めた。港町で夢を誓ったあの日から十年、そして、最愛の父が突然死してから十年。かつての純新無垢な少年の姿はとうに消え去り、意地の悪そうな童顔の青年に成り果てていた。
リヴァイアはぼうっとした頭を掻きながら、寝間着を着崩したまま階段を下っていく。自分の半分も賢くないくせに、ただ歳が上だと言うだけで横暴に振る舞う兄たちのことが、リヴァイアは心底嫌いだった。
「遅いじゃないか。それに、なんだその格好は。……兄さん、リヴィは相も変わらずこんな具合ですよ。全く、父さんも何故こんな奴に一番多く財産を分与したのか……」
「グスタフ、もうその話を擦るのはやめたまえ。父さんはきっと、末っ子可愛さにあのような判断をなさったのだよ。でなければ、工具をいじることしか才の無い者を後継者になどするものか」
口元に手を当てて、一番目の兄・フリードリヒは優雅に笑った。一見すると穏やかに聞こえるその口調だが、リヴァイアを目の敵にしていることは明らかだ。
リヴァイアは、幼少の頃より天才的に賢かった。ライヘンバッハ氏の死後、僅か八つにして王都の大学に進学し、十二の頃にはかつて父が作り出した鉄砲の改良型を発明した。ライヘンバッハ家を支援していた貴族たちは、彼の偉業を知るやいなや、こぞって時期当主の座をリヴァイアに明け渡せとフリードリヒに詰め寄った。それが面白くなかったのだろう。リヴァイアが若き当主となり、自身が隣街へ左遷された後も尚、フリードリヒはこうしてことある事に帰省してきては王様のように振る舞った。弟の部下となり鬱屈した思いを抱えていたグスタフも、当然当てつけのように兄に加担し、リヴァイアを奴隷か召使いのように扱っていた。
「さて、皿を提げてくれリヴィ」
「……分かったよ」
「お兄様に対する口の利き方がなっていないね」
フリードリヒが薄ら笑いを浮かべてそう言えば、グスタフのゴツゴツとした手が瞬時にリヴァイアの頬を殴る。体格だけは立派な兄に、少年のような風貌のリヴァイアが適うはずもなく、彼は汚れた皿ごと地面に叩きつけられた。
「……っ!? かはっ……」
背中を強く打ちつけ、リヴァイアは悶絶する。その様子を、二人の兄はにやにやと眺めていた。
「おや、打ちどころが悪かったようだ。これしきのことで倒れるとは男児として情けない」
「割れた皿はしっかり片付けておけよ。ひと欠片でも残っていたら、今度は骨を折る」
「……っ、ごめん、なさい」
歯を食いしばり、痛みと憎悪に耐えながら、リヴァイアは割れた皿の破片を拾い始める。するとその瞬間、不意打ちでグスタフの足がリヴァイアの手の甲を踏みつけ、拾おうとしていた破片が思い切り手のひらに突き刺さった。
「いっ……!?」
「あぁ、すまん。お前があまりに小さくてよく見えなかった」
わざとだというのは明白だった。しかし、この家では兄達が絶対。少しでも言い返そうものなら、今度こそ本当に骨を折られかねない。リヴァイアは唇を噛み締めて耐えると、破片を胸に抱えよろよろとキッチンへ向かった。料理人もメイドも庭師も、誰もがリヴァイアを嘲るように見ている。彼らは皆、フリードリヒの息がかかった者たちだった。リヴァイアは、当主であるにも関わらず、この家の中でみすぼらしく縮こまることしか出来なかったのである。苦行の一日を耐え、ようやく自室に戻ってきた彼は、震えながらベッドの上に拳を振り下ろす。
「こんなの屈辱だ。僕は誰よりも認められ、敬われるべき人間なのに。悔しい、悔しい、悔しい悔しい悔しい!父さんが、父さんさえ生きてさえいれば……!」
強く強く噛み締めた唇からは、真っ赤な鮮血が滴り落ち、たちまち白いシーツを濡らした。きっと明日の朝は、これを見たメイドに嫌味を言われることだろう。
「認めさせるんだ。どんな手を使ってでも、兄さん達を屈服させるんだ」
リヴァイアは、その目に闘志を燃やしながら、布団にくるまった。昼間打ちつけた背中は、未だジンジンと痛み、少しも眠れそうになかった。
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〖LYRIC〗
お前のせいだよ カタストロフィ
天才学者は閃いた
人類全ての願いを 消化する装置を作れば
平和な世界になるのでは?
ボイコット状態全知全能 果実の香りにつられて
機械仕掛けのカミサマ はめ込んで出来上がり
ほらほら見てみて大発明 願いを全部叶える新商品
欲望全開 争奪戦 むき出しの現実 迫る群衆
あれあれこんなはずじゃ
ぐにゃりカミサマネジマキ 果実が甘すぎたようで
堰を切って溢れた願いは正直 あらあら何とまあ
ねえ 「こんな筈じゃ」なんて絶対 泣きついたって聞いちゃくれない
退っ引きならない
お前のせいだよ カタストロフィ
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〖CAST〗
⭐️リヴィア(cv:日向ひなの)
https://nana-music.com/users/2284271
〖ILLUSTRATOR〗
Arisa
https://nana-music.com/users/2155787
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〖BACK STAGE〗
‣‣第6幕『ダブリーニアの研究所』
https://nana-music.com/sounds/0683a86e
〖NEXT STAGE〗
‣‣第8幕『承認と対価』後編
https://nana-music.com/sounds/0686078d
#CIRCUS_IS #カミサマネジマキ #kemu
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