異ノ頭クリスマス大作戦〜アフターストーリー〜
異形頭企画
異ノ頭クリスマス大作戦〜アフターストーリー〜
- 87
- 33
- 0
❄⛄️*°🤍𝙼𝚎𝚛𝚛𝚢 𝙲𝚑𝚛𝚒𝚜𝚝𝚖𝚊🎅🏻🎁
✧• ───── ✾ ───── •✧
「これは……圧巻だなあ……!」
ㅤサラフィナは、商店街の中心に飾られた一風変わった大きなクリスマスツリーを見上げて感嘆の溜息をついた。
「ライオン! 次、こっち! 届かないんだぞ!!」
ㅤそんなサラフィナに肩車されながらあっちこっちと飾り付けの指示を出しているのは、今回の首謀者。マルクルだ。
ㅤ体力に自信のある彼女は、彼を乗せたままクルクルと働いていた。
ㅤその様子を恨めしそうに爪を噛みながら眺めているシャンプーを宥めつつ、ダイアナも思わずツリーに目を奪われていた。
「まあでも……商店街の組合会長のおじさんも、よく二つ返事でOK出してくれたよね……」
ㅤ可愛い女の子3人と小さな男の子の、その涙無しには語れないその要望には、流石の組合会長も涙を滝のように流しながら許可を出したものだ。
ㅤそしてどこかで急速に話が広まったのか、日に日に短冊の数は増えていき、今やとってもカラフルな短冊ツリーが完成していた。
ㅤダイアナは短冊の一枚を手に取り、ふっと笑みを零す。
『異ノ頭の皆が素敵な聖夜を過ごせますように☆』
ㅤその他にも、あたたかい願いがこめられた短冊が沢山飾られたツリーは、見ている人たちも幸せにしてくれそうだった。
「さ、マルクルくん。いよいよてっぺんに願い事を飾るよ〜!」
ㅤツリーの頂点。一際大きく輝く星が飾られたその場所は、みんなが彼のためにと空けていた。
ㅤマルクルは拙いながらも1文字1文字丁寧に願いを書いたその短冊を握りしめる。
(てっぺんに飾って……ぜったいおかあさんを元気にしてもらうんだ……!)
ㅤしばらくして意を決したように、彼はきゅっと小さな唇を引き結んだ。
ㅤ用意してもらった脚立を、商店街の皆が見守る中一歩ずつ小さな足で登る。
ㅤ一段一段の距離が彼にとっては酷く遠く、本来であれば誰かに変わりにやってもらうのが一番安全で確実だろう。しかし、自分で結び付けたいとマルクルは言い張って聞かなかった。
ㅤそして、手間取りながらもてっぺんに短冊を括り付けると、誰からともなく拍手が起こった。
「よし、気をつけて降りてこいよ!」
「ゆっくり、ゆっくりね!」
ㅤしかしその次の瞬間、達成感から勢いよく振り向いたマルクルは足を滑らせ、そして強烈な浮遊感に襲われた。
ㅤ落ちる、と誰もが思った。
ㅤヒュ、と息を吸い込みマルクルは叫んだ。
「ピギ……!ㅤたすけて、おかあさん……!!!!」
ㅤ絶望的な状況の中目をつぶったマルクルだったが、しばらく経っても思ったほどの衝撃がないことに気付いた。
ㅤ恐る恐る目を開けると、そこには布で隠れていて目は見えないが母とそっくりな顔が、いつものように優しくマルクルを見つめていた。
「お母さんじゃなくてごめんね〜? マルクルくん」
「おばさん!」
ㅤ彼女は母の妹で、マルクルのおばであるエバ・ヴィティ。マルクルは彼女に抱きとめられたのだ。
ㅤそして彼女の背後からは、マルクルの大好きな声がした。
「マルクル、ダメじゃない!ㅤまた危ないことして!」
「〜ッ……!! おかあさ、おかあさん!!」
ㅤ
ㅤマルクルは叔母の腕の中からするりと抜け出すと、母に向かって駆け出し、その旨に飛び込んだ。
「おかあさん、びょうきは!? 今日はびょういんにいってたはずなんだぞ!!」
「エバからね、最近マルクルが商店街でなにかしてるって聞いてここまで送ってきてもらったのよ。そしたらあなた、こんなにたくさんの人を巻き込んじゃって……どうしたの? このクリスマスツリー」
「これは……えっと……」
ㅤマルクルが言い淀んでいると、彼を庇うようにしてダイアナが前に出た。
「ちがうの、マルクルのお母さん! マルクルはお母さんのためを思って行動したの!」
ㅤ更にサラフィナも援護の姿勢をとる。
「そっ、そうですよ! だってお母様は……うぅッ……余命、あと半年なんですよね……!?」
ㅤ涙声で叫んだサラフィナの一言に、シーーーンと辺りが静まり返った。そして徐々にザワザワと、皆が口々に小さな声で話し始める。
「えっ……僕はギックリ腰って聞いたけど……」
「私は虫歯と腹痛と眼精疲労がひどいって……」
「俺は宇宙から来た不治の病と闘ってるって聞いたな」
ㅤどうやら噂は広まるのと同時にごちゃ混ぜになり、マルクルの母の病状はとんでもないことになっていたようだ。
ㅤ大勢の真偽を確かめるような視線を一身に受けたマルクルの母は、羞恥で顔から火が出そうなくらい真っ赤になっていた。
ㅤ彼女の横では、叔母が笑いすぎて呼吸困難に陥っている。
「なっ、なるほどねマルクルくん……アハハ! そう思っちゃう……よねッ……く、くく……もう、姉さん! これはマルクルにちゃんと説明してなかった姉さんが悪いわよ!」
「そうね、そうよね……もうっ、こんな商店街中に……恥ずかしいぃ……」
ㅤ何が何だか分からずにキョトンとするマルクル、サラフィナ、ダイアナと、「やっぱり」とボソリと呟くシャンプー。
ㅤマルクルの母はしゃがみこみ、今にも泣き出しそうなマルクルを真っ直ぐに見つめた。
「不安にさせてごめんなさい、マルクル。実はね……」
ㅤ彼女はマルクルの小さな手を取り、自身のお腹に優しく当てる。そしてマルクルの耳元で小さくその真実を伝えた。
「オレ……オレ……」
ㅤオーディエンスが息を飲んで見守る中、マルクルは元気いっぱい、力いっぱいに飛び跳ねた。
「オレ、お兄ちゃんになるんだぞーーーーーー!!!!!!!」
ㅤ
────────これは、クリスマスに町全体を巻き込んだ、特別な贈り物のお話。
✧• ───── ✾ ───── •✧
#異ノ頭クリスマス大作戦
#異形頭企画
コメント
まだコメントがありません