𓏸𓈒 𝙼𝚎𝚛𝚛𝚢 𝙲𝚑𝚛𝚒𝚜𝚝𝚖𝚊𝚜𓍄𓂃𓈒*
短冊の願い事
🐦「スティーブと共に歩む」
🍔「これからもガストンさんとずっと一緒に居られますように」
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「クリスマス。今年はお店開けるらしいんですよね」
「なんだと」
ガストンは衝撃のあまり持っていた箸を落としそうになった。
互いに忙しい身であり、なかなか二人きりで居れる時間は少ない。そんな中でも、スティーブは空いた時間にガストンの自宅で手料理を振る舞い、ガストンはどれだけ早起きだろうとマッスルバーが空いていれば毎晩通っている。ちなみに本日は前者である。疲れた身体に染み渡る、お袋ならぬスティーブの味。
幸福を噛み締めながらスティーブ手製の芋の煮付けを齧っていたところ先述の言葉であり、ガストンは暫し固まった。来たるべくクリスマスに向けて有給休暇をしっかり取り、プレゼントも準備して、近隣のデートスポットさえ調べた。デートプランは完璧であり、あとは予定を確認するだけだったのだ。
「そうか…」
がっくりと大柄な男が肩を落とす。てっきり予定は開けているものだと思っていたが、言われてみればイーサンが店を開けないわけがない。どうせクリスマスも隣店のママに会いに行くつもりだろう。フム、気持ちはわからなくもない。と、小さな溜息だけを洩らす。
「すみません。でも、会いに来てくれますよね?」
「当然だ‼会えるだけで嬉しいからな」
ガストンの二つ返事に安心したのか、はたまたストレートな気持ちに照れているのか。困ったような諦めたような、そんな笑みを零すスティーブ。ああ、本当は自分だってデートしたかったのだと彼に素直に言えたら。
クリスマスのシフトの打診をされた時はふざけるなと思ったし、だけども必要とされているのに断ることも出来ず承諾してしまって。しかしそれをウキウキしている恋人に言い出せずに今日に至った。今しがた断りを入れたものの、嫌われたりしないだろうかと不安でいっぱいのスティーブはこんな時でも、まるでなんでもない風を装うことしかできない。そんな恋人の習性を本能で理解しているのか話は終わりだと言わんばかりに、冷めないうちに食べよう‼️と部屋に響く大きな明るい声が、少しばかり暗くなってしまった空気をかき消した。
美味い美味いと言いながら愛情を貪る大柄な男と、クラシックでも聴くかのように彼の言葉をBGMにしながら上品に食事する十代の少年。二人はこの世の誰よりも幸せだと自負する、仲睦まじい恋人なのであった。
*
「暇だな」
そんなこんなでクリスマス。いつも通りマッスルバーで静かに騒いでいた二人は店長イーサンの急用により、遅い時間ではあるものの無事解放されていた。突如来訪したサンタのプレゼントに心底感謝する他なく、無論余った時間を有意義に過ごそうという話になり、スティーブが身支度を済ませるまで店の近くで待っていたガストンは幾許か手持ち無沙汰で、目の前の雑貨屋に足を踏み入れる。そこで今日ならではの帽子が売っているのを見付けてしまい、迷う暇なく購入し、いそいそと頭に被った。
「…うわぁ」
準備万端だとでも言いたげに自信満々な雰囲気で佇む不審者にげっそりしながら、スティーブが店から顔を出す。この人のユーモアセンスってどうなってんだ、という感情露わに声を掛けた。フフン、得意げな笑みと季節外れのサングラスは今日も元気にうざったくて仕方がない。早くそれをひん剥いてやらねば。
スティーブは闘志に燃えた。燃えるな。
「なんですかその頭」
「サンタだが‼️」
「見ればわかります」
「似合うだろう❓そんなことより、早く行こう‼️」
「確かに妙にしっくり…えっ、まさかそれ被ったまま歩くつもりで?」
「勿論だ‼️」
嘘だろ恥ずかしいやめてくれ、そんな願いも虚しく歩き始めたガストンに振り回されながら、それでもこんな特別な日にデートできる嬉しさの方が勝ってしまい、なすがままに連れ歩かれる。
電飾で光り輝く街路樹を、夜遅くまで活気溢れた商店街を。
「手を握っていいか、スティーブ」
言うよりも早く気持ちが先走り、ガストンは隣に並び立つ恋人の手を取る。寒いから、などと言い訳する気は無い。いつだって触れていたいのだ。しかしまだ、その清らかな身体を侵食することはない。壊してしまうのが怖い。だけれども、男としてやはり好きな人には触れたい。ガツガツすることもなく、語ることなく。しかし。ゆえに。だからこそ。
手袋に包まれた自分よりも小さな手のひらを己の大きな手で包み込む。愛しさをこぼしてしまわないように。
突然のスキンシップにスティーブはすこしだけ緊張し、胸を高鳴らせた。ずるいなあ、いつも。こんな時ばっかりスマートで男らしい姿を見せるのは、この人の年齢を感じるところであり。埋まらない差にいつも自分は切なくなってしまうのだと。お互いに知る由もない情を向けていても、すれ違うことなく、不思議と二人の歯車は噛み合う。
チラリと。黙ったまま温もりを感受する恋人の照れた横顔。変わらずお前はかわいいな。思うよりも先に。考えるより本能で、身体が動いてしまう性。案の定、口に出していた。
「また…あんたは……」
「ハハ、すまん」
「謝らないでもらえますか。はあ…」
悔しい。ときめいてしまって、折角のクリスマスも霞んでしまう。スティーブは悩まし気な息を零すが、その呼吸には一切の負の感情は込められていない。
ただ街を歩くだけ。それに誰が言い出したのかわからないツリーの短冊さえ、自分達カップルを祝福しているように見える。ついでだからと書いた願いも、自分達の欲望を書き連ねただけだ。
恋とは盲目であり、自分本位でしかない。なんて聖夜に似つかわしくない苦悩がどれほどその体に詰まっているのか、それはスティーブ本人ですら無意識の領域であり、誰も暴けはしないのだ。
恋の痛みが愛おしい、苦味の中だからこそ際立つ甘さ。寒さの中で触れる温もりに良く似ている。まさに再現するかのように、空からは雪の花が降り始める。
「スティーブ、見ろ。雪だ」
「あ……」
パラパラと、冬の化身が落ちてくる。
夢心地な二人だったが、やはり雪は雪、冷たいものは冷たい。肌を刺すような寒さに震えて現実に戻されたらしい。繋いだ手を離さないまま歩くスピードを早めた。否、走り出した。
「ガストンさん、寒い寒い!」
「ああ、寒いな‼️」
「ああ!胸板に埋まりたい!」
「何を言っているんだスティーブ‼️寒さで頭がやられたのか‼️」
「んなわけないだろ!早く家に帰りましょう!その筋肉はなんのための筋肉です!?」
「正直者め‼️オレのことが好き過ぎやしないか‼️」
「ハア!?そうですけど!?!?」
「‼️何故怒るんだ⁉️」
ギャアギャアと、先程までの憂いを帯びた面影などもはや存在せず。子供のように街を全力疾走で駆け回る。向かう先はガストンの自宅。先日も、その前も、最近のデートと言えばお馴染みの。結局いつもと変わらない日常を過ごす二人であるが、それが一番の幸福だと理解しているのだ。
二人きりの世界。それこそが、お互いの、なによりのプレゼントであると信じている。見知った街ゆく人達さえ視界に入らない。ケーキもチキンも必要ない。今の二人を、誰にも止めることはできない!
「ただいま!」
「スティーブの家ではないが」
「こんな時くらい浸らせろよ」
「それもそうだな‼️」
家に入るなりハグ、とは行かず。変なところで几帳面なガストンは真っ先に上着に抗菌スプレーを振りかけ、靴下を脱ぎ、手を洗い、うがいを始めた。
「いや雰囲気ぶち壊しなんですけど」
「ゴボゴボッガ‼️(どういう意味だ‼️)」
「まあ元からないか」
「❓」
首を傾げる大の大人をよそに、スティーブもまた部屋の主のルールに従い行動した。その間にガストンは暖房を付け、風呂に湯を張る。
各々着替えを済ませ、部屋着になるとやっとソファに腰を沈めた。部屋は充分に暖まっている。ハイテクな暖房器具は寒がりのスティーブの為に購入したと言っているが、実のところ買った本人の方が寒がりで重宝している。筋肉で武装していようが冬には弱いらしい。こういう可愛らしいところも好きだとスティーブは後に語ることになるがそれはまた別のお話。
さて落ち着いたことだし、とハグの構えをするガストンに意地悪をしたくてスティーブは得意の爽やかなスマイルを浮かべた。
「これだけ温かいと筋肉布団は必要無さそうですね」
「ッ⁉️」
頭の上に沢山のビックリマークと、ガーン!という効果音がピッタリな男の姿が。そんな…オレの筋肉は……なんのために……と今にも泣きそうな面持ちでショックを受けるガストンを見ながらクスクスと一頻り笑ったあとに、スティーブ自らその大きな胸に飛び込んだ。即座に離さまいと太い腕でしっかり彼を抱き締める筋肉ダルマ。
「スティーブ‼️意地が悪いぞ‼️」
「かわいいんですもん。あー笑った」
「ぐ……スティーブのほうがかわいい‼️」
「はわ、あったかい…♡」
「かわいいな‼️‼️‼️」
素直に甘えるスティーブほど尊いものはないと、ガストンは天を仰いでうっかり男泣きしそうになった。気合いで下心と涙腺を抑えて抱き続ける。あまり引っ付いているとよろしくないが、今日だけは特別だ。聖夜だ。と自分に言い訳をする。しかし剛鉄、鋼の精神の持ち主。五分ほどそうしていると、突然風呂の湯が溜まったからと言い出し恋人と身体を離す。
「ガストンさん一緒におふろ入りますか?」
「断る‼️」
「ほんと潔いいなこの人……」
はいはい、とツレない恋人を残してスティーブは一人風呂に向かった。ほんと、いつになったら手を出すんだ。スティーブの苦悩は、きっとこの後も続くことになるだろう。
一方、ガストン。
「寒さで決心が揺らいでしまうとは。鍛え方が足りんな‼️」
鍛えていた。
fin.
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(🐦)のびた人陰(かげ)を 舗道に並べ
夕闇のなかをキミと歩いてる
(🍔)手を繋いでいつまでもずっと
そばにいれたなら泣けちゃうくらい
(🍔)風が冷たくなって
冬の匂いがした
(🐦)そろそろこの街に
キミと近付ける季節がくる
(❄)今年、最初の雪の華を
2人寄り添って
眺めているこの時間に
シアワセがあふれだす
(🍔)甘えとか弱さじゃない
(🐦)ただ、キミを愛してる
(❄)心からそう思った
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企画元:異形の館
https://nana-music.com/users/10414285
#異形頭企画 #異ノ頭クリスマス大作戦
原曲:雪の華/中島美嘉
伴奏:ええむ様
https://nana-music.com/sounds/05b44b1a
🐦Gaston Duck (CVゆき)
https://nana-music.com/users/9967544
🍔 Steve Blacktiger(CVろじっく)
https://nana-music.com/users/4868688
Illust&SS:ゆき
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