Departures〜あなたにおくるアイの歌〜
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
Departures〜あなたにおくるアイの歌〜
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__𝕎𝕙𝕒𝕥 𝕕𝕚𝕕 𝕪𝕠𝕦 𝕤𝕒𝕪 𝕒𝕥 𝕥𝕙𝕒𝕥 𝕥𝕚𝕞𝕖?✩₊*˚
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「……璃月」
真っ暗な世界で、璃月の名前を呼んだ。璃月の気配が見当たらない。さっきまでずっと、隣にいてくれていたはずなのに。
暗闇のほかには、何もない空間。僅かな明かりさえもないせいで、周囲を見渡そうにも目に映るのは暗闇ばかり。
すぐ近くにいるのだろうか。璃月。璃星と一つの命を分け合って生まれた、最愛の片割れ。
手探りで暗闇の中を進むも、璃月の気配は見当たらない。足取りが酷く覚束なくて、転びそうになる。
いつも隣にいたはずの影が、璃星の前からいなくなるはずのない光が、今はどこにも見つからない。
暗い。寒い。怖い。誰もいない、一人ぼっちの世界。
ここはどこなのか、どうしてこんな場所にいるのか。そんなことは少しも気にならなかった。
璃星が求めるのは、たった一つだけ。同じ血を引く半身だけ。
手を伸ばしても、名前を呼んでも、叫んでも、どこにも璃月は見つからない。気が狂いそうだった。
どこに行ってしまったのだろう。離れた手が心細くて仕方ない。璃月は今頃、泣いていないだろうか。
どうして、はぐれてしまったのだろう。離れてしまったのだろう。いつだって璃星は、璃月と一緒にいたのに。手を離そうとしたことなんて、一度もなかったのに。
「違うよ」
誰かの声がした。息を呑んで周囲を見渡す。人の気配はない。璃星の周りには、誰もいない。
「違う。璃星は、ずっとひとりだった」
璃月の声だった。聞き間違えるはずがない。人生の全てを隣で過ごしてきた声。
だけど、璃月ではない。璃星が、一人だなんて。璃月が、絶対にそんなことを言うはずがない。
ならば、今璃星の元に届いたのは、誰の声なのだろう。幻聴にしては、あまりにもくっきりと響いていた。
「璃星は、あの日からずっと、ひとりぼっちだった」
おかしい。違う。どうして。数多の思考が巡り廻って、璃星の心臓を締め付ける。雁字搦めに絡みついて、璃月と分け合ったはずの心臓を食い破ろうとする。
どうして。知覚に思考が追いつかない。脳が錆び付いて動いてくれない。答えを求める声が掠れて、零れ落ちていく。
おかしい。耳朶を打つ声は、璃星の名前を呼ぶ声なのに。何度も聞いた、璃月の声なのに。
――どうしてその声が、言葉が、璃星の口から零れているのだろう。
ずっとひとりだった。ひとりぼっちだった。
呪いのように繰り返される言葉が、璃星の首を絞め上げていく。璃星の最も恐れた言葉。何よりも聞きたくなかった言葉。
それらが璃星の脳を回し、考えを巡らせる。嫌だ。止めたい。知りたくない。そう願ったところで、残酷なまでに簡単に、結論は導き出される。
璃月はもう、璃星の隣にはいない。
あの日からずっと、璃星の隣には誰もいない。
璃星は、ずっと一人だった。二人ぼっちを装った、一人ぼっちだった。
そう気付いてしまえば、もう止められなかった。封じていたはずの記憶が、都合よく上書きしていたはずの記憶が、蘇っては溢れ出す。
本当はずっと分かっていた。詭弁と嘘で塗り固めた現実を、信じこもうとしていただけだった。
知っていた。璃月は、もういない。死んでしまったのだ。璃星を一人でこの世界に残して、消えてしまったのだ。
「ワタシは、璃星が幸せなら幸せだから」
いつの日か、璃月が告げた言葉が蘇る。璃月は、確かに言ったはずなのに。璃星の幸せを願っていると。幸せになって欲しいのだと。
それならば、どうして璃星を一人にしたのだろう。どうして、死んでしまったのだろう。
璃星の願いはいつだって、璃月と共に生きることだ。璃月のいない世界なんて、終わりの見えない地獄でしかないのに。
「璃月……璃月、璃月っ…………!!」
怖い。璃月が隣にいないことが。二度と会えないかもしれないことが。心臓が引き裂かれて、肺が一つになって、それでも延命処置を続けているような、そんな感覚がする。
何度名前を呼んでも、答える声はない。雪の日に握ってくれていたあの温度は、もう隣にはない。
ただ、会いたかった。
何も無くていい。特別なことは望まない。
ただ、いつものように、璃月に隣にいて欲しかった。
「璃星」
どれくらいの間、そうしていただろうか。
璃月の名前を呼び続け、やがて泣き疲れて。光の消えた世界で、ぼんやりと虚空を眺めて。
璃星を構成する何もかもが流れ出して空っぽになってしまった気がした、そんな時。
暗闇の向こうで、璃星を呼ぶ声がした。
それが自分の声なのかどうか、璃星にはもう分からなかった。自分の声でも良いように思えた。璃月の切れ端だって構わないから、何かに縋っていたかった。
だから、救いを求めるように、声のした方を振り返る。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。
「璃、月……?」
会いたくて会いたくてたまらなかった、璃星と生き写しの少女が。穏やかな声で、璃星の名前を呼んでいた。
それを認識するや否や、璃星は駆け出していた。どうして、もう一度会えたのだろう。二度と会えないと思っていたのに。
愛する片割れの元へと駆け寄り、強くその身体を抱きしめる。心臓の音は聞こえなかったけれど、確かに璃月に触れられた。夢じゃない。紛れもない現実だ。
どうして、璃月と会えたのか。その答えなんて、一つしかないだろう。きっと、璃星は死んだのだ。
そう気付いたところで、少しも悲しさは感じられなかった。悲しむ必要なんて、どこにもなかった。璃月のいない生に、価値などなかったから。
璃月はちゃんと、璃星のことを待っていてくれた。ようやく、璃星のことを迎えに来てくれた。
抱きしめた璃月の身体は、触れれば溶けてしまいそうなほどに冷たくて。それでもその温度が嬉しくて、璃星は璃月を強く強く抱きしめた。
もう二度と離さない。璃月のことを、二度と一人にしない。
璃月のことを、分かれないこともあった。それでも一つになりたくて、璃星は璃月になってきた。今までに何度も。
璃月がいなくなってからの感覚はきっと、それと同じことだった。璃月に抱きしめられながら、璃星は思考する。
璃月のことが分からなかった。どうして璃星の元からいなくなったのかが分からなかった。だから、璃星なりに理解しようとしたのだ、きっと。
今となっては、そんなことはどうでも良くなっていた。もう死が二人を分かつことは無くなった。
思考の中で作りあげた幻ではない。本物の璃月が、隣にいてくれる。
それだけで、空っぽな璃星の全てが満たされていく。
璃星はきっと、世界で一番幸せだった。
₊*̥┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈☪︎₊*˚
✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
もうあなたから愛されることも
必要とされることもない
そして私はこうして一人ぼっちで
あの時あなたはなんて言ったの?
届かない言葉は宙を舞う
わかってるのに今日もしてしまう
叶わぬ願いごとを
離さないで
ぎゅっと手を握っていて
あなたと二人 続くと言って
繋いだその手は温かくて
優しかった
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♊︎Gemini #星巫女_璃星 #星巫女_璃月
⛓璃星/🔗璃月(cv.唄見つきの)
https://nana-music.com/users/1235847
₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴bataojisan様
https://nana-music.com/sounds/03df5e2a
✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
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