ふたりきり
Kakuly
ふたりきり
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ーー今日は待ちに待った花火大会!!
立ち並んだ屋台の前、楽しげな人々の声が響く。シャン、シャンと、お囃子も聞こえていて胸が高鳴る。
アイリスはぱあっと顔を輝かせて、後ろにいる館のみんなを振り返った。
「素敵……素敵ね! 私、お祭りって大好き!」
飛び跳ねて喜びそうなアイリスを、「せっかくのアップルティーが溢れる」と慌ててスカーレットが止める。
その様子を見て、フェリシアはくすりと笑った。
「お嬢様、楽しいのはわかりますが、絶対に迷子にはならないようにお気をつけくださいね。お嬢様が攫われたりでもしたら、私……!」
「ふふ、大丈夫よ。……ねっ、フェリシア!」
そう言って、アイリスはフェリシアに目配せをした。少しいたずらっぽく小首を傾げる姿に、フェリシアは自分の胸が高鳴るのを感じる。
そう。今日はアイリスとふたりきりでお祭りを回る約束をしているのだ。
「……姉様、僕が手を握ってますから! 一緒にいましょうね!」
「あっ、え、えーと……ロゥ、今日は、その…….」
アイリスの手をロルフがぎゅっと握ると、アイリスは慌てた。これではフェリシアとふたりきりになれない。
ロルフがアイリスには見えないように、フェリシアにべっと舌を出した。フェリシアはため息をつくと、アイリスに近寄り、その手を取った。
「坊っちゃま、ダメですよ。今日は私がお嬢様と手を繋ぐ約束をしているんですから」
……我ながら恥ずかしいことを言っているのでは、と一瞬思ったが、今日は全てお祭りのせいにしておくことにする。
特別な日だから、ちょっとくらい舞い上がったっていい。
「そ、そうなの! ごめんねロゥ」
アイリスは嘘も、隠すのも下手だ。このままでは聡いロルフにふたりきりを阻止されてしまうだろう。
「……アイリス、行くよ」
「! うん!」
フェリシアはアイリスの手をしっかり握ると、
「……後ろ!」
と言ってみんなの背後を指差した。えっとみんなが後ろを見た隙に人混みをぬって走り出した。
☕️.•*¨*•.¸🪶.•*¨*•.¸☕️.•*¨*•.¸🪶.•*¨*•.¸☕️
🪶夢に散らばった僕たちは
何もわからず生きていく
さよならが怖いならば
見ないように目を閉じて
☕️聞きなれた君の声は
明日の行き先を知っている
君が見たいものならば
僕が連れていくよ
転んで☕️
笑えたら晴れて
🪶君がいれば
🪶なんでもできるような気がして☕️
🪶星を描くその手をほら☕️
君と繋いで光っていたい
怖いものは何もないよ☕️
君と二人ならば
🪶空を高く飛べるような☕️
君のその笑顔で息をしたい
🪶怖いものは何もないよ
🪶君と二人ならさ☕️
☕️.•*¨*•.¸🪶.•*¨*•.¸☕️.•*¨*•.¸🪶.•*¨*•.¸☕️
ここまで来れば、と始めの場所からかなり離れたところで、フェリシアは立ち止まった。
「ふふっ、『後ろ!』って……みんなびっくりしたでしょうね! フェリシアに騙されたーって」
「……あれくらいしか思いつかなくて」
相当面白かったのか、アイリスはずっと笑っている。しばらく笑ってから、ふぅとアイリスは息をついた。
「でも、ちょっとドキドキしちゃった! 攫われるのも悪くないわ」
「もう、そんなこと言って……変な人にはついて行かないでよ?」
はぁい、とアイリスが返事をする。
「ねえ、ふたりきりになったんだから早速お祭りを回りましょ。私、わたあめが食べたい! フェリシアは?」
「私は、まず何か飲みたいかな。走ったから暑くて」
「それならあっちにジュース屋さんが出てたわ!」
「そうなの? よく見てたね、アイリス」
「フェリシアの行きたいところに連れていきたいと思って。もちろん、わたあめ屋さんもチェック済み!」
そう言ってアイリスは無邪気に笑い、フェリシアの手を引いて歩き出した。
「アイリス、わたあめ顔に付いてる」
「えっ、本当?」
「ほら。マダムにまた叱られちゃうんじゃない?」
「いいの! 今はフェリシアとふたりだもん。……それに、フェリシアも顔についてる」
「えっ」
「嘘でーす」
「……こら」
「あはは!」
屋台を楽しみながら、2人で他愛ない会話をして笑い合う。2人で夢中に過ごしているうちに、いつのまにか日が沈みきっていた。
そろそろ花火が始まる、と2人で屋台から少し離れた、花火がよく見える場所に移動する。
そしていよいよ、花火が始まった。
ぱっと光って、夜空を鮮やかに彩っては消えていく。
「すごい! 綺麗!」
「綺麗だね……」
はしゃぐアイリスと対照的に、フェリシアは少し寂しげな顔をしていた。
始まってしまえば、終わるのはあっという間だ。
「ねぇ、アイリス。……」
「どうしたの、フェリシア」
「……ううん、やっぱりなんでもない」
つい、口を滑らせそうになる。
フェリシアは想いをそっと胸の中にしまい込み、花火を見上げた。
ふたりきりのこの時間を、今はただ、噛みしめていたかった。
(散るくらいならいっそ、咲かなくたっていい……)
ふたりきりでいられるこの関係を、ただ続けていたいのだ。
【花火大会での行動】🪶☕️
館の方と一緒に花火大会に来ます。
そして、アイリスとフェリシアは少しそこから離れ、ふたりきりで屋台をまわったり花火を見たりします。
☕️Iris Gray (ひかげ)
https://nana-music.com/users/10039131
🪶Felicia Wood (眠たい羊)
https://nana-music.com/users/8079609
story ひかげ
illustration 眠たい羊
ふたりきり/Kakuly
https://youtu.be/wZkaKzSE3MY
#異形の館
#異ノ頭町花火大会
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