忘れじの言の葉
The Epic of Harmosphere 第1章
忘れじの言の葉
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第3節 幾千の魔女達は往き、忘れじの物語となる
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魔女見習いは古の魔女たちの物語を知る
喪われた者、或いは失われた物の物語
そこに潜むのは愛か、憎しみか
或いはまたそのどちらもかもしれない──
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「しあわせのやさしいまじょ」
むかしむかし、あるところに心やさしいまじょがおりました。
人げんたちはまじょをきらっていましたが、まじょは人げんたちといつか仲よくできるとしんじていました。だから、まじょはいつもこまっている人げんを助けてあげていました。
まじょはふしぎな力をもつまほうの花をもっていました。まじょはその花をこまっている人げんたちに与えます。
おくびょうな少年にガーベラを。
いじわるな老人にチューリップを。
はなればなれになった恋人たちにキキョウを。
そしてまじょの手もとには、まほうの花は一つも無くなってしまいました。これではもうこまっている人をたすけられません。
まじょがかなしんでいると、とつぜん空が明るくかがやき、ひらひらと花々がおちてくるではありませんか!人げんたちのまじょへの感しゃの気持ちが花になってまいおちたのです。
まじょはうれしそうにわらって、その花をあつめるとまた人びとに分けました。まじょはたくさんの人にあいされて、いつまでもしあわせにくらしましたとさ。
めでたし、めでたし。
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お披露目から3ヶ月。
まだ寒さの厳しかった季節は過ぎ、春を感じさせる季節になった。西の国へとやって来たヴィオレットは快適に日々を過ごしていた。
そう、初めの心配と裏腹にとても快適な修行の日々を過ごせているのだ。なんせアンネは良い師匠だった。アリソンにあらかじめ話を聞いてヴィオレット好みの部屋を用意してくれたし、魔法を教えるのも上手い。
「今日は座学の授業をしましょう。魔法を使いこなすには魔力(マナ)の基本知識も大切だから」
「はい!」
ヴィオレットはノートと教科書を開く。この教科書もアンネがまとめたものなのだというから本当すごい人だ。
「さて、この範囲は前回の復習だけど魔力とは何かは覚えた?」
「はい!魔力は万物の生命の源です。全ての命は魔力から生まれ、魔力に返っていきます。生まれつき魔力の量が多く、魔力を操作できるのが私たち魔女です」
「その通り。よく復習できているわ。魔力量は個人によって違うけれど、基本的には歳を重ねるごとに強くなっていく。長生きした木が神聖な力を持ち神木と崇められるようにね」
ヴィオレットは魔女たちの中でも特に長命な者たちの顔を思い浮かべる。確かに魔力の強い者ばかりだ。
「ただし魔力の使いすぎには注意が必要。少しくらいの魔力消費なら、使った後にゆっくり体を休めれば回復する。けれど魔力を使いすぎれば最悪死に至ることもある。魔力は生命の源だからね」
「じゃあ、自分の魔力量を把握するのが大切なんですね」
「その通り。魔力枯渇と同じくらい気を付けないといけないのが杖(ステッキ)の扱いね。杖と魔女は魂で繋がっている。長く引き離されたり破損されると魔女もダメージを受けるし、完全に破壊されると死に至る」
「死に……怖いですね」
「……そう。だから基本的に思い入れが強いものが杖になることが多い。命と同じくらい大切なものだから」
ヴィオレットは首から下げた鍵をぎゅっと握りしめる。母親の形見である小箱の鍵。思い入れのあるもの、というのはその通りだ。
「杖や固有魔法が途中で変わるということはあるんですか?」
「ある……らしいわ。でも噂で聞いただけ。杖も固有魔法も強い想いによって形成されると言われている。だから、そうそう変わることはないと思うけど」
「強い想い……」
「そう。強くなりたいと思えば強い攻撃力の魔法、賢くなりたいと思えばそれをサポートする魔法というようにね」
「私はどんな固有魔法になるんだろう……」
「慌てなくても魔力が安定してくれば、自然と固有魔法もはっきりしてくるはず……あぁ、もうこんな時間ね。座学はこれで終了。午後は魔力のコントロールの実技をするから、しっかり休憩しておいて」
そういうとアンネは教本を閉じ、自分の部屋へと戻ってしまった。
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「それで何の不満があるの?えーと……」
「ヴィオレットです」
「うんうん!おチビちゃんは何の不満があるの?弟子になって魔法を学びに来た!それなら今の状況は十分恵まれてない?」
「ヴィオレット……」
「すみません、諦めて下さい。アビゲイルは覚えたくないものは絶対覚えないので……」
午後の実技も無事終えたヴィオレットは魔術科学総合研究所へ足を運び、ソフィアとアビゲイルとお茶会をしていた。定期的に行っている魔術科学の勉強を兼ねた先輩魔女との交流会といったところだ。
「えっと、確かにアンネ先生は素晴らしい師匠なんですけど……なんて言うか、もっと仲良くなりたいんです。冷たいわけじゃなくて、むしろすっごく優しい方なんですけど何だかよそよそしい感じがして……」
「……アンネ様は昔いろいろあったので」
「弟子がみんな死んだからね!」
ソフィアはアビゲイルの口にテーブルの上にあったマドレーヌを無言で突っ込んだ。
「美味しい!」
「良かったですね。アビゲイルはしばらくそれを食べて黙っていて下さい」
「えっと……死んだって……?」
「……アンネ様は素晴らしい先生です。このアビゲイルの師匠もこなした程ですから。だからこそ多くの弟子がいました。けれど100年前の世界大戦でそのほとんどが……」
「あ……」
その言葉にヴィオレットは言葉を失う。世界大戦でほとんどの魔女は死んでしまい、残った魔女も対戦中にかけあった呪いの影響で命を落としてしまった。ヴィオレットの母親のように。
「そうだったんですね……」
「だから、アンネ様はそのせいで少しふさぎ込みがちなんです。貴女が嫌いという訳では無いので心配しなくていいですよ。誰かがどうこうできるものではありませんから……」
「……そう、ですね……それなら今は私に出来ることをしっかり頑張ります!まだ私は固有魔法も安定してないし……そういえばお二人の固有魔法はどんな魔法なんですか?」
「随分と遠慮がない質問だね!杖や固有魔法は魔女の命そのものなのに、教えろなんて!」
「ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃ」
「アビゲイル……」
「でも良いよ!教えてあげる!」
どうやらいつもが気紛れがヴィオレットにとって良い方向にに傾いたらしいアビゲイルはマドレーヌを飲み込むと、呪文を唱える。
「≪死者の奢り(ロフティ·ワーズ)≫!」
アビゲイルはそこに見えない本棚があるように手を伸ばすと、空中からするりと一冊の本が抜き取られた。黄金に輝く本が空中でひとりでにパラパラとページがめくられていく。そのページひとつひとつにびっしりと何かが書き込まれている。あれがアビゲイルの杖なのだろう。
「おチビちゃん、何でも好きな本を選んであたしの手に触らせて」
「は、はい!」
ヴィオレットが研究室の本棚から分厚い本を抜き取り、アビゲイルに渡すとアビゲイルの杖の表紙が鈍く光り始めた。
「……第1章魔力稼働人工物の独自性と生命の定義について本研究は魔力で稼働する人工物が如何に独自性を獲得していくかという過程とそれと比較すべき生命の定義について論ずることを目的としている」
「え?え?えっ!?」
「あたしの固有魔法!手に触れたものの記録をこの本にコピーして暗記できる!今は少ししか触れてないから第1章しか覚えられてないけど、もっと長く触れたら全部覚えられるよ~」
「う、羨ましい……!」
日々の座学の復習に苦戦しているヴィオレットには羨ましすぎる魔法だ。そんなアビゲイルを見てため息を付きつつ、ソフィアも懐から懐中時計を取り出し呪文を唱える。
「≪老いは知よりも早し(ビー·ワイズ)≫」
するとテーブルの上で空になっていたカップが一瞬で紅茶でいっぱいになる。
「これが私の固有魔法です。特定の対象の時間を止めたり、過程を飛ばすことができる。時を戻すことはできませんが……実験の時には重宝しています」
「なるほど……!」
どちらも研究好きの西の魔女らしい固有魔法だ。自分も魔法が上手く使えるように頑張らないといけない。ヴィオレットは紅茶を慌ててぐっと飲み干すと、拳を握りしめて立ち上がる。
「あの、お茶ありがとうございます!私、帰って今日の授業の復習をします!」
「ええ、頑張って下さい」
「ばいばーい」
走り去っていくヴィオレットの後ろ姿を見送るとソフィアはアビゲイルを横目で睨む。
「……アンネ様の過去や固有魔法。いつも肝心なことははぐらかすのに、今日は随分口が軽いですね。一体どういう風の吹き回しです?」
「ん~?未来へ向けての不確定要素を増やしとこうかな~って思ってさ!」
「どういう意味です?」
「さぁ?肝心なことだからはぐらかしとく!」
「…………」
怒気を放つソフィアは無言でもう1つマドレーヌをアビゲイルの減らず口にねじ込む。
「ならそれを食べてずっと黙ってなさい」
「んふふ!美味しい~!」
アビゲイルはいつも通り、掴み所のない笑顔でにやにやと笑ったのだった。
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🧸ソル・アルレッキーノ(cv.あんに。)
🎀ルナ・アルレッキーノ(cv.あかりん)
✒️アンネ・クリストファー(cv.中条瑠乃)
📓アビゲイル・ヘルキャット(cv.憂沢時雨)
🕛ソフィア・クラーク(cv.はいねこ)
🗡ジャンヌ・フォーサイス(cv.なぎ)
💍アリソン・フローレス(cv.香流 紫月)
🗝ヴィオレット・ホワイト(cv.朔)
🗝✒️面影虚ろって
🧸🎀微笑んだ幻
🗡💍想いの果てる場所
📓🕛まだ遥か遠くて
all:求め探して彷徨ってやがて謳われて
幾千幾万幾億の旋律となる
いつか失い奪われて消える運命でも
それは忘れられる事なき
✒️物語
ハモリ担当:✒️
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☪︎第1章 プレイリスト☪︎
①→https://nana-music.com/playlists/3770346
②→https://nana-music.com/playlists/3840176
☪︎素敵な伴奏ありがとうございました☪︎
狐のリサ様
https://nana-music.com/sounds/02b63374
☪︎ 𝕋𝕒𝕘 ☪︎
#リサ伴奏
#魔女ソル #魔女ルナ #魔女アンネ #魔女アビゲイル #魔女ソフィア #魔女ジャンヌ #魔女アリソン #魔女ヴィオレット
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