第1話 変わらない日常が実は幸せだって言うけど
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第1話 変わらない日常が実は幸せだって言うけど
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こんにちは。僕の名前は夕立 優真。ゆうだち、ゆうまだよ。え?何で二回言ったかって?その方が親切ってものじゃないか。何を不思議がることがある。
何せ僕はこの物語の主人公だからね。名乗っておくに越したことはないさ。
そうだろ?
「何一人でにやにやしてんの。」
「優真っちきもーい。」
「突然現れたかと思えばなんて失礼な奴らだ。」
僕の目の前に現れたこのモノクロコンビは、霞見兄弟。世にも珍しい双子である。
兄の昴は全体的に黒いし、反対に弟の周は全体的に白い。むしろこいつら本当に双子か?と言いたくなるくらい真逆な色彩なため、僕は分かりやすくモノクロコンビと呼んでいる。
え?今どき双子なんて珍しくないって?どこの世界の話をしている。僕が生きているこの世は今も昔も、双子は珍しいものとして有名だ。
「まあまあ。ほら、昴が話す相手って少ないんだからさ、むしろ喜べば?ね!昴。」
「ん。」
「なんだその押し付けたような善意は。」
これだもんなぁ。僕はガクッと肩の力が抜けた。
この二人はいい意味でも悪い意味でもマイロードをゆくので、周りは合わせるのが大変なのだ。
悪い奴らではないのは分かるけど…ね。
「それで?何か用があったのか?」
「え?別に?優真っちが一人でにやにやしてるのが見えたから、からかってやろーって……あ。」
「今フォローのしようがない程ハッキリと"からかってやろー"とか聞こえたけど?」
「優真はからかわれたくないのか?」
「むしろ昴は進んでからかわれたい人間がいると思うのか?」
「……?」
「そこで首を傾げられても困る。」
僕はどうにかしてこの二人から逃れる術を考える。
しかし、何だかんだと理由を付けて付いてくる気満々な二人から逃れる術など、簡単には思いつかない。
それというのも、何故かある日から気に入られてしまった僕は、度々この二人のおもちゃにされてしまっているのだが、毎度毎度諦めが悪いのである。
とは言え、二人のことは友人と思っているだけに、手荒な真似など出来ようはずもなく……強行的に餌付ける他ないのだ。
「そういえば。」
「どしたの、優真っち。突然……」
「今日、○○デパートでチョコレート展とやらが開催されるらしいのだが、二人で行ってみてはどうかな?」
「チョコレート…!!」
「今はもう放課後だし、帰りに寄ったってバレなければ怒られないさ。」
「行く。」
「そうだね、昴。急ごう!!」
「ん。」
物凄い勢いで二人は僕から離れていった。
しかし、この方法もチョコレート展をやっている間しか使えない。次なる手を考えておかないとな。
僕もゆるりと下駄箱に向かう。
その道中では必ず稽古場を横切ることになる。
そこに見つけた二つの影。
あれは……流狼先輩と、逢花ちゃんだ。
今は逢花ちゃんの銃撃を、流狼先輩がいなす特訓をしているようだが、二人は目に見えて疲れきっていた。
さすがストイックな修練の鬼と言われる流狼先輩と、その先輩に認められた逢花ちゃんである。レベルが違う。
とはいえ、このままでは二人が倒れかねない。
そう思った僕は、近くの自販機で水を二本購入すると、二人に近づいた。
二人は瞬時に僕の存在に気づき、体の動きを止める。
「二人とも、お疲れ様だな。特訓もいいが、あまり無茶をするもんじゃないぞ。」
「ゆーだち先輩!!お疲れ様ッス!」
「逢花ちゃん、相変わらず特訓後とは思えないほど元気だね。」
「まだまだ……限界には遠い。」
「流狼先輩はちょっとはりきりすぎだな……。」
「先輩、もしかして差し入れ持ってきてくれたんスか?」
僕は、逢花ちゃんの言葉を聞いて、「まあね。」と二人に水を差し出した。
二人はそれを嬉しそうに受け取り、ごくごくと飲み干す。やっぱり体は正直のようだ。水分を欲していた二人の体は、驚くほど勢いよく水を受け入れた。
「先輩は特訓しないんスか?一緒にとか……」
「二人に合わせてたら僕はきっと死んでしまうよ。」
「そんなことはない。誰でも強くなれる。特訓は嘘をつかない。」
「やる量が尋常じゃないんだ!!!キミらは!!!」
思わずつっこんでしまった。
少しこの二人は天然の気があるのだ。
二人は不思議そうに首を傾げた。
デジャヴ。なんだか今日は首を傾げる動作をよく目にするな。
僕は「じゃあまた!」とそそくさとその場を去った。
そして、やっとたどり着いた下駄箱。
僕はなんだかドッと疲れた思いをしながらも、靴を履き替えた。
「あら、優真くん。やっと見つけた。」
「雨傘先輩?」
振り向くと、雨傘先輩が僕を見てにこにこと笑っている。
なんだろう。すごく嫌な予感がするぞ。
これは外れないタイプの嫌な予感だ。
きっと、ろくでもないことに……
「今日優真くんは、美化委員の担当だったはずでしょ?お掃除……するわよ。」
「ハイ!!!!」
久しぶりの雨傘先輩お怒りモード!!MAX!!
そうだ、すっかり忘れてた!
今日の僕は掃除当番だったんだ。
「す、すみませんでした。」
「あら。謝れる子は、お姉さん好きよ。」
「が、頑張るんで魔獣の刑だけはどうか……」
「ふふ、いいわよ。許してあげる。」
はぁ……
こうして、僕の放課後は終わりを告げた。
明日も学校なのに……
僕に癒しをプリーーーズ!!!
2話 https://nana-music.com/sounds/0639d5c0
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