寂しい時は長い話を リクト
和ぬか
寂しい時は長い話を リクト
- 7
- 1
- 0
「…ふーん、お前が流れのバーテンねぇ…」
プカァ…煙のクラゲが店を泳ぐ。…ここはアキネの店。しかし今はアグルが主を担っている。
「ええ、アキネさんからお話は伺っておりますよ。ふふ、よろしくお願いいたします」
穏やかな笑顔。酷く色素のない男…目は光によって赤や緑、青へとコロコロ変わる7色。髪は金髪だが、ヤミィのような輝くきんではなく、儚い煌めきのように消え失せそうな白に近い金…。微笑む目元でまつ毛がキラキラと光っていた。何とも酒とは離れた俗世を感じない佇まい。
「…珍しい容姿だな。亜人か?」
「いえいえ、僕は人間ですよ。よくセイレーンや白鳥の獣人に勘違いされますけどね」
恥ずかしそうに頬を人差し指で掻いた。
人間は日光に晒されるほどに色素を帯びる。黒い色に近いほど日光に強い耐性を持つ。しかし、ごく稀に色素を殆ど持てずに生まれる子供がいる。雪国など日光が余り当たらない環境で生まれることがたまに報告されている。
「俺も話には聞いた事あるけど…へぇ、珍しいなぁ…本当に見る方向で目の色が違ぇのな」
「あ、あまりジロジロ見ないでくださいよ。僕は目立つのは苦手なんですから。アキネさんのお店は、美人の店主のおかげで静かに仕事が出来ました」
「それなら大船に乗った気でいろ!なんせイケメンの俺が新店長だからな!」
顎に手を添えてキリリとキメるアグル。それでも彼は穏やかに微笑む。…おいおい、頼むから突っ込んでくれよ!
まぁ、お手並み拝見させてよ!と男に一杯頼むアグル。シャカシャカと氷の踊る音が部屋を巡る。
「ところで、何で流れのバーテンなんて特殊な仕事してんだ?…えーっと」
「リクト…です」
あぁ、悪ぃ…とアグルは笑う。
「見ての通り、僕は太陽の下にずっと居るのはあまり良くなくて。これでも昔に比べればだいぶマシになったんですけどね。児童院にも満足に通えず…いつも周りは大人達ばかりでした。そのお陰で話を聞くのが上手くなったし、それに…寂しがり屋にもなったと思います」
ふふふ。笑いながらリクトはグラスを取り出す。
「家の外に出て行かれたら、子供の頃の僕は追いかけることも出来なくて…。人が居て、話を聞ける空間が僕の癒しだった。彼らに喜んで欲しくて、もっと話しが聞きたくて…いつしか大人はお酒を飲むのだと僕は知りました。お酒の場では皆ほろ酔いで…楽しそうで…沢山の話を交わしていました。それってとても素敵じゃないですか?」
コトリ…アグルの前にカクテルが置かれる。
「これは…」
「マタドール。酔蘭の酒はテキーラに似てましてね。それに、アグルさん…元々お店に居た方ではないとお聞きしましたが…何か、体を使うお仕事をしてましたか?それこそ…傭兵のような…。その強いオーラをお酒にしてみました」
「ほほぉう!分かるかねぇ、君ぃ!まあ、詳しくは話せねぇけどよぉ、それはそれは危ねぇ仕事をしてたんだよ俺は!特にあの時はヤバかったよなぁ…」
まるで魔法…一杯のカクテルを出しただけで、アグルは楽しそうに話し始めた。それを嬉しそうに、慈しむように聞き入るリクト。話とともに、酒はスルスルと進んでいく。
「…かぁ!うめぇ!!…しっかしあれだよな…何でここまでの腕があるのに店も持たずに渡り歩いてんだよ?これなら直ぐにでもファンが出来そうなのになぁ」
飲み終わったグラスを洗い、キュッキュッと磨きながら微笑んだ。
「寂しがり屋だからですよ。僕は、人のいる所に居たいんです。お店で待つより性に合ってます」
ふーん…酔いが回って赤い顔のアグルが優しく微笑んだ。
「…ニュクス…まさに夜の申し子ってか…。気性の強い憑神だが…リクトの穏やかさが丁度いいカクテルになった相性なんだな…」
半神の目で呟いた。
今日はアグル店長の初開店。アキネが手を回してくれたのかリクトが開店前からいてくれて、来る客も常連ばかり。慣れない飲み屋の仕事だが、皆の助力もあってとても好調だ。
「相変わらず、いい酒出すなぁ!最高!!」
「あ!り、リクトさんですか!貴方のお酒が飲みたくて探してたことあるんですよ!幸せだなぁ」
「おい、今日の摘みは辛いもんばっかだな!」
…何で俺だけダメ出しなんだよ!アグルの叫びに湧く一同。この賑やかさに、リクトの寂しい心が温かな風呂のようにとっぷりと温もりを与える…
「遅くなりました!新店長、おめでとうございます!アグルさん」
ニフが仕事で疲れた顔をしながらも微笑んで店を訪れた。
「おう、いらっしゃー」
「あ!リクトさん!お話したかったんですよ!会えて良かった!!」
なんだよ!お前もリクト目当てかよ!!突っ込むアグルを尻目にニフは話を続ける。
「秋のハロウィンに是非お力をお借りしたいんです。どうかお仕事の腕を奮って貰えますか?」
「お祭…!良いですね。賑やかなのは好きですよ。では、僕の取っておきを振る舞うとしましょう」
いつもの優しい微笑み。まつ毛は月に照らされ、儚い光を放っていた。
‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦
リクト 人間
バーテンダー
ニュクスのカミツキ
三期もよろしくお願い致します!!
コメント
まだコメントがありません