キリエと軍師
Mrs. GREEN APPLE
キリエと軍師
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「祭のパレード…ですか」
この話を誰よりもすんなりと聞くであろうというニフの算段は外れた。キリエの門に立つドラコン族が答える。トーンの落ちた声は、どうも気が乗らないという気持ちを言葉以上に饒舌に語っていた。彼女の暗く浮かない顔に、初めて会った時の緊張感を思い出しながらニフはオズオズと見上げる。蒼の鱗、凛とした佇まいの顔に片方折れた角…。
「…ん?どうしました、ニフ殿…」
「ひゃ!…あ、その!…何となく乗り気ではないというか…お嫌でしたら他の方に相談してみますが…」
ニフは目を逸らして両手で互いの人差し指を突き合っている。…いけない、うっかり感情が出てしまっていたのか!急いで微笑むも、元首都アヴァロンの軍師…威圧感は拭えない。益々ニフは縮こまり焦り出す。
「あああ、いや!違うのです!!昔はパレードやら祭事にお飾りとしてよく駆り出されていたもので…飽き飽きしていたのを思い出していましてね。…はぁ、ワイバーンの騎龍術やら剣術、兵の手合せに団体行動…軍人の教育管理も私の仕事でしたので、そう聞くとついゲンナリしてしまうのですよ…」
首都で高い地位にいた存在だ、みりんにとって『腕を見せつける』なぞ、嫌という程やったのだろう。
「で、ですよねー…あはは、キリエじゃみりんさん程の規模でお祭りは出来ないですし…そうですね、所長や他の兵の方に声かけてみます…ありがとうございました」
トホホ…と項垂れるニフの横から大きな声とバタバタ走る音が聞こえてきた。
「みりんせんせー!今日は回し切り教えてくれるんだろ!楽しみだから早く来ちゃった!!」
「みりーん!俺は魔法の稽古頼むぜ!!」
「先生、私初めてですけど習っても良いですか…!?」
振り向くと何人もの子供達がみりんを取り囲んだ。…初めての社会科見学の時は泣き出す子が出るほど怖がられてたのに…今や児童院の先生顔負けの人気っぷりだ。元々プロの剣士を何百人とまとめ指導してきただけはあり、親御さんからの評判はニフの耳にも届く程。みりんは早速魔法で氷の標的を作り上げると、子供達に剣術や魔法を教えだした。…中には新人の兵士までいる…。アヴァロンのお飾り役職に嫌気がさして移転を望んだこの土地で、自分が培った技で確かに彼女はしっかりと根付いている…ニフは微笑みながら見詰めていた。
ヒュオォ…木枯らしが強く吹くと世界樹の枯れ葉がヒラヒラと舞う。子供の一人が無邪気に笑って言った。
「去年の木枯らしの踊りすごく綺麗だったな…!今も踊ってるのかな?精霊ってやっぱり強くて綺麗で凄いよな!」
「私も…あんなふうに凄い存在になりたいな…」
その言葉にみりんは剣を振るった。
「こら!余所見は禁物だ!!…でも、君達は立派な剣術と魔術をしっかり持ってる!何故なら、私の訓練に耐えているからな。私が保証しよう!!」
「そうですよ!皆さんはキリエの宝です!どんな立派な大人に成長するか、理事会員としてとても楽しみです!」
みりんとニフは微笑みながら子供達に言葉をかけた。そして笑顔のまま二人は顔を見やる…は!!同時に二人の顔は何顔思いついたように目を見開いた。
「さ、さっきの話なんだが!」「あの、さっきの話…!」
二人は顔を赤くしてどうぞどうぞとジェスチャーしあったが、やがて二人は話し出す。
「あの…アヴァロンでの催事の出し物って、まだその指導は出来ますか?」
「うむ…実は私も同じ事を考えていて…出来れば一部有志の子供とその親への許可を取り付けて欲しいのだが…」
二人は次第にニヤニヤとしながら話し始め、どうやらその策略は纏まったようだ。私から話をつけますので、後はよろしくお願いいたします…と言い残し、ニフは走り去った。
訓練に勤しむ可愛らしい子供達、目を閉じるとあの日の訓練風景が目に浮かぶ。前線に立ち部下を必死に育て出来た実績は、同僚の突然の転職をキッカケに花を咲かせてしまった。いつしか立派な役職が着き、偉そうな椅子に座って書類と格闘し、指示を飛ばすかパレードの華になるだけの仕事…。心にチャプチャプと雨が降る。
「それをここでもまたやろうとしてる…でも、もう私はあの時と違うのだよ!…さあ、子供達!!明日から特別メニューだ!厳しくいくから期待してくれ!!」
おー!マジか!!と子供達の歓声。腕なら見せてやろう…キリエで培った生き方と共に…。
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門番 みりん
三期もよろしくお願い致します!
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