シニカルナイトプラン
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
シニカルナイトプラン
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__ℍ𝕒𝕧𝕖 𝕒 𝕕𝕚𝕤𝕥𝕠𝕣𝕥𝕖𝕕 𝕟𝕚𝕘𝕙𝕥.✩₊*˚
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千歳が死んでしまってから、1ヶ月が経った。
まだその事実を受け止めきれていないのに、心だけは異常なほどに穏やかに冷え切っている。一種の現実逃避なのだろうか?千歳の死を認めたくない、受け入れたくないと思っているのに、あの日ほど大きく感情は動かなくなった。
きっとこの感情を「諦め」というのだろう。祈鈴がどう足掻いても藻掻いても、既に失われてしまった命は戻って来ない。そのことを嫌というほど理解しているからこそ、感情を表に出すのが全て無駄なように感じられて、心が冷めていく感覚に陥る。怒りも悲しみも後悔も沸々と募っているのに、どこか遠くからその感情のマグマがせり上がってくるのを眺めているような、そんな風に感じられた。もう、涙も枯れ果ててしまっていた。祈鈴の中には、何も残っていなかった。
咲羽に出会って初めて直視した自分の小さな翼を、世界にへし折られてしまった祈鈴は。もう、どこにも行けなかった。
今の祈鈴に許されたのは、膝を抱えて過去に縋ることだけだった。
千歳の死因は、心鍵を手放したことらしい。
心鍵を手放せば、星巫女でなくなる。星巫女でなくなれば、命を落とす。つまりはそういうことなのだろうと、千歳が死んだ時の様子を祈鈴から聞き終えた刹那は告げた。
星巫女でなくなったのなら、死んでくれなんて。なんて傲慢を押し付けられているのだろう。やるせなくて、それでも抵抗する術は何一つ持たされていない。当然だ。被支配階級には、抵抗する術を持たせてはならない。飼い犬に手を噛まれるリスクは、低ければ低いほど良いのだから。
それでも、祈鈴は千歳の死を止められた。
千歳の行動は、中央政府と何ら関連していなかった。彼女は、彼女自身の意志で、心鍵を手放すことを選んだ。
ならば、祈鈴はそれを止められたはずだった。彼女が何をしようとしているのか、分かっていたのだから。
千歳の死を止められたのは、祈鈴だけだった。だけど、祈鈴は止めることを諦めた。遠ざかる彼女の背中を、ただ眺めていることを選んだ。
それは、到底許される行為ではなかった。強い後悔と懺悔が胸を焼き焦がすも、もうどうすることも出来ないのだ。過ぎ去った時間も、失われた命も、元には戻らない。
誰も祈鈴のことを責めようとしないのが――祈鈴が取った行動の全てを知った刹那でさえ、祈鈴を糾弾しようとしないのが、余計に辛かった。
いっそのこと、千歳の死は祈鈴のせいだと責め立ててくれれば、むしろ救われるような気がするのに。
その日の星天界は、四人の星巫女が揃っていた。
水色の髪を揺らす水瓶座の雪涙、相も変わらず瓜二つの容貌をした双子座の星巫女、璃星と璃月。そして、牡羊座の星巫女である祈鈴。
皆一様に暗い表情をして俯いている。当然だった。儀式を行えば、また自身の心身を消耗することになる。星巫女の務めを果たすことは、自分の寿命を削るのと同義だ。
だけど、儀式が行われないことには帰れないのだから仕方がない。せめて少しでも症状が軽くなるように、召喚された全員で同時に儀式を行う。それが星巫女達の共通認識であり、暗黙の了解だった。
静まり返った星空の下、ヒューヒューという明らかに異常な呼吸音が鼓膜を揺らした。そっと顔を上げて周囲を窺うと、双子の内の一人がその場にへたりと座り込んでいた。過呼吸気味に吐き出された域に混じって、酷い咳の音が漏れている。
双子のもう片方――祈鈴には璃星と璃月の区別がつかない――は座り込んだ少女に付き添って、ぎゅっと手を握っている。二人だけの空間、と呼ぶに相応しいものがそこにあった。
行き場のない視線を、彼女達の方へ向けていると。不意に一人が顔を上げ、祈鈴とはっきり目を合わせた。そのまま彼女は立ち上がり、祈鈴達の方へ歩み寄ってくる。
「相談させてほしい」
意外なことに、告げられたのはそんな言葉だった。まず感じたのは、純粋な驚き。世界には二人だけしか存在していない、とでも言いたげな振る舞いを見せていた双子が、他の星巫女と会話出来たのか、という。
そんなことを思うのがもっともなほどに、彼女達は今まで一切他人との関わりを拒絶していた。初めてはっきり「双子の内の一人」としての声を聞いたかもしれない。彼女達が歌う時は、常に二人が一緒だったから。
透き通った幼いその声は、微かに震えていた。
「璃月は、ボクよりもずっと身体が弱い。今も、すごく辛そうで。だから、召喚を止めるか、体調を悪化させない方法を探したい」
一音一音を区切るように、存外はっきりと彼女――発言から立ち上がった少女の方が璃星なのだと分かった――は告げた。
祈鈴が何か同調の言葉を返すよりも先に、隣にいた星巫女が先に口を開いた。
「私も……私も、前よりずっと辛いですけど……それ以上に、灯莉のことが心配です。灯莉は、無理してるから……だから、私も、探したい、って思います」
途切れ途切れの、たどたどしいその言葉は。不器用でも、それでも真っ直ぐ星天界に響いた。
二つの真っ直ぐで一生懸命な、一所懸命な声が、祈鈴の元に届いて。
痛くて痛くて堪らなくて、耳を塞いでしまいたくなった。
冷めきった心が、冷えて凍って荒んでいく。急激に冷え切った心が、氷の棘に覆われていく。視界に映る色が、くすんで濁っていく。
咲羽も千歳も死んでしまったのに、今更そんなことを探したって。何になるというのだろう。何をしたって、祈鈴が救われることなんてない。
彼女達二人の言葉は、教科書に載っているような綺麗な響きをしていて。
それでも結局は皆、ただの自分のエゴのために動いている。心の底のどこかで、死んだのが自分の大切な人でなくて良かった、なんて考えている。
教室とまるきり同じ構図だ。出鱈目な噂話が広まるのが、無視されてくすくす笑われるのが、自分でなくて良かった。自覚があろうとなかろうと、誰もが皆そんな感情を抱えている。
祈鈴自身も確かに持っているその感情が、汚く思えて堪らなかった。
「……そんなの、死んだ人が戻ってくるわけじゃないのに」
行き場のない怒りと苛立ちと嫌悪感が募って、反射的にそんな言葉を吐き出していた。慌てて口を噤むも、もう遅くて。一度放たれた言葉を、無かったことには出来なくて。
祈鈴の言葉を聞いた二人が、はっとしたように息を呑む。
「ご、ごめん、なさいっ……」
雪涙が泣きそうな声で、謝罪の言葉を口にした。罪悪感を搔き立てられるその声色も、どこか遠くで鳴っているかのようだった。
二人が悪いわけではない。自分の感情制御すら出来なくなってしまった、出来損ないの祈鈴のせいだ。
「普通」でいたかったはずなのにな。
腕いっぱいに抱えていたはずの感情の残りかすが、そう呟いた。普通でいられないのは、怖いことだったはずなのにな。
みんなが綺麗ごとを唱える中で、一人それを否定するなんて。どう考えたって普通じゃない。やっていいことじゃない。
なのに、祈鈴の中に恐怖が湧くことは無かった。襲い来る恐怖の感情が、分厚い氷の壁に阻まれているように。
「怖い」の定義が丸ごと塗り替えられて、上書きされてしまったかのように、昔のような切迫した苦しみも、恐怖も感じなかった。
誰も何も言葉を発さない、無言の時間が流れる。祈鈴が作り出した、空気の凍った時間が。
どうでもいいや、もう。
本来感じるはずだった恐怖の代わりに、そんな諦めが湧いた。
全ての感情を遮断してしまえば、代わりに諦めが訪れるらしい。
ふと見上げた星天界の窓硝子からは、頼りなくか細い星の光が点滅していた。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
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✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
⛓触れてみたい秘密と 🔗壊してみたい夜の中で
☘⛓🔗❄間違いだらけの遊びしようよ
❄別に意味とか無いけどさ
眠い目を擦る あれ?待ち合わせは何時
☘君はまだ履き違えてる
また間違えてる
それで?あなたは誰なの
⛓こうして居たいが痛いのはお互い様
❄目が合う度に 名前を呼ばないで
🔗どうやったって見たいの? 隠さないから
☘私のフリした私で良ければ どうぞ
☘⛓🔗❄塞ぐ目に堕ちる景色の様に
❄霞む私は誰のものでも 無いの
☘⛓🔗❄buy me so feeling からかわないで
☘私だけに見せて 歪な夜をどうぞ
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♈︎Aries #星巫女_祈鈴
☘️祈鈴(cv.朔)
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♊︎Gemini #星巫女_璃星 #星巫女_璃月
⛓璃星/🔗璃月(cv.唄見つきの)
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♒︎Aquarius #星巫女_雪涙
❄️雪涙(cv.海咲)
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₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴ころリ様/ちょん田中様
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✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
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