闇を歩む者
亜沙 feat.重音テト
闇を歩む者
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「確かに、世界の柱だからね。お宝が見つかってもおかしくない場所というか…。最近じゃ割と浅い場所でもいいものが見つかるって言うじゃん?…ま、気晴らしさ」
移動販売の珍しい商品目当てに来ていたレオから、世界樹の探索を勧められた。高価な鉱石や蛍石、珍しい植物の種などがここ最近よく取れるのだそうだ。見つけたものは原価がかからない。沢山見つけたら、世界樹が遠いエリアで売ろう。そう考えて森へとはいる…暑さが残る空気はやがてグズりだし、嫌な湿度を籠らせると、ついにシトシトと泣き出していた。
沢山の木々に囲まれ薄暗いキリエ。そのさらに奥地、世界樹の森…空は雨。木漏れ日もないそれはもう闇夜のようだ。クロエは仕方なく荷物から蛍石のランプを取り出して辺りを照らす。葉に当る雨音が耳に心地よい…。黙々と闇を歩くクロエはぼんやりと目の前で崩れたあの人形の事を思い出していた。
「嫌な仕事を受けたもんだなぁ…けれど、情報屋…この事を知ったのは大きな収穫だ…あぁ、そう素直に思える自分がなんだか悲しい…けど、仕方ないね」
この仕事のお陰で、闇で妙な人形が流通している事やその人形は禁呪や複雑な呪詛を歪に組み込んでいる事、そしてその素材は生き物…それこそ、場合によっては人が使われている可能性がある事がわかった。ランプの光を頼りに進むが、闇は濃くなる。まるで自分の仕事のようだ。何度も、何度だって情報を集める度に闇を見つめ、危険に晒された。それでもフラフラと飛び続けるクロエ。あぁ、怖いな…まるで夜のようだ。
むかしむかし、母子家庭の家族がいた。美しい黒髪と漆黒の翼の美人の母と娘。鳥とも動物とも取れぬ獣人の二人は世界樹から離れた小さな集落に住んでいた。そこは獣人のみが暮らす、閉鎖的な集落だった。獣の尾や耳を持たず、鳥のような羽も持たない。二人はこの集落では浮いた存在だが、獣人特有の仲間意識からか集落を出るのははばかられる雰囲気があった。そして何より…
「愛したあの人が眠っている場所だもの…私はここで暮らせて幸せよ?」
母はここから出ていくつもりはなかったようだ。容姿もよく、気立ての良い母…外に出ればこの貧しい暮らしは良くなるかもしれないとクロエは何度か思ったが、母は必死にこの地で働いた。夜行性の獣人…夜の街を守る危険な仕事や酒場に出向いて客をもてなすなど、水商売もこなしていた。クロエは夜が嫌いだ…母が外へ出ていく。今日は酒場で変な客に絡まれないか、それとも警備の仕事で怪我をしないか…。夜が深まるほど、孤独に苛まれる。
そんな生活が続いた。それでも二人力合わせて幸せに暮らせれば…そう思っていたが、クロエが独り立ちを迎える年齢を迎える前に母は突然物言わぬ姿で帰ってきた。朝焼けを迎え、悲しみと反比例して明るく輝く空の元、動かぬ母がクロエの元に運ばれた。一人夜の集落を警備中、魔獣に襲われたと…。悲しみが心を沈める中で、クロエは強い違和感を感じた。一人…警備を?可哀想にとクロエを憐れむ声に埋もれながら、母を愛する父の元へと埋めてやった。
それから数日塞ぎ込んでいたが、意を決したようにこの集落を出て行く事を決意した。その日は雨が強い日だった。見送る友人の前に立ったクロエは美しい黒髪を短く切り落とし、美しい顔をサングラスで隠していた。
「私は…いや、僕はまだ力がない。何を聞いても大人達は真実を教えてはくれない。僕は…母さんのようなこの地の未練はない。だから出ていくよ…でも、必ず帰る。母さんに何があったか知る力を得たら。必ず」
まるで夜のような暗い空だった。コウモリ傘をさしたクロエは友人に手を振って行ってしまった。
「復讐だったのかな、自暴自棄だったのかな…今になっても僕の判断が何故なのかわかんないや。でも、あの日がなければ、僕は情報屋にはならなかっただろうな」
ランプを持ったクロエは独り言を呟いた。
数年をかけ、集落の内外から情報をかき集めた。あの日の事実はこうだ。本来、警備を行うのは二人のはずだ。軍所属ではない日雇いの母なら尚のこと一人で仕事など絶対にするはずがない。その日は理事会への就職を目指す村長の息子と二人で警備をしていたのだが、息子の不注意で魔獣が入り込んでしまった上に、襲われそうなところを母が身を呈して守った。完全に息子に落ち度があったが彼は権力者であり、理事会員への道に差し支えるとの事でこの事実は葬られた。怒りに狂いそうになったが、母の言葉を思い出した。『愛したあの人が眠っている場所だもの』…クロエは息子が理事会員になり集落から出ていった事を確認すると、理事会のコネを伝って事実をリークした。
「あの場は大事な場所だから…これで許してあげる」
後日、息子は未だ無職のまま集落のお荷物になっていると聞いた。
「本当に、事実って救いにはならないよね。こんな仕事してても知るのは怖い…。夜が来るのが怖いように…って、本当に夜みたいだなぁ、なんもないし帰ろっかな」
はぁ…とため息を着くとキラキラと光るものが見える。駆け寄ってみると、ヒカリゴケと月光茸が密集している。闇は怖いが、闇の中でしか分からない光もあるか…。クロエは少し笑うと早速収穫にかかった。
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光のマナを手に入れた
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