その薄闇は何処までも深く
東京事変 yummy
その薄闇は何処までも深く
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夕闇、チラホラと店が閉店の準備を進める時間。ローブの男が異国の呪詛を数点買った。きっと彼が今日最後の客だろう。静かにサングラスを外すと鋭い目で笑って毎度あり!と金を受け取る。手には金と紙切れ…。あぁ、夜がくる。クロエはため息をついた。
『事が事だから、俺一人で情報を教えていいか判断が出来ない。だから、本依頼者の商人の情報を教えておく。そいつに話を聞いて情報を受け取ってくれ。そいつがあんたに渡した品をあんたの露店の店頭に並べたら、それが依頼終了の合図だ。頼んだぞ』
金を見てみると金貨が混ざっていた。前金は強制したことがない。必ず成功させろという圧力を感じる。
「大変だねぇ、自分で判断できないって…僕には考えられないな、そんな窮屈なこと」
フラフラと飛ぶ蝙蝠の如き。誰の従者でもない、どんな団体にも属さない、味方も敵もいない。なんの力もない代わりに、誰一人もクロエを抑えられない。孤高の特権…。夜がくる…荷物を宿屋に置くと、クロエは翼をしまい、静かに暗闇に紛れていった。
キリエの門を抜けて、いやに寂れた集落へ辿り着く。その中の民家と変わらない平凡な家の前に立った。危ない商売で荒稼ぎする商人のアジト…。ほかの人ならその質素さに肩透かしを食らったと思うだろうが、クロエは慣れたものである。ここの人セオリーを守るなぁ、ちゃんと目立たないようにして…と笑った。ノックをすると農夫のお爺さんが出てきた。誰かね、アンタァ?と聞いて来たが、奥から別の声がそれを制止した。流石に住民までカモフラージュしてるとは…徹底している。あぁ、やっぱり受けない方が身のためだったかなぁとぼんやり考えていたが、その声は中に入れとクロエを呼び付ける…。このドアを潜ればこの仕事から逃げられない…どうする?クロエは覚悟してドアを潜った。
「ふーん、アンタが情報屋?」
案の定、豪華に着飾った羊の獣人の女が座っている。確実にこの家の者ではない。理事会や軍の目を逸らすためにこの家の人間ごと買い上げたのだろう。周りには物騒な男達がクロエを睨む。女がゴロツキに目を配ると、子供を部屋の奥から連れ出した…いや?子供じゃない…?
「生きた人形。悪趣味よね、でも高く売れるのよ」
人形は可愛らしくお辞儀をすると歌いながら踊った。しかし、肉の焼ける匂いとぶすぶすと嫌な音を立てて崩れ、動かなくなった。
「所詮、命なんて作れないのに、人って業が深いわよね。これは売れ残り。どんなに頑張っても1ヶ月はもたない。どこかが腐って壊れるの。こんな醜いものに沢山の金が動くのよ…」
「…腐る?魔具じゃないの?」
「そんなの、可愛い人形にならないじゃない?最初は動物や死んでしまった子供の一部を借りてたんだけどね。質の向上と需要の為に、最近は集落や外に出歩く若い子なんかを…まあ、そんな話はやめましょ」
崩れ落ちた人形だった物は男達がガラクタを片付けるように違う部屋に持ち去った。改めて、危険のない身を緊張させた。誰にも属さない身…彼等の仲間なら、この胸糞悪い夜は明けないだろう。
「僕好みの仕事じゃないな。この夜はこれ限り。それが条件。今後は僕は君に関わらないし、そっちも。OK?」
「貴方が敵対する行動をしなければね。したら命はない…私も貴方も…あの方に…」
彼女の顔が一瞬強ばる。この話はもっと闇が深い事を抱えているのがクロエにはよく分かった。女は仕事の内容を詳しく話す。この人形を買った者へ運ぶ仕事をしていたマーマンの男がある日突然消え去った。一体の人形を盗んで…
「ブツを持って密告かと恐れたけど、動きはなかったわ。もうどうせその人形も壊れてるでしょ。とにかく男を捕まえたいの。本当はそこまでお願いしたいけど、情報だけでいいわ。小さな事でもいい…貴方のいる街の近くにいるみたいなのよ…頼んだわ」
マーマンの男の経歴も聞き、飛竜便で故郷に行く。親の葬儀を終え、海を見ていたところ何者かに襲われてから姿を見なくなったとの事だった。海には彼と誰かが居たらしいが、後で見ると襲いかかったならず者だけが倒れていただけだったらしい。
そこから彼の働いていたアジト、昔の仲間も割り出して何日も聞き回った。あまり宿を使わなかったようで情報を追うのに苦労したが、最後に利用した宿を見つけさらに忘れ物も入手した。中には男の服と人形のものだろうか?綺麗な子供服が入っている。その先の情報は掴めなかった、きっとどこかで野営をしているのだろう。クロエは忘れ物と情報を女に渡し、女から合図の代わりである商品の雪林檎を手渡された。
キリエに帰り店を開いてローブの男を待っていると、ローブの男が現れた。一瞬依頼主かと身構えたが、マーマンなので違う…マーマン?まさか…と思った瞬間、ローブの少女が駆け寄った。人形は期限を越えて壊れているだろうから、ソイツは一人だ…きっと違うマーマンなのだろう。クロエは毎度あり!と2人に手を振った。
「間違えない…21体目の服だわ。あの男の服も入ってる…。これを元の場所に戻して、取りに来るか見張ってなさい。もしかしたら、戻るかもしれないから…」
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依頼をこなしました。
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