アルバム『MIYAZAWA』より。
『ゲバラとエビータのためのタンゴ』と共に、シングル『沖縄に降る雪』のカップリングでもある。
この楽曲は“毛遊び(もうあしび)”が題材となっている。毛遊びとは、かつて沖縄で行われていた風習で、日が暮れた頃からウチナーヤング男女が野原や浜辺にやってきて歌や踊りでもって交流した集いのことである。現代的に言えば、合コンだったりクラブイベントに相当。
ちなみに、毛遊びの“毛”とは野原のこと。戦後はアメリカ文化と融合して、ビーチパティーにとしてその名残をとどめる。まぁ、いまはコロナ禍で自粛傾向だけど(そのはずと信じてる)。
「ちむぐり」とは「道化」の意で、「ちむぐり唄者」とはつまりは「唄遊び人」=「クラブチャラ男(女)」になるのだろう。とはいえ、それは歴史の勝者である高貴な生まれの方々の格式高い立場からの評価で、やってる本人達は恋に音楽に踊りに一生懸命なキラキラした大衆文化である。
島という限られた世界で慎ましい生活を送り、毎年の台風や自然災害に悩まされる厳しい現実。そんな日々の中、美しく沈む夕陽からの月明かりの下で、唄や踊りの表現の宇宙に心を放っていたというのはなんだか生きる逞しさを感じる。
現在も新曲が発表されるほど旺盛な沖縄民謡は毛遊びのそういった文化面を根源としており、いまや人間国宝に認定されている唄者もかつて毛遊びで腕を磨いた「ちむぐり唄者」であったことも少なくない。その点で言えば、かつて代々木公園の路上で飛んだり跳ねたりのライブをしていたのに今や音楽家というか文化人となっている宮沢氏もまた、「ちむぐり唄者」なんだろうね。
宮沢氏は本アルバムを製作するにあたり、ブラジルのリズム、ニューヨークのギター、沖縄の三線、東京の歌声を集結させた。といっても全部の地域の人々を一か所に集めるわけでなく、宮沢氏いわく「その演奏家にいちばんいい環境で演奏してほしい」とのことで各地域を旅しながら録音・編集したとのこと。
そういう現場主義を大事にしたので、録音や編集は東京だと宮沢氏の自宅とか、ブラジルでも個人宅とか身近な所で行ったらしい。
そして、本楽曲を製作する際には「我如古より子さんがいちばんのびのびと歌える場所」として、プロデューサーのアート・リンゼイと沖縄の我如古より子さんのお店の「民謡ステージ 姫」に赴きこの楽曲のコーラスを録音している。
宮沢氏によると、アート・リンゼイは「姫」でのレコーディングで大変に盛り上がったらしく、我如古より子さんが「夜、来ると良かったでしょうね」と言うと「それじゃ仕事にならないからw」と談笑。アメリカ生まれブラジル育ちのアート・リンゼイのラテン性を考えれば~ってことかな。
ちなみ、宮沢氏とアート・リンゼイを繋げたのは坂本龍一とのこと。90年代ニューヨークにて坂本家と初めて釣りをした頃だろうなぁ。矢野顕子のエッセイにて。
本楽曲は全篇ウチナーグチの歌詞であるが、これまでのウチナーグチ作品に比べて「むずかしいけど、楽しんでやれるようになった」と当時の宮沢氏は話す。それまではいわゆる企画的にウチナーグチの楽曲を製作することもあったが、この楽曲については「言葉」というよりも「音」として捉えて自然に気持ちよく歌えてるとのこと。
歌詞の意味はもちろん理解してるけど、それよりも発声や響きの快感や高揚が先に立つ、ってことかな。私も歌ってて実感した。
さて、この楽曲の歌詞であるが、その詞を書いたのが『いいあんベぇ』と同じく元チャンプルーズの平安隆である。
『芭蕉布』の普久原恒勇との出会いから沖縄民謡界に入り、喜納昌吉&チャンプルーズに参加。チャンプルーズが沖縄の外に表現を発信していく中で、平安氏はTHE BOOM、ソウル・フラワー・ユニオン、ボ・ガンボス、ゼルダと交流を深める。
沖縄県内だと名が知られているけれど、全国的な知名度では『満月の夕』のウチーナーグチverを歌ってるのが有名かな。あと、アメリカのギタリストのボブ・ブロッズマンとの共作アルバムも有名か。現在は関東在住で音楽活動をする傍ら、三線教室もやっている。
宮沢氏とは音楽制作の繋がりだけでなく、宮沢氏が企画したイベントにもよく参加している。その様子が映画『白百合クラブ 東京へ行く』に記録されている。
『白保の十九の春』
https://youtu.be/6-HCII3ybqk
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唄三線のヒバリさんの奥にいる蟹江敬三風の男性が平安隆氏。
この『白保の十九の春』は宮沢氏と平安氏の『十九の春』のあとに急遽、平安氏のリクエストで演奏されたとのこと。ちょっとエッチな歌詞に宮沢氏と平安氏がにんまりしてるのも見どころ。ちなみにヒバリさんは、『イラヨイ月夜浜』の作詞者の大島保克の父である。
あと、ついでに宮沢氏と平安氏の『十九の春』も。
『十九の春』
https://youtu.be/Rn-awasXTsU
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女性パートを歌っているのは当時、平安氏がプロデュースしていた星野悠子さん。すぐに引退されたみたいでCDとかも出してないんで、THE BOOMの『OKINAWA ワタシノシマ』が唯一の記録音源になるみたい。
さて話を戻して、本楽曲を宮沢氏がライブで演奏する際には「どういうリズムになっているか誰も知らないんですごいことになる」らしい。ライブDVDを観てても、そのトランス状態具合はよく伝わる。そしてやっぱり海外公演とかでもかなり受けが良く、スペイン公演では本楽曲が一番盛り上がったとのこと。
本楽曲はまた、ミックス違いというかバージョン違いが多く、CD収録されいるものだけで4種ある。その内のGANGA ZUNBAアレンジはブラスやバイオリンなども加わって、よりハッピーな曲調にアレンジされている。ライヴで女性パートを歌うチルチルパーマの大城クラウディアさんが、もうキラキラ可愛らしくて素敵。
また、我如古より子さんの門下生の大城クラウディアがその女性パートを歌うってのも「受け継いでいく」事を大切にしている沖縄音楽のチムグクル(心に宿る深い想い、真心)のように感じて、いつも胸が熱くなる。
これまでもこれからも沖縄の芸能文化を愛して表現してくれる宮沢氏に心から感謝したい。
≪伴奏について≫🎼📱🎸🎹
今回は革命的な新技術の投入を行い、私の録音・伴奏製作のグレードが飛躍的に向上した。その分、やれる事が増えて時間かかった部分もあるけどね(苦笑)。
その前に、あいさんのコラボ元伴奏について。
いまから3年半程前にあいさんがノートと鍋の蓋を叩いてマラカスを振って南国風リズムを作られて、それを最初に聴いた時すぐに「これは『ちむぐり唄者』だ❗』と思ったというか、閃いた。
ただその時には「いつか三線を自分で弾けるときにトライしよう」として、すぐには行動せずその“いつか”に辿り着くのを信じて保留してた。
そしてこの度やっとマイ三線でもって伴奏製作をする“いつか”に至り、しかもシングル表題曲『沖縄に降る雪』もアコースティックverとはいえ徹底的に表現に納め、さらに、宮沢氏がファンクラブライヴイベント『約束所(ヤクシクドゥクル)』を開催した“機”も重なり、いまこそが表現をする時であると踏み切ったのであった。
なお、尺の都合上、Aメロの一部カット。
それでも歌詞の意味はギリギリ通じるから良かった。
さて、今回の表現にあたり、新たに取り入れた表現方法は大きく2つ。
①トラック録音
②DTMアプリの使用
まず、①のトラック録音について。
音量を下げた伴奏に録音したい箇所の歌や演奏を録音してトラックを作成。(コラボ元音量は最少、録音音量は最大でシクレ保存)
↓
スマホでnanaの録音を開始。
↓
スピーカーを接続したタブレットでもnanaを立ち上げてトラックを流す。(DTMアプリのトラックの場合はそれをそのまま出力)
↓
スピーカーにベタ付けしたマイクより音を拾ってトラック録音。
後述のDTMアプリ録音を行うにあたり見出した新しい録音技術であるが、近代的なレコーディングではトラック録音なんて当たり前ではある。でも、なんだかnanaって某FIRST TAKE的な「その時の歌を大事にしたい」みたいな気持ちが入ってしまいがちだけど、いざやってみると遥かに効率的かつハイクオリティなサウンドを創れる。
とはいえそんなに簡単な作業でもなく、録音時にタブレット側の再生のタイミング合わせのコツと気合と根気が要る。でも、これまでのように何時間もスタジオに入って歌入れする労力と時間とお金のかかり具合に比べたら全然マシである。特にいま新型肺炎の蔓延やべぇし、スタジオに通う回数を極端に減らせるのもいい。
また、演奏についても私は技術がなくて長い秒数を正確に美しく弾くのが困難なので、このトラック録音だと良いパートが出来ればそれを保存して何回でも使えるのはかなり気が楽。
そして特に感動したのは、歌の声量やマイク距離による音量のバラツキを、トラック録音時にインターフェイスのゲイン調整によって調整できるのがいい。
良い表現が出来ても音量のバラツキが気になってボツとか、かつて20秒の録音に納得するまで8時間スタジオに缶詰したことあったからなぁ。マイク距離を身体に刻み込むまで何時間も無駄歌いするのがこれからは無くなるはず。
あと、スピーカーからの歌声も録音時にそんなに変質しなかったのも良かった。エフェクトを二重に掛けたりとか、音作りの可能性もかなり広がったので今後の表現が楽しみである。
次に、②のDTMアプリの使用について。
今回、私が目指したのは“Monoaural mix”のバージョン。
『ちむぐり唄者 (Monoaural mix)』
https://youtu.be/mIy_ZP8GHlE
本楽曲のビートは、私の過去作の『YOU'RE MY SUNSHINE』や『18時』のようにドラムパットを叩いて表現するには限界があるので、ついにDTMアプリの使用に踏み出した。
nanaはMP3音源のアップはできるようだが、既存サウンドにDTM音源を重ねることは出来ないと前々から聞いてはいた。しかし、挑戦せずに出来ないと諦めることを私はしないので、まずは行動。そして、トラック録音という技法を見出した。
私がDTMアプリとして求めたのはいわゆるiosのガレバンなのだが、Androidの私はそれを使えず。ガレパンに近いものをあれこれ探した中で私が最終的に使用に決定したのは『w(仮)』というDTMアプリである。何故に名前を(仮)にしたかというと、このアプリが不具合だらけで作曲という点ではまったく使い物にならず、トホホを語るからである。
致命的な不具合だと、マルチトラックシンセで曲を作って保存するとデータ破損が必ず起こる。リズムマシンで作ったパターンをトラックダウンすると一定確立でリズムが狂う。それだけでなく、入力していない部分に音が鳴りそれを修正できない。
とはいえ、複数のトラックを重ねて作曲をしようとせず私のように一音でのトラックを作成して使用するならまぁ入力は簡単だし、選べる音数や音色も申し分ない。
でも、BPMの任意設定はあるものの、仮設定されたBPM以外の速度にしてトラック作成をしたら必ずバグるので、欲しい速度ではないBPMでトラック作成をしてMP3に変換する直前にBPMを調整する必要がある。
MP3に変換したらデータ破損はないけれど、納得いくトラックを完成させるまでに非常に馬鹿馬鹿しい手間がいる。無料で使える範囲に私が対応したので許容してはいるけど、とてもじゃないが課金はできんな。海外製でアプデする気もないみたいだし。
さてさて、話長いけど、他の楽器使用について。
三線は、宮沢氏の指運びをライヴDVDを観て調弦。今回、特に特殊なことをしたのはサビの三線。同じフレーズを4回なのだが、実際に弾いたのは最初の1回だけ。あとの3回はトラック録音を連ねて、最終的に一つのトラックにしてる。
そして、基本メロディラインと女性パートのベースに、実家に35年以上眠っていたYAMAHAのミニ電子ピアノを使用した。新しい表現として活躍させたかったのだけど、途中で壊れてしまった。いままでありがとう!。女性パートのベースではChorusを使用。
で、そのミニ電子ピアノの代わりに、ピアニカを使用。4年前にとある楽曲で使用する予定で購入したが、ずっと後回しになっていて今回が初登板。Aメロとサビのベース表現、女性パートのガイドメロディ高音に使用。ベース表現ではモンスターエフェクトでトラックを作って、Arena100%をかけてる。
とにもかくにもトラック録音を見出せたのは本当に大きい。DTM製作や楽器演奏は自宅で行い、歌トラックはスタジオで録音して、それらの音量・エフェクト調整はまた自室で行うのでほんと気が楽。録音時のメモをしっかりしておけば、再現性が高いのも良い。
ちなみに、冒頭のカウント部分に私の飼い猫・クロエの鳴き声が入っているけど、それもまた表現の内ってことでw
≪歌入れについて≫🎤📣
すべてトラック録音にて。Aメロとサビは、沢山の音が重なった伴奏の中でも際立たせる為に、Studioを10%くらいで。コーラスはアルバムverを参考にstage50%で。
今回、特殊なことをしたのは、ラストの「スイッ!」の部分。「スイ」「アスイ」「ス」とトラックを作り重ねた。息だけの「スッ」のトラックを重ねたのは過去の『金田のテーマ』の経験から。
私の素の声だとどうしても低く太い「スイッ!」が出せなかったので、100均のメガホンを購入してそれを使って歌入れしたところ、声質変化により理想的な「スイッ!」が出来た。さらにそのメガホンで平安氏のパートである「トゥスイヘイヘイ」を録音したら、思いがけず平安氏のお囃子の声に近くてw。難しかったけど挑戦して良かった。
女性パートは、低音でいくか女声でいくかで悩み、最終的に二つを重ねるという結論に。私が出す女声はやっぱね、それだけではキモイし。低音だけだと跳ね感がないし、そもそも女性の気持ちの歌詞だし。二つを重ねるのがいい塩梅。
先にも述べたが、録音時のマイク距離による声量バランスを、編集で調整できるようになったのは本当に良かった。これからの表現の希望の扉を開くことができ、大満足・大納得である。
素敵な伴奏にて、音作りをさせてもらい、歌わせてくれたあいさん、ありがとうございます。
こうしてアプリで作ったリズムを重ねてみると、あいさんのノート叩きのリズムの正確さがよくわかる。あいさんの表現と私の表現が上手く融合できたのも、鍋の蓋を叩く音のカッコ良さ、ドンキマラカスの入り方の絶妙さがあればこそ。キッチンから世界へ、3年半という歳月を経た素晴らしい機会に感謝です。
≪最後に≫🌌🌜👭👫👬🎸🎶
今回、新しい技術としてトラック録音に踏み切ったが、歌入れ面において迷いがなかったわけではない。90秒という範囲ならばやっぱり一発通しで歌いたいし、「歌は生もの」とするならば冷凍・解凍で想いの鮮度が落ちてしまうのではないかという懸念もあった。
しかし、アルバム『MIYAZAWA』の製作特集をこのキャプを書くにあたって読み返したら、
「最近、レコーディングっていうのは、たまたまそのときのテイクであって、それでいいのかなと思うんですよ。これからも歌っていくわけですし、たまたま2001年の何月、こういう録音をしたということであって、自分の生きざまとか、人生みたいなものをそこに託さなくてもいいんじゃないかと。」と書いてあって。
続けて、「もちろん歌うとき、気持ちは出しているんですよ。でも、腹8分目というか、歌いきらない。声量とか感情はちょっと抑えておくというのもいいことだな」とも書いてあった。
なので、御本人様がそう言うなら信じてもいいかな~と、なんだか背中を押された気持ちである。
で、つい先日であるが、私がこのサウンドの音作りで必死こいてる最中、ラジオ沖縄の宮沢氏の番組『琉球ソングブック』でなんと、本楽曲の作詞者という紹介から平安氏の音楽を取り上げて驚いた。
ちょんちょんキジムナー
https://youtu.be/DBO8nER0zqw
↑
宮沢氏が嬉々として紹介した楽曲。ボブ・ブロッズマンとのライヴ。ちなみに、平安氏とボブ・ブロッズマンを引き合わせたのが宮沢氏と『極東ラジオ』のDJを務めていたポール・フィッシャー。
宮沢氏を紹介するポール・フィッシャー。
https://youtu.be/MggFastQkEo
↑
ロンドン公演での本楽曲が少し聴ける。
またまた来たよ、なんという“縁”と“機”。私は思わず「いまやっとるわっ❗」と口に出してしまったw
#宮沢和史 #ちむぐり唄者 #MIYAZAWA #我如古より子 #平安隆 #毛遊び #琉球ソングブック #ソン #沖縄に恋した宮沢和史祭り #あいラッコパーカッション
コメント
6件
- ニヤ☆ゆっくり聴きnanaさせて下さい〜💦☆
- kanako元伴奏のあいさんのキャプション内にある「楽しい、それだけ」と、それが伝わるあいさんのサウンド。 そして、ニヤさんのサウンド作りの取り組み方(ものすごい熱量と執念を感じるのだけど、やってる本人が一番楽しんでる)、出来ていく過程と出来上がったキャプション(の内容…出てくる映画の内容までも)とサウンドそのもの、全てが「楽しい、それだけ」という言葉を通して繋がってる感動作でした。 心から音を楽しんで作ったものは聴いて心からハッピーになれるね! 90秒という秒単位の時間の中に、新しい技術や労力、努力、体力をかけることの素晴らしさ。今のこの時代だからこその意味と価値と尊さを感じたよ🌟✨✨ いつ何が起こるか分からないような時代だからこそ秒単位で楽しみ、大切にしたいなぁっと。
- ニヤ☆ゆっくり聴きnanaさせて下さい〜💦☆
- ニヤ☆ゆっくり聴きnanaさせて下さい〜💦☆
- あいラッコ☘️ログアウトしてます🙇♀️ニヤさんの根気強さを感じたコラボ🎊🎊🎊 素晴らしいなぁ❣️ たくさんのエネルギーを感じたよ〜 歌声のあとに入ってくる スイ スイ 男っぽくて、海🏖の漁師を思わせる感じで 締めくくるのが効果的で、印象的です❣️*\(^o^)/* 素晴らしいわぁ👏👏👏👏👏パチパチ
- kamソロで海外をまわってる頃、次はどこの国でやるんだろう?と思いながら楽しみにしてました。その時この曲を演ると、日本語のウチナグチなのにどこも盛り上がるのが印象的だったのを思い出します☺