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STYX HELIX
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 Episode.5 「潰えた希望と桎梏人形」後編  崩れ落ちたリーンを前に、セシリアは炎の中そっと微笑んだ。一面の紅の中、ぼんやりと見える愛しい人の輪郭を見据える。  エレノアは、動揺していた。リーンが倒れたことに対して。  歪んでいたはずのエレノアは、確かに一瞬正気を取り戻していた。リーンという友達の死に直面して。  違う、と思った。そんなのはエレノアではないと思った。  エレノアはずっと歪みを抱えていて、それに気付かせないほどのぬくもりを持っていて。  その歪みを表面化させた先程のエレノアこそ、セシリアの理想だった。  セシリアから見たエレノアは、完成された欠陥品だった。  初めて彼女に会ったのは、同じ任務を与えられた時。感情のない人形の群れの中、エレノアは一人、彼女達と同じ任務に就いていた。  美しい人形だった。戦場において、その特徴的な赤髪は人目を惹いた。見目、立ち振る舞い、すべてがセシリアの心を惹きつけた。今までに会った誰よりも、彼女は魅力的だった。  感情のないはずの人形にも気遣い、優しく接し。今の任務に就かされているのは恐らく上層部の配属ミスか、何らかのエラーだろうに――それでも周囲への気遣いと優しさを忘れないエレノアは、とても気高かった。  そんな彼女に興味を抱いたのが、すべての始まりだったと思う。  エレノアに出会って以来、仕える上司に「お願い」して、エレノアと会えるような任務を与えてもらった。前線で戦わされる心優しい彼女を眺めるためだけに。狂愛とか偏愛とか、そういった言葉で形容されるべき感情だった。  セシリアがエレノアに接触するようになって、長い月日が経って。愛しいエレノアは、少しずつ壊れていった。狂ったような、違和感のある言動をすることが多くなった。  その様子を見たセシリアは、狂喜した。完璧だった彼女が、歪み始めていることに。  完璧なものには、傷を付けたくなるものらしい。真っ白で染みひとつない一面の雪景色に、足跡を残したくなるように。  セシリアは、その傾向が特に顕著だったらしく。不安定に揺れるエレノアを見る度に、笑みが零れた。もっと壊れれば良いと思った。もっともっと壊してみたいと思った。  叶うのならば、完璧な彼女を自分の手で彼女を歪ませて壊してみたかった。  そんな願いを密かに抱いていた矢先、突如として戦争が終わった。世界は夜に包まれた。  終戦の知らせを聞き、セシリアは真っ先にエレノアを探した。難なく彼女は見つかった。  顔馴染みだったセシリアを見つけたことで安心したのだろう、縋るようにエレノアはセシリアに訊ねた。  「……私のしてきたことに――私が数多くの敵を殺したことに、何の意味があったの……?」  終戦を知ったエレノアは、今まで自分のしてきたことに絶望し、心が折れそうになっていた。救いを求める顔が、セシリアに向けられていた。それは恍惚だった。  どうか、自分のしたことを肯定して欲しい。無意味ではなかったと、誰かに認めて欲しい。  彼女は、そんな願いを抱いていた。だから。  「何も、意味なんてなかったと思います。大戦中のことは、全部……全部、無駄なことでした」  彼女の縋ったものを、救いを求めた先を。セシリアは粉々に打ち砕いた。  その言葉を告げた時のエレノアの表情を、セシリアは絶対に忘れないだろう。  くしゃっと顔を歪ませ、泣き笑いの表情で。そう、とだけ呟いた。その双眸からは光が消えていた。  次の瞬間、左目が昏くなり。金属の砕けるような音が、耳の側で鳴った。  セシリアの左目が、エレノアの持った鎌に切り裂かれていた。  「あは……アハハハ……」  心が砕けてしまったような、狂った笑みが耳朶を打った。唇の端が吊り上がるのが自分でも分かった。  エレノアの壊れかけていた歯車を、自分が一気に狂わせてしまったのだと実感した。  それから彼女が繰り返すようになった無意味な殺戮を、止める意味なんてなかった。    だから、リーンを殺した。エレノアが元に戻ってしまえば、セシリアの今までしてきたことは水の泡になる。  かつてのセシリアは、壊れたエレノアを見るだけで満たされていた。けれど、今は。それだけでは物足りなくなった。自分が狂わせたのだ、という実感が必要だった。  リーンの願いによって、万が一、エレノアがもっと歪んでしまえば。それは、セシリアが壊したエレノアでなくなってしまう。そんなのは絶対に嫌だった。  だから、彼女の願いは叶えてはいけなかったのだ。  変わらない炎の中、視界にエレノアを捉えたセシリアは、一直線に彼女の元へ歩いた。リーンが死んだことへの動揺を、隠しきれていない彼女の元へ。  そのまま強引にその細く白い手首を掴む。今にも折れてしまいそうだった。  こちらを振り向いたエレノアの瞳に、セシリアが映る。  彼女は、あの日と同じ泣き笑いを浮かべていた。  鎌が振り下ろされる。セシリアの右目に向かって。  ――右目は、セシリアの防御装置のある場所だった。     人気のない廃墟。枯れ果てた雑木林。冷たく鳴る風に、硝煙の匂い。  エレノアが狂った日の記憶がフラッシュバックする。狂った笑みと、紅を宿した金色の瞳。  金色に炎が反射して光っている。セシリアの見た中で、一番綺麗な光景だった。  自分のものになったエレノアに殺されるのなら、セシリアにとって本望だ。  一途な盲目人形は、そんなことを想う。     機械の潰れる音と共に、刺し貫くような痛みが走り。  セシリアは、二度と動かなくなった。  熱い。痛い。苦しい。怖い。  私の中に、泣いている私がいる。  誰かに救われたいと祈る、救われない私がいる。 ここはどこだろう。私は誰だろう。  イミナンテナイ。ムダナコトダッタ。 記憶の中の誰かが言う。底の見えない暗い夜に突き落とされる。  紅い意識の中で、炎が灯ったままの蝋燭に願った。    こんな世界なんて、滅びてしまえば良いのに。 ゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜ 🌹🍭⛓Oh, please don’t let me die Waiting for your touch No, don’t give up on life This endless dead end 🍭狂った時計 刻む命 こぼれてく記憶の砂 ⛓芽生えた想いまで ねえ  こんなに呆気なく 消えてしまうの 🌹I wish I was there 🌹🍭⛓Oh, please don’t let me die Waiting for your touch 🍭二度となにも失くさぬように ⛓私を忘れて 始めて “Restart” 🌹🍭⛓No, don’t give up on life This endless dead end 🍭⛓君を砕くこの悲しみが 🌹いつか終わりますように 🌹🍭⛓For now I’ll see you off ゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜ 🌹エレノア(cv.ここあ) https://nana-music.com/users/1310845 ⛓リーン(cv.SHiNRi) https://nana-music.com/users/7033955 🍭セシリア(cv.だんご) https://nana-music.com/users/8087489 ゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜ #十六夜マリオネット SS:柚乃

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