第5話 サオリとの別れ
「えっ。」
感情が喉の奥に詰まった。
僕は発するべき言葉や感情が詰まった叫び声とともにトラックに跳ね飛ばされたサオリの元へ駆けつけた。
「おい!サオリ、サオリ!!」
辛そうに目を開けたサオリの額には大きな傷があり、大量の血が顔を流れていた。
サオリは力なく僕の顔を見て、不覚にもうれしそうに見える笑みを浮かべて目を閉じた。
数分後、救急車が到着しサオリは救急病院へ運ばれた。
トラックの運転手は警察官と何か口論になりながら話をしている。
僕は力なくサオリのあの瞬間を何回も頭の中で再生されるのをただただ眺めている。
周りでは目的もない愚衆がその一部始終を見て、関心や同情をこの場に置いて帰っていった。
言葉や感情は出てこない。
ただただ、僕は泣いた。
意味も理由もわからない。
ただただ、僕は泣いた。
その後、サオリとはもう会えなくなってしまった。
生きてるサオリの体温がまだ腕の中にあることが、気色悪い反面、生きてるサオリと唯一関われるものだと思うようにした。
ただただ、僕は泣いた。
特別に、火葬される前のサオリに立ち会うことができた。
事故で亡くなった場合、死後硬直が始まるため、顔や体の部分が異形をなしていることがある。
覚悟はしていたが、顔の変形は見られなかった。
すっとした鼻筋がきれいな顔はそのままに形を残し、静かに眠っていた。
ただただ、僕は泣いた。
溢れ出る感情をどう処理していいか分からない。
1人でいることが怖い。
どこにいても、何をしてても、ずっーとくすぶり続けているあの瞬間がいまだに僕の心を傷つける。
そこにはどんな言葉も感情も入る隙間はなく、ただ、泣くことでしかバランスをとる方法が見つからなかった。
「それから俺は、人の命を助ける仕事がしたいと思ったんだ。」
昨日の夜、タクミのその話を聞いて、
「ああ、この人にもちゃんと過去があって、ちゃんと恋もして、ちゃんと悲しむんだ。」
当たり前だけど、当たり前すぎて考えたことなかったことを改めて知って、また一層タクミのことが好きになった。
外では、もうあと一輪の桜の花がこっちを静かに見ているようにみえた。
タクミが夢を追いかける姿を遠くから見てるのかな。
つづく
次回 デートの日
#春泥棒 #ヨルシカ #雰囲気耳コピ
コメント
6件
- 遙(はるか)@ダーリンダンス拍手にフォローありがとうございました🙇♀️こちらもフォローさせていただきますね。 曲に合ったオリジナルストーリーを紡ぐなんて、Ayaseさんと真逆の手法ですね😱
- 全部りつ拍手ありがとう❤️ 優しい声ですね
- みちフォロー&拍手ありがとうございます🎵
- kamisaka 🌿相互フォロー、させて頂きました。😇 よろしくお願いします。m(_ _)m
- にぃなフォローありがとうございます。 優しい歌声。。。素敵です。 フォロバ失礼します!
- miu✨️@renewal🩶放置中🫠💤フォローありがとうございます😆よろしくお願いします🤲🎶ヨルシカ優しい感じでいいですね🎸🎶🌷♡︎( ´ ` )✨