Episode0 彼女たちが生まれた日
Happy:END
Episode0 彼女たちが生まれた日
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―side Sitri―
夜空を一羽の鳥が飛んでいく。
いや、それは鳥ではなかった。鷲の羽を持った美しい悪魔だった。その悪魔は今晩産まれ堕ちたばかりだったが、賢くそして強い力を持っていることを自覚していた。その大きな翼で力強く夜空を切り裂いて飛び続ける。
さてどうしようか?愚かな人間の集落を燃やそうか?権力者たちを誘惑して唆して互いに争わせようか?いや、まずはやはり……。
そして、悪魔は大きな庭園を持つ立派なお屋敷を見つけると、獲物を見つけた獣のように妖艶な笑みを深めた。
寝室の場所はすぐに分かった。窓の鍵穴をそっと撫でると綻ぶように窓が独りでに開く。贅を凝らした室内と調度品が並ぶ室内のベッドの上では、ひと目でこの屋敷の主人だとわかる威厳のある初老の男が眠りについていた。
悪魔が躊躇なく男の上に跨るように乗り上げると、男は目を覚まし驚きの声を上げた。
「ん……?誰だ……?」
「うふふふっお目覚めかしら?」
「お、お前は……!?何だその羽と角は!?」
「こんばんは、良い夜ね」
赤い月を背に、初めての獲物を前に、シトリーはうっとりと目を細めた。
「夜は長いわ。たっぷり遊びましょう?」
闇夜に悲痛な悲鳴がひとつ、響き渡った。
―side Mali―
ある夏の日。
何人かの男女が教会の裏手、少し高台になった岩場に集まっていた。岩の切れ目からは気が遠くなるほどゆっくりと水が一滴ずつ滴り、手のひら程の器に溜まっていく。これがあらゆる病を癒す聖なる泉だった。
影をくっきりと浮かび上がらせるほど厳しい日射しの中、それでも人々は晴れやかな笑顔で司祭の腕の中で眠る赤ん坊を見ていた。赤ん坊は素朴なアネモネの刺繍の施された布に包まれ、すやすやと寝息をたてている。
「昨晩の事だが、西の空に赤い星が輝いた」
「では、司祭様この子が……」
「『西の空に赤い星が輝く時、神の意志が地上にもたらされる』……この子がお告げの子供だろう」
その言葉にその場にいる人々がざわめく。
「この子こそ天秤を管理し、この泉を護る者となる娘。お告げの通り、昨夜生まれたのだ」
その言葉に母親らしき女性は感極まったように喜びの涙を流し、父親は誇らしげに頷く。
「マリー、どうか神の祝福を我々にもたらしておくれ」
司祭の言葉に答えるようにマリーは微睡みながら無邪気な笑い声をあげた。
それは本当に美しい夏の日の出来事だった。
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💘「愛欲の悪魔」シトリー (cv.sumire)
鷲の羽を持つ、美しい容姿の悪魔。何故か貞淑なエプロンドレスに身を包んでいるが、服装と裏腹に淫らな言動でマリーを翻弄する。
多くの人を救いたいと悩むマリーの前にある日現れ、優しい心につけこむような契約を持ちかけては口付けなどの「純潔」を対価として要求する。彼女には何か思惑があるようだが……?
⚖️「純潔の聖女」マリー (cv.はいねこ)
全ての病を癒す聖なる泉の教会の聖女。泉を巡る争いが絶えないことや、本当に必要とする人に泉の水が行き渡らないことに心を痛めている。また泉を悪しき者から守るという聖遺物の「断罪の天秤」を管理している。
貧しい人々を救うためにシトリーと何度も契約を交わしてしまう。
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✞素敵な伴奏をありがとうございます✞
秋猫様
https://nana-music.com/sounds/01320740
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