右に曲ガール
はるふり/キャプション:斜庭
右に曲ガール
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#七色連歌
陽継:シナ #ぼくらのイシ
ああ、また。意識が浮遊する。もう慣れてしまったその感覚に、僕の感情は動くことをしなかった。ただひとつ、家の中でよかったとだけ考えて、浮遊感に身を預ける。仕事だって今は急ぎはない。このままゆっくりしたって、罰は当たらないだろう。ああ、もう、だめだ。
ああ、したいなあ。彼女たちを見て、ぽつりと呟いた。僕の声は霧散して消えていく、はずだった。彼女らは案外耳が良かったらしい。僕のそのことばに一瞥しては、砂場のお城をぐしゃりとつぶした。力作だろうそれをいとも容易く破壊して、僕を睨む。“無能”な僕のせいだとでも言いたげな目だった。黒々として、絶対零度に冷えた色の心が、僕の目に映る。その色がなんだか気持ちが悪くて、目を背ける。
色を持たないこの身体は、誰かと遊ぶことさえままならない。
ああ、痛いなあ。思ってもいないことを、ぽつりと呟いた。こんどこそ声が霧散する。僕はそっと石を手で覆っては、僕を見つめる何対もの両の目から、それを隠す。僕の石を暴いた彼女は、青褪めた目で僕を見る。彼女を支えた大勢は、“無能”な僕を非難の目で見る。どす黒い色が、僕を射抜く。きっとこの職場にももう居場所はない。
色を持たないこの身体は、普通の仕事さえままならない。
この世界で必要なのは“おんなじ”だ。みんなとおんなじ生活をして、みんなとおんなじように眠って、みんなとおんなじ勉強をして、みんなとおんなじ、色のついた石を持つ。透明はだめだ。なにもできないから。おんなじにはなれないのだ。
黒い石に手を伸ばす。だれかとおんなじになれるその石だ。黒い石は手から遠ざかってゆく。僕はまってと声を張り上げた。
意識が浮上する。徐に目を開ければ、天井に向かって腕が伸びていた。嫌な夢を見た。天に向かう腕を引いて、目をさする。時計は十九時を指していた僕は夢を忘れるように立ち上がる。伝う涙はそのまま、空へと吸い込まれていった。
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