ここは春の国 (中盤、せりふ部分から)
谷山浩子 / 作詞:森田荘平 作曲:谷山浩子
ここは春の国 (中盤、せりふ部分から)
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前回からの続きです ♪
この曲の歌詞は、谷山さんが
かつてパーソナリティをされていたラジオ番組で、
リスナーのファンの方の作った詞に
曲をつけたものだそうです。
キャプション後半に小説がありますが、
これは曲のイメージから派生したもので、
この曲そのものとの関連性のない
2次的作品です😆
もし文章を読むのがお好きな方で
ご興味のある方は、よろしければ
お付き合いください🥰
文章読むのはあまり…という方は、
どうかご無理なさらず😊
投稿を聴いてくださっただけで
大感謝です💕
素晴らしいピアノは、にわとりのとさかさんです🐓
素晴らしすぎるほど素晴らしいので(日本語💦)
演奏のみもぜひご堪能ください、
素晴らしすぎて語彙喪失しました。
というわけで🥰
連続妄想小説『ここは 春の国』
第2話をお届けします。
第1話はこちらから↓
https://nana-music.com/sounds/05cb008d
____________✍
谷山曲連続妄想小説
『ここは 春の国』第2話
作・城村優歌
翌日、私は朝から浜に行きたくて
仕方ありませんでした。
しかし、
「今日、配達行く?」と父に聞くと
「今日は行かないよ」と返され、
午前中ずっとしょげかえっていました。
昼になっても諦められず、
私は独りででも浜に行こうと決心しました。
冬休みはあと2日。
今日を逃すと、あの男の子にもう二度と
会えない気がしてなりませんでした。
そこで、まず玄関の靴箱からこっそり
学校の上履きを持ってきました。
いつも履いている運動靴では、
靴がないことで親に気づかれてしまいます。
母には、冬休みの宿題をすると言って
子ども部屋のドアを閉め、
内側に勉強机の椅子を置きました。
もし母が入ってこようとしても、
すぐにドアが開かないようにと考えたのです。
そして、コートを着て、上履きを履くと、
窓から屋根に出ました。
屋根の外には、大きなサルスベリの木があります。
夏はよく、この木に登って、
屋根のところまで来ていました。
だから逆もできると思ったのです。
そろそろと近づいて、木の幹を掴みました。
下を見ると怖いので、
木の幹に移ることだけを考えました。
何がこんなに自分を突き動かすのか
わからないけれど、あの男の子に会うためなら
なんでもできると思いました。
私は、あちこち枝にひっかけながらも
無事、木の幹をつたって裏庭に降り、
家の脇を回って道に出ました。
やった! 行ける!
私は駆け出しました。
しかし、それもあっという間に息が切れ、
とぼとぼと歩くことに。
いつもは父の車で行くので、
すぐに着くと思っていましたが、
海まで歩くのは果てしなく感じます。
それでも私は歩き続け、浜に着きました。
浜はいつものように人気がなく、
ただ静かに波が寄せては引き、
砂浜に黒い模様をつけているだけでした。
しかたなく、ぶらぶらと貝拾いをしていると、
背後に人気を感じました。
振り向くと彼です。
「やったぁ! 会えた!」
抑えきれず、気持ちがそのまま言葉に出てしまいます。
「会いたかったの。ねぇ、また一緒に遊ぼ?
棒倒しでもなんでも、あなたの…」
と言いかけて、私は少年の顔を見つめました。
「ひろ…」
少年は呟くと、背を向けて歩きだします。
私は飛び跳ねるように追いかけました。
「ヒロくんって言うの?
私、ヒロコ! 一緒ね! すごい、一緒ね!」
うれしくなって、私はスキップでついていきました。
ヒロは黙って歩き続けます。
彼は、波で湿ったところまで来ると
しゃがんで砂を掘り、山を作り始めました。
「お城! 砂のお城作る? 一緒にする!」
それから、黙々とふたりで砂を積み上げました。
1の塔、2の塔、3の塔、4の塔。
回廊で繋げて門を建て、中庭のある立派なお城が
出来上がりました。
「満足」と、ヒロは唇の端を僅かに引き締めます。
笑った!と私はうれしくなりました。
「ねえ、知ってる? 海の俳句。
私のおばあちゃんって、俳画教室の先生なの。
私も習ってるのよ。
この前に習ったの、ひとつ教えてあげる」
そんなに言うなら聞こうじゃないか、
という顔をしてヒロは私を見ました。
「いくわよ、あのね、“ はるのうみぃ
ひねもす のたりのたりかなぁ”っていうの」
私はおばあちゃんが俳句を読む時の口調を真似て言いました。
ぷっ!
同級生なら、へぇ~と感心した声を
出してくれるところです。
まさか吹き出されるとは思いもよらず、
私は語気を強めました。
「あのね、ひねもすっていうのは、
しゅうじつって意味なの。
しゅうじつっていうのは、
終わるに日って書いて一日中っていう意味なのよ」
砂だらけの手を腰に当て、胸を張って言う私を、
静かな目でヒロは見つめると、
「それで」と呟きました。
「それで…って」
私は言葉を詰まらせながら続けます。
「だからこれは、春の海をよんだ句で、
のんびりしていていいねーって意味なのよ」
「ひねもすって…」
「だから、一日中のこと」
「どうして、ひねもす、って言うの」
「だって、そう言うんだもん。
昔の言葉で、そう決まってるの」
「なんで、のたりのたりしてるの」
私は、ぐう、と唸りました。
それもそのはず、今まで並べ立てたのは
おばあちゃんからの受け売りです。
おばあちゃんには、なぜ一日中のことを
「ひねもす」と言うかなんて、尋ねもしなかったし、
なぜ、のたりのたりなのかも教えてもらってもいません。
「……そんなの、自分で考えればいいじゃない」
悔し紛れの返答でした。
すると、ヒロは波の向こうを見つめ、
呟くように言いました。
「あるけど、見えない…
見えないけど、あるんだ…
いや、いる、かもしれないな」
「え? 何がいるの?」
「ひねもす」
彼の声は甘いシロップがかき氷を溶かすように
私の心に流れ込みます。
それが心地よくて、もっと聞きたいと思っているのに、
口はどうしてだか、心に逆らいます。
「おばあちゃんは間違ったこと教えないもん。
昔っから決まってることは、そうなんだもん。
ひねもすなんているわけないじゃない
……いないのよ!」
すると、彼は海に向けていた目を戻し、
静かに口を開きました。
「こんなになんでもあるのに、
みんな、ここはなにもないっていう…
心の中にあるものは、ある…
消すのも自分なのに…
ひねもす…
欲しいなら作りだす…」
ほしいなら…と、
熱に浮かされたように私の口が勝手に呟きました。
ひねもす…
その時でした。
何かとてつもなく大きなものが
海のほうから盛り上がり
私たち目がけて迫ってきました。
これがひねもす?
それは、瞬く間にふたりを呑み込みました。
淡く、ゆわゆわした暖かい光の中で、
ヒロと私は揺蕩います。
不思議と怖くありませんでした。
私の前にヒロがいる。
胸苦しいほどの甘い熱が
喉元までせりあがってきて、
私は恍惚の中で目を閉じました。
〈つづく〉
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お読みくださり、
ほんとうにありがとうございました🙇♀️
全3話なので、構成的にどうしても
2話が長くなってしまいます。
最終話は、そこまで長くありませんので、
よろしければお付き合いください🙇♀️
#nana文芸部 #うか谷山浩子 #うか小説
コメント
3件
- うか🐾城村優歌🐈今週コメントおやすみし〼🙇♀️にゃ ふーにゃ🐾 今日は風が強いけどお日さまはあたたかい😊 ふーにゃもあたたかくしてるかな🐈🍀 細かく読み込んでくださってありがとう😭💕 私は今でもちゃんと現実を生きれてないけど、子どもの頃は今よりさらに現実と夢の区別があまりつかない子どもだったと思う。 書いている時はいつも夢を見ているようで、どこか冴え冴えとしていて心地よくて😊 その心地良さが文字に乗っかってるといいなあと思いながら✍ ふーにゃのコメントの文体に、快感を感じるワタシ😆👍✨
- うか🐾城村優歌🐈今週コメントおやすみし〼🙇♀️
- こり🐸クロハモ蛙🐸前半の演劇的な展開に惹かれました~😍 谷山浩子さんの魅力が全開…という感じです🍀🍀🍀