「蒼の探索」(アヤ)
秘密結社 路地裏珈琲
「蒼の探索」(アヤ)
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「テルちゃん......これ、見覚えは?」
もはや頭痛は襲ってこない。私は自分の中に、消し去ったはずの自分の輪郭を徐々に取り戻していった。アヤちゃんが持ってきてくれた楽譜の束は、見覚えどころか、喉が覚えている。
「これがね、あのカメに隠された本当のラブレターを取り出すための鍵だよ」
「本当の、ラブレター!?でも、それはヨウさんが守ったんじゃ...」
「ラブレターは、返事を書いて完結する。ヨウガ守ったのは王様のラブレター、私が開くのは、王妃様のラブレター」
残念ながら、そのカメはもうここにはない。大昔に行方を眩まし、巡り巡って、ヨウを追い込んだあの連中の手にでも渡っている。
墓守に伝わった鎮魂歌は数多く、おまじないや儀式的な意味合いをもつものが多かった。人魚としての誇りを持って生きた王妃様は、王様の残した機械仕掛けの愛に、恋心に、鎮魂歌で鍵をかけたのだ。
「へえ、なるほど......君は、美味しい美味しい“餌“ってわけか。人魚さん」
打算と損得勘定に聡い我らが髭のマスターが、渋い顔で呆れたように笑ったから、私は挑戦的に微笑んで返した。だって突っ張ってなくっちゃ、こんなクソみたいな運命の中で立っていることすらままならない。
「私が居なくちゃ、カメは開かない。私は連中をおびき寄せるための最高の餌で、私は連中の首が欲しいし、墓守として美しい想いをあるべき場所に還したかった...結局、敵わなかったけど」
全ては過ぎ去った嵐であり、過去の悪夢だ。
もう、何も怖くないはずだったのに、私の頬を涙が伝う。
隣でずっと大人しくコトの成り行きを見守っていた機械人形の彼が、思い出したように、錆びた指先でそっと、私の手を握ってくれた...。
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“人魚の唄”を見つけた。
その歌には、不思議な力が宿っている。
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