夜紛い

ヨルシカ

#ヨルシカ #耳コピ #WhiteYouzy伴奏 #DTMer ｰｰｰｰ14時から。2年。中庭ライブｰｰｰｰ 　チューニングの音がする。 　クラスの男子が文化祭でライブに出ると聞いて、友達と観に行った。誘われたから仕方なく。 　もう一つはどうせ大したことないんだろうと笑ってやる気持ちで。 　その同級生を表すなら、メガネで黒髪だ。 　名前は佐野。 　とにかく暗くて猫背。 　席替えで隣同士になった時はガッカリした。なにも喋らないし、イケメンでもない(というかいつも下を向いているから顔が見えない)。 　つまらないからだ。 　消しゴムを拾ってあげたときも「…すみません」と敬語。いや、同い年よ私。そう言ったら困ったように沈黙が流れた。 　はあ、こういう暗い奴ほんと…。 　友達は居るようだけど、まあ私がまず関わらないような、背だけ無駄に高くてちょっとぽっちゃりした田中って奴と一緒にいる。 　いつも自信なさげで、声も小さい。何を言ってるかわからない。 　そんな奴がライブ。 　ひょろひょろの声だ(ろう)から、まずボーカルは無理だろう。ギターとかかな。 　いや、逆に普段がこうだから、マイクを持った途端に豹変して、 　「みんなぶっ殺してやるうぅぅうう！！！」的なことをデスボイスで叫ぶV系か、厨二病の男の子が好むような萌え萌えなアニソンを歌うんだろうか。 　どちらにしても期待せずに行った。 　3人組が音を合わせている。のっぽの田中と別のクラスのヒョロイ鈴木。 　掛け声とかはない。静かだ。 　佐野はギターを持っている。 　ぬるっと始めるように佐野がマイクに顔を近づけた。 「えーと。2年5組の佐野です…。ドラムは田中で、ギターは鈴木で…。一曲目は…」 　そこまで言いかけて言葉が詰まる。何だトラブルかと顔をあげたら、佐野と目があった。 　暗いよー！！ってクラスメイトが笑いながらヤジを飛ばしている。 「…の…を歌わせて、頂きます…」 　こっちを見て突然動揺したように早口で言う。噛みすぎだし。聞こえないし。 　あいつ本番向いてないんじゃない？ 　チューニングの音がする。田中がバカって小さく叫んでる。チューニングはさっきやったはずだ。佐野はまたおどおどとして、沈黙が流れた。 　…もういいかな。 　聴くだけ無駄だと思って、背を向けた。ほかの後輩のところ行こう。 　ふぅーーー…。誰かの息を吐く音が聞こえる。深呼吸のような。 　そうして前奏が流れた。 　意外にも軽快な音楽に足を止めた。けどそれだけだった。歌が流れた途端ガッカリしそう。 　次に聴こえた声を聴いて振り向いた。田中が歌ってるの？ 　流し目で少し自信なさげに、詞を歌う。マイクから顔を逸らしながら。また下を向いている。 　眼鏡をしていない。 　髪が揺れる。 　今までに聴いたことないくらいはっきりした声。 　顔を上げて、 　叫んでる。 　漆黒の猫みたいな髪が揺れる。 　汗が滴って、表情が変わる。 　憂いを帯びた顔から、思いっきり口を開けて、苦しそうに歌ってる。 　笑ってる。 　楽しそう。 　楽しそうに、歌っている。 　全部が、別の世界に見えた。 ｰｰｰｰ君に一つでいい、ただ穴を開けたいｰｰｰｰ