初めまして「ウタウとアヤ」
秘密結社 路地裏珈琲
初めまして「ウタウとアヤ」
- 58
- 10
- 0
「準備は万端?」
「うん、バッチリ!」
「それじゃあ早速...」
アヤとウタウが、内番用の木綿の浴衣に身を包み、きりりとタスキで袖を括った。
両手にぶら下げているのは、掃除道具のバスケットと、もう一つはお菓子の詰まった風呂敷包み。建て付けのよろしくない、船内で1番大きな物置のドアに耳を当て、小さくノックを2回鳴らすと、中から可愛い鈴の音がした。そして、ドアは予想外に小気味の良い音を立てながら、ゆっくり二人を招き入れる。
宙に浮いたブランケットに優しく促され、恐る恐る足を踏み入れたウタウ。
中では“いらっしゃい”と、溜まりに溜まった思い出の品々を先立って整理整頓している、友人たちが待ち構えていた。
路地裏珈琲には、不思議がつきものだ。
ヒュンヒュンと音を立てて飛び交うアルバムは、ポルターガイストの“ポーちゃん”の仕業。所狭しと並んだ古い絵画の手入れをしている、フォーマルで気難しそうな男性は、元絵画の男性“オカちゃん”。その絵画を各地で救出し、買い集めてきたのは、二人の持ってきた差し入れをニコニコして抱えている3人の元文化財たち。そして、タブレットの画面からお掃除の指示を出している、偉くガタイの良いツインテールメイド風のAI、“Tちゃん”。
この部屋は、ものを収納するための部屋というより、彼ら人ならざるものたちの憩いの場所で、思い出の博物館のような場所なのだとアヤは言う。
「ごめん...いきなり見慣れない人たちばっかりで、びっくりしちゃった?」
ポカーンと口を開けたまま、しばらく棒立ちしていたウタウが、返事の代わりに急いで風呂敷から取り出したのは、小さな花束のようなものだった。
昨日の夜寝こけながら作ったのであろう、飴でできたひと房の紫陽花を差し出して、彼女が新しい友人にねだるのは、素敵な冒険談だ。
扉の外から心配性の番頭がちらりと顔を覗かせたが、これから始まる、賑やかな新人研修の予感に、彼は慌てて身を翻す。びっくりしてしまったミミズクが、細長く姿勢を正すような、あんな感じで。
成長した甘えん坊の妹分と、これから彼女の代わりにたくさん甘えてくれるであろう新しい妹分。友人たちと番頭の目尻が、幸福のままにフニャりと緩んだ。
「さあ、どこからお話しようかな」
ーーーーーーーーーーーーーー
アヤちゃんはちょっぴりお姉ちゃんになって、ウタちゃんにお世話を焼きたいみたい。
不思議なお友達との顔合わせは大成功だったようです。
コメント
まだコメントがありません