YELLOW
Military Girls★
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『一歩ずつ今日を歩いてる』
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-𝔖𝔱𝔬𝔯𝔶-
💗🔗if…①
「ねえ、夏を迎えに行こう!」
熱気が肌にまとわりつくような不快感の中。三階の端に位置する美術室の扉を勢いよく開けるなり、彼女は言い放った。七月も後半に差しかかったというのに、いまだ梅雨の明ける気配はない。放課後、二人きりの美術室の窓ガラスにも雨が叩きつけるようにして降っている。
「夏を、迎えに……?」
言われた言葉を小さく反芻する。呟くようなリヴィの声でも目前の彼女――ローメリーは聞き取れたらしく、うん、と弾んだ声で返事をした。花が咲いたような明るいその笑顔は、薄暗い美術室にはまるで不似合いだ。
「梅雨が明けないと夏が来ないでしょ?だからね、梅雨の後の夏を、私達で迎えに行こうって思ったの!」
夏を迎えに行く、なんて。そんな発想が出来る十六歳が、世界にどれだけいるのだろう。ローメリーは、冗談で言っているわけではない。目を見れば分かる。
「言いたいことは分かりました、けど……何か方法はあるんですか?」
リヴィの発した言葉――おそらくは、距離を置いているように思われるその口調――に少し寂しそうな顔をしたローメリーは、すぐに窓の方へ目をやり、遠くを指さした。
「あの灯台の、一番てっぺん! そこに行けばきっと、夏が見えるの!」
夏が、見える? 梅雨が終わる、すなわち雨が止むということ、なのだろうか。
なんの根拠もない話だ。第一、灯台の最上部付近は立ち入り禁止になっているのではなかったか。
ロ―メリーの目線を追うように外を見る。空一面が暗雲に覆われていて、遠くで落雷の音がしている。こんな天気の中、夏を探すだなんて本当に馬鹿げている。
冷静に考えれば、否定する要素しかない話。――だけど、嘘をつかれているという気はしなかった。こちらも同じく、根拠なんてない。ただの直感、というやつだ。
視線を戻すと、真剣な顔のロ―メリーと目が合った。いたずらっぽい顔をして笑っている。こうなれば、もはや何を言ったところで無駄だろう。自分がロ―メリーに甘いことなんて、リヴィが一番よく分かっている。現に今も、こんな突拍子のない話を聞いた後でさえ、彼女の願いを叶えたい、なんて考えてしまっているのだから。
透明なアメジストの瞳が、問いかけるようにリヴィを見つめる。諦め半分の思いで頷いた。――残りの半分?言うまでもなく、「期待」だ。非現実的なことが起こる少しの予感と、あとは彼女と過ごす時間への。
リヴィが頷くのを見るや否や、ロ―メリーは弾かれたように立ち上がってリヴィの手を掴んだ。そのまま手を引かれ、二人で階段を駆け下りていく。リヴィのものより少し小さな、温かい手。
リヴィのことを、救い出してくれた手だ。
物心ついた頃からずっと、リヴィの世界は灰色だった。理不尽な怒りと暴力に晒され、身を縮こめて、息を殺して日々を過ごしていた。
リヴィにとって、生きることは意義のあることでもなんでもなかった。生きることも死ぬことも許されていなかったリヴィに唯一許されていたことは、ただ少しでも早くこの地獄が終わるように祈ることだけ。祈ったところで、何も変わらないのに。いつしか、祈ることすらもやめていた。
存外早く――早くとは言っても、十数年耐え抜いた後だった。よく死ななかったものだと自分でも思う――解放の時は訪れた。中学三年の冬、リヴィはようやく今まで手にしたことのなかった自由を掴んだ。リヴィ一人の力では決して開くことのなかった窓が開き、決して見ることの出来なかった外の景色が覗いた。
リヴィを解放してくれた大人達から何か温かい言葉をかけてもらったような気もするが、よく覚えていない。何も心に響いてこなかった、それだけが確かだ。
環境が変わったところで、今までリヴィが歩んできた人生が書き換えられるわけでも、異質なものを拒む周りの態度が変わるわけでもない。
たとえ怯える必要がなくなったとしても、リヴィは今まで通り孤独なままのリヴィだった。
それから一年と少しが経ち、リヴィは地元の高校に進学することが出来た。もし母親から解放されていなければ、出来なかったことだろう。周囲の大人達には感謝していたが、だからと言って死んでしまった心が元に戻るわけではなかった。
高校に入ってからのリヴィも、孤独なままだった。流石に小学生や中学生の頃とは違い、面と向かって罵倒されるようなことはなかったが、周囲には溶け込めないまま。リヴィの昔を知っている者からの好奇、侮蔑、嫌悪の視線。小声で投げかけられる棘のある言葉。それもまたリヴィの「日常」だったから、殊更堪えるなんてことはなく、むしろ何も感じられなかった。そんな状況にあって他人と馴染めるわけもなく、リヴィは孤独なままだった。
「学校の生徒は全員何らかの部活動に所属しなければならない」なんていう前時代的な――こんなことを言うと叱られるだろうか――校則がなければ、きっと今も。
リヴィが選択したのは、廃部寸前となっていた美術部だった。昔から絵を描くことは好きだったから。色鉛筆や絵の具なんて上等なものは与えられていなかったから、何かの端紙と鉛筆だけで、見咎められないようタイミングを見計らっては目の前に広がる灰色の風景を描き出していた。絵にすれば、リヴィの目に映る汚れた風景だって少しは綺麗に見えたから。
美術部の部員はリヴィを含めわずか四人で、殆どが幽霊部員だった。そのおかげでリヴィは誰とも会話することなく、一人、三階の端の美術室で好きな景色を描くことが出来た。――彼女と出会うまでは。
いつもと同じ放課後だった。美術室に放置してあった描きかけの絵を完成させようと扉に手をかけたリヴィは、違和に気付いた。誰かが、いた。リヴィしか殆ど訪れることのなかった放課後の美術室に。
戸惑い、引き返そうか迷い、その前に勝手に扉が開いた。中にいた小柄な少女が、リヴィの方を見上げている。リボンと上履きの色を見るに、リヴィと同じ一年生だろう。
「美術部の方、ですか」
何か言わなければと思い、咄嗟に出た言葉はそれだけだった。自分の声なのに、自分の声ではないみたいに硬い。そもそも声を発する機会が殆どないのだから、自分の声を聞いたのすら久しぶりだ。
目前の少女が小さく首を傾げ――小さなリボンに縛られたツインテールが可愛らしく揺れた――納得したようにパン、と両手を合わせた。
「はい!入部しようと思ってて!あなたも一年生だよね?美術部なの?名前は?」
矢継ぎ早に繰り出される質問に怯えつつ、小さく首を縦に振り、何とかリヴィ、とだけ小さく返した。
「リヴィちゃん!可愛い名前だね!ねえねえ、リヴィちゃん!この絵を描いた人って、誰だか知ってる?」
そう言って彼女が掲げたのは、美術室の窓から見える風景を描いた一枚のコピー用紙だった。その絵には、見覚えがあった。先日、息抜きとしてリヴィが描いた落書きだった。ただ一つ記憶と違ったのは、風景に色がついていたということ。リヴィの白黒の世界に、色がついていた。戸惑いつつも、ゆっくりと言葉を返す。人と話すのは慣れない。
「描いたのは、私、ですけど……色は……」
「リヴィちゃんが!?これ!?描いたの!?」
ゆっくりとたどたどしく紡いだ言葉は、瞳をキラキラと輝かせた少女によって遮られた。いつの間にか距離を詰められている。両手を掴まれた。勢いがすごい。正直、少し怖いくらいだ。対人コミュニケーションに慣れていないリヴィにとって、一方的に距離を縮められるのは恐怖でしかない。それでもこの絵を描いた者として説明をしなければ、と口を開いた。
「は、はい……ですけど、私、色は塗ってなくて……」
はわあ、と感動したように大きく息を吐き、少女は絵に落としていた視線を上げリヴィに向き直った。
「あのね、色は私が塗ったんだ!美術の時間に捨てられてるのを見つけて、すごいって思って、感動して!今まであんまりお絵描きってしたことなかったんだけど、どうしてもこの絵に色を付けたいって思ったの!」
衝撃だった。リヴィの絵に感動すると言ってくれたことが。白と黒と灰色に彩られていたリヴィの世界が、初めてそれ以外の色に染まったことが。何より、彼女がリヴィを拒絶しなかったことが。胸の中に温かいものが広がっていく。初めての感覚だった。
そんなリヴィの様子を見て、少女は嬉しそうに笑った。
「あのね、私、決めたよ!美術部に入る!もっとリヴィちゃんと一緒に話してみたいって思ったの!あ、名前言ってなかったね!私はロ―メリー!」
よろしくね、リヴィちゃん!そう告げる屈託のない彼女の笑顔は、あまりにも綺麗で。不要な存在だったリヴィに、笑いかけてくれた。リヴィのことを肯定してくれた、真っ直ぐに向き合ってくれた初めての人だった。リヴィの過去を知らないだけだろうとはいえ、救われた思いがした。
きっとしばらくすれば、クラスの友人たちからリヴィの話を聞き、関わりを絶つよう諭されるだろう。期待すれば苦しい思いをするのだと知っている。だから、期待してはだめなのだ。そんな思いを抱えたまま、リヴィはロ―メリー、と知ったばかりの少女の名前を小さく呟いた。
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-ℑ𝔫𝔣𝔬𝔯𝔪𝔞𝔱𝔦𝔬𝔫-
Military Girls★は8/5~8/24の期間中、毎日サウンドを投稿します!
限定デュエットや学パロ自由合唱などの投稿を予定しています!お楽しみに♪
【投稿予定③】
8/15 🔗×🗝/💗×🔗
8/16 💗×🔗
8/17 学園パロサウンド①
8/18 学園パロサウンド②
8/19 学園パロサウンド③
8/20 学園パロサウンド④
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-𝔏𝔶𝔯𝔦𝔠-
🔗窓辺にそっと描いた願いごとは
🧁音もなく窓の外 飛んでいった
🍋羽ばたくことできずに茜空
🎻苦しくて悔しくて孤独な夜
🍋🎻でもね まだわたし
自分の背中 信じていたい
🔗🧁今はまだちっぽけな
翼だけど風を待ってる
🍹きっと心は遥か 遥か
まだ遠くまで飛べるわ
🎻🔗叶えたい出来事が溢れてる
🍹そんな心染まるYELLOW
煌めきたつYELLOW
🧁🍋叶えたい明日がもう待っている
🎻信じてる
🔗わたし いま
🍹一歩ずつ今日を歩いてる
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-𝔐𝔢𝔪𝔟𝔢𝔯-
🍋ウィンゲート Wingate
(cv.プリン)
https://nana-music.com/users/7753631
黄金の悪魔。気さくで社交的、誰とでもすぐに仲良くなれる。
自分のやりたくないことは上手に他人に押し付けるちゃっかりした性格。
ひらめきだけで生きているように見えるが実は計算高い。
楽しければ別になんでもいいかな、と思っている。思考回路が雑。
🧁シャルロッテ Charlotte
(cv.未蕾 柚乃)
https://nana-music.com/users/2036934
丹色の悪魔。好奇心が強く、チャレンジャー。
飽き性で物事を長く続けることが苦手。
人に褒められることと目立つことが好きだが人に指図されるのは嫌い。子供っぽくワガママ。
負けず嫌いなのでゲームには負けたくない。難しいことはあまり分かっていない。
🎻ルーリ Lurie
(cv.瑠莉)
https://nana-music.com/users/6276530
紫苑の悪魔。いつもほんわかした笑みを浮かべている。
一見お人好しそうに見えるが実は腹黒の毒舌家。
ハピリとは仲が悪く顔を合わせるたびに喧嘩している。
ヴィリアと同じく召喚されたことに怒っており、報いを受けさせるべきと考えている。
🔗リヴィ Livi
(cv.唄見つきの)
https://nana-music.com/users/1235847
漆黒の悪魔。馬鹿真面目で融通が利かない。
自分のしたいことがなく、ただただ言われたことを忠実にやり遂げていく。表情筋が死に気味。
ラーニャとレオナを頭のおかしい狂人だと思っているが、どこかで2人に憧れている。
自分のいる場所なんてどうでもよく、ただ言われたことをするだけだと思っている。
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-𝔗𝔞𝔤-
#Military_Girls #ミリガ
#ウィンゲート #シャルロッテ #ルーリ #リヴィ
𝔑𝔢𝔵𝔱▶恋のコード
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