「助っ人」
秘密結社 路地裏珈琲
「助っ人」
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「野郎どもも運が悪かったな、サトウさんの人材収集癖までは予想できなかったようだ」
空になった、溶剤のボトルを溶けた黒い塊に深々と突き立てる。
教会の前に出来上がった、墓標のような残骸に、スズキが小さく十字を切った。
辺りの雑魚は蹴散らした。唯一の希望、溶剤はすっかり空っぽだが、心配は無用だ。きっと、託した希望は電話越しに伝わって、今頃中庭は生産ラインと貸しているはずだから。
「ま、あたし達、腐っても天下の付属美大卒なんでね。“就職“前に、一通り修復と手入れの技術は叩き込まれてる」
「自慢じゃあございませんが、このポストにつくには学部でそれなりの成績修めなきゃあならんのですよ。専門家も専門家、小生の掌で存分に踊るがいいわ、哀れな物の怪め」
門の前でパンパンと、話を遮るように、そして中庭に集まって働きづめの珈琲屋たちの注意を引くように、トレンチコートの親玉、イチロウが手を叩いた。
「......これで、役者は揃った。ところで、秘策を用意してきたよ。この村の魔力に乗っからない手はない...紹介しよう」
茶寮の三人が護送してきた、サトウよりも少しだけ背が高く、フリードにもどこか似た髭を蓄えた、ローブの男性。道を開けられて、進み出た彼はそっと、自ら姿をあらわにした。
やはり、既視感がある。
伸びきって傷んだ黒い長髪、痩せ気味で面長、丸メガネのよく似合う優しい眼差し。
初めて会うにしても、あまりに面影があるのだ...顔のパーツの、端々に、誰かの記憶がふわっと香る。
穏やかでのんびりした雰囲気を漂わせる、その男性の目には、美しい光が灯っていた。
「一枚だけ、大きなキャンバスを手に入れたから、僕らもちょっと彼方様の真似事をしてみたんだけれど、一般の画家が書き残した絵で、再現の難易度が高すぎず、それでいて今回のような事態に最適な人......って言ったら、肖像画が思い浮かんでね」
まさか...。ざわつくあなた達の前で、ひょいと片手をあげて微笑む“肖像画”の目じりのしわを見て、誰かがその名を口にした。
「.......アイゼア」
「そう。アイゼア=トリスタン、よろしく。」
偉大なる三大宗教画を残した、画家、アイゼア。
そう、その名はサトウとフリードの額縁に刻まれたサインの持ち主。
「僕の息子が、お世話になっちゃって......あの時、僕もだいぶイキってた時期で、ほら...ちょっと大胆に描いちゃったもんだから、まあ反抗されると手強いよねぇ...ここは、責任もってしばき倒すわ。よろしくね」
今度の反撃の合図は、お茶目なウインクで。
肩に担いで見せた例の銃器が、鈍く、鋭く、輝いた。
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最終決戦、前半戦へ。
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