ちょっと心惜しいけど…
ジッタリンジン
ちょっと心惜しいけど…
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サロン仕事は人付き合いの仕事だと言っても過言ではない。そうなると自然と増える物、物、物…。どれも有難い心遣い、とはいえ…
「流石に頂き物だからって大切に置いておいても家が散らかるだけね。…ありがとう!私への揺るぎない愛!!しかと受け止めたわ!私も愛してる!」
箱に詰め込んだ使わない頂き物に熱い抱擁をした。よし、心は受け取った。から許してね☆
なかなか重い箱を懸命に持ち上げる。無論、大事な頂き物を無下には捨てない。これを欲しい人や必要な人に受け取って欲しいと、ニフの元へ相談するのだ。水溜まりに注意し箱を抱えて広場を横切る途中、聞き慣れた声で自分の名を呼ぶ者がいる。驚いて振り向くと、自分と同じように箱を抱えて中身を敷物に並べているシノがそこに居た。
「あれー?シノも不要品処分?」
ストレートな言葉にシノは息を詰まらせた。
「それにしてもシノ…趣味変わった?何なのかしら?みんなバラバラというか…うーんサイケデリック」
ヤミィなりのフォローなのだろう。これ全てが私の私物だと思われてる!確かに大事な物だが、その勘違いはちょっと困る!シノは即座に事の説明をした。ヤミィの目が好奇心いっぱいに輝く。
「また私を抜きにしてそんな面白いことしてるの!?理事会は私を通してイベントやんなさいよね!…でも会合とか話し合いは嫌、サロンで十分」
少しゲンナリした顔で言う。やはり店のトップ、シノには分からない気苦労もあるのだろうか。
「…なるほど、バザーね。今私が持ってるのは頂き物だから、私が売ってしまうと色々問題になるけど…いつかみんなでバザーやりたいわね。店にも在庫抱えたりとかあるから、声掛けたら大きな祭りになるわよ?ふふふ」
出張所に顔を向けて目がギラリと光った。ああ、いつかニフ先輩がヤミィさんに捕まるんだろうなぁ…思わずニフの未来を予想してしまうシノ。
「まあ、それはおいおい…ふーん、つまりこれってこの商店街に昔商品として売られていたものの残りって事なのよね。おもしろーい、つまり先輩って訳ね。見せてもらおうじゃないのよ…少しお邪魔していいかしら?」
自分の箱を傍らに置くと、ヤミィはシノに向けてウィンクした。シノはパァっと顔を明るくして、勿論!と言った。
元々、蚤の市を見て回るのが好きなヤミィ。他の人なら一目しただけで見向きもしなさそうなガラクタの山を丁寧に見て回る。
「おんもしろーい!これハイヒールじゃない!?防具屋はあるけど…こんなの、靴の専門店じゃないと置いてないわよ?昔靴屋さんもあったんかしら?」
確かにこの子達は売れ残りではあるが、キリエの歴史そのものなのだ…靴屋行ってみたかったな…話を聞きながらシノは思った。流石様々な土地で働いてきたヤミィ、商品説明などしなくても、彼からポンポンと知識や面白い話がとび出てくる。
「凄いです。私の知らない事も沢山知ってて…凄く勉強になりました!」
「学生さんにそう言われるなんて、私の知識も捨てたもんじゃないわね、ありがとう。さぁて…実は欲しいと思ったものがあるんだけど、残念ながら買い物する気なくて、お金もってないのよ。そこで相談なんだけど…いい?シノ」
そういうと、ヤミィは自分の手持ちの箱を取り出して、シノの前に置いた。
「物々交換なんてどう?ふふ、お互いが一番のお気に入りを貰うの。素敵じゃない?」
物々交換!そんな商売法もあるなんて。シノはワクワクした。ヤミィの私物にも興味がある。いいんですか!?と身を乗り出して箱を物色する。お客さんが目を輝かせて商品を見る気持ちってこういう高揚感なんだな…宝物探しをするこのワクワク感、今回も味わえるなんて!しばらく箱の中身の旅を楽しんだ後、シノはゆっくりと慎重に箱から取り上げた。
「これにします!硝子の美しさが堪らないです」
それは口が少しかけた華奢な花瓶だった。ヤミィは驚いて口に手を当てた。新品同様の頂き物を詰めたの箱に、自分が愛用していて捨てられなかった物も混ぜていた。大好きだけど、そろそろサヨナラして新しいものを取り入れたい…と長い時間悩んでいた数点の品…その花瓶もまた、小さくチップしているのに長らく捨てられなかったのだ。
「素敵でしょ?私もすごく気に入ってたの。でも、それは口が少し欠けているわ。何も古いものじゃなくて、使ってない物を選べばいいのに」
「…やっぱり…やっぱりこれです!小さくてちょうどいいし、すごくオシャレ。そのままでもお部屋に飾りたいなって。うちの屋敷もいつもお花が飾られてたから、ずっと花瓶が欲しかったんです。でも気に入るのがなくて。ああ、買わなくて良かった!ありがとうございます!大切にしますね」
ニフに引取りが断られたら、この花瓶はまだ飾ろうと思う程の思いのある物が、シノの小さい手に優しく包まれている。嬉しい半面、少し寂しい。ヤミィは静かに微笑んだ。
「さあ、今度はヤミィさんの番ですよ?どれを持っていきますか?」
「この宝石箱にするわ」
どことなくシノのペンにデザインの似ている宝石箱。シノは惜しむような声を上げた。
「わー!見つかちゃいましたか。それは私のペンを作った方の作品で、箱と宝石を仕舞う台座が連携していて、仕舞うアクセサリーの力を使って箱に属性を与えて中身を守るんだそうですよ」
「ちょうどジーグに作ってもらった武器用のリングを仕舞うものが欲しかったから、すごく助かるわ。しかもセキュリティ付きなんて最高じゃない」
「実は私も目をつけてたんです…ヤミィさんとは気が合うのかも…!」
2人で互いのセンスを称えながら、無事物々交換が終わった。もう相手の持ち物になった…でも少し残る未練。バイバイ、大事にしてもらうんだよ。別れ際、口に出さなくとも、2人の心には同じ気持ちが浮かんでいた。
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宝石箱と花瓶を交換しました。
(シノのバザー 売上3)
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