ヒーローは背を向けない
KYOKA JIRO Starring Chrissy Costanza
ヒーローは背を向けない
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協力者が申請にあられたとの一報を受け、ちぇりは踊り出しそうな足を前へ前へと進ませた。
「お待たせしました!!ちぇりです!今回はよろしくお願いしますぅ!!」
そう言いながらも息が苦しく、膝に手をつきハァハァと息をしながら項垂れてしまった。整いだした呼吸…ゆっくり頭をあげるとそこに居たのは…
「…意外そうな顔だな。そんな驚かないでくれよ」
「キャン!すいませぇん!ジーグさんいつも忙しそうだから、お手伝いに出てきてくれるなんて思わなくて。それも営業の…」
目立つ事をする人のイメージがない…と言えず、胸の前で両手の人差し指をつついた。そんな風に思われているとも知らず、ジーグは問いかけた。
「さてどうする?武器屋と何でも屋…か…そこら辺のゴロツキでもとっ捕まえて、名を挙げたら有名になれるんじゃないか?」
薄ら笑いを浮かべなから、腰のホルダーから短剣や魔法銃を取り出すジーグ。早速装備しながら門へ向かおうとするジーグの背中にしがみつく。
「くぅぅうん!早まらないでジーグさんん!広告ってそういう事じゃなくて…!暴力はやめよぉお!」
ちぇりに引き止められ、残念そうに武器をしまった。ちぇりはほっと胸を撫で下ろすと、不意に目の端に見覚えのない銃がうつった。
「ジーグさん…それ…?」
「あ?あー、これか。私の意地と夢だよ」
笑いながらも愛おしそうに銃を撫でながら言った。ジーグの依代銃、今は亡き旧友との約束であり、ジーグの最大の目標となっている彼の「夢」だ。どんな時も肌身離さず持ち歩いている。ちぇりはジーグから銃のこと、旧友との思い出、今の努力を真剣に聞いていた。
「すっごいね!ジーグさんも、お友達も、その銃もすっごくすっごくカッコイイよ!まるで物語を読んだみたい!銃やお友達はジーグさんにとって…」
ジーグはちぇりの最後の言葉に心が震えるのを強く感じた。漠然とした憧れと意地と、小さな嫉妬も…そうか、そういう事だったのか。私にとって…
ジーグの頬に冷たいものが当たって流れた。我に帰るジーグ。ちぇりがアワアワと頭を抑えた。また雨が降り出したのだ。2人は近くの店で雨宿りをした。軽食を頼みつつ、窓の外を睨む。2人の耳に近くの席の話し声が聞こえてきた。全く明けない連日の雨の話だった。
「なんて執拗い雨なんだ…晴れ間なんて何日見てないだろうな…かなりの数の住人が連日の雨を嘆いてるってのに…今日も雨だ」
嘆くジーグ。無理もない、実際店は売上が落ち、農家は不作に苦しみ、川が溢れて橋や道が壊れるなどの被害があちらこちらでているのだ。晴れを呼ぶ呪詛も無くはないが、季節を変える力は無く、雨季に対抗するために使うのはとても現実的ではない。…とはいえ、何か良い方法はないだろうか。ちぇりがパフェをすくったスプーンを口に入れたまま、じっとジーグの腰元を見つめていた。
「…ジーグさん…その依代銃って私でも使えるの?」
「え?…ああ。誰でも使えるはずだ。人に使わせたことは無いが、理論上、カミツキなら誰でも使える」
「!!じ、じゃあ、貸してもらえる!?私なら、私の魔法ならもしかしたら役に立てるかもぉ!」
そういうとパフェをガツガツとかき込んだ。なんの事だか分からないジーグだったが、自分以外が使用するところが見れるのはとても興味深い。ジーグもちぇりに合わせて急いで食事を済ませ店を出た。
ザァザァと雨はさらに激しさを増した。商店街の広場は人が疎らだ。それでも生活の為、店は客が来ないかと店舗を開けている。どの店も皆、何処と無く覇気のない顔をしている。
「ジーグさん、銃はどうやって使うの?」
「魔法を使うのとあまり変わらない。最初に詠唱して憑神を呼ぶんだ。魔力が流れたらすかさず銃の交心の呪詛を起動させると魔法が銃に流れて、銃の弾の様に魔法を打ち込むことが出来る」
ちぇりはヴァーチャーと心を通わせ、ジャキッと音を立てながら雨の降り頻る暗雲へ放った。
カチリ…虚しく音が響くだけだった。ああ、やはり…ジーグは苦虫を噛み潰したように顔を顰める。…このリズムじゃー神様もいつ入っていいか分からないんだろうねぇ…アラタの言う通りなのかもしれない。自分で打っている時も空打ちが連発する。ちゃんと全ての装置が作動してるにもかかわらずだ。リズムってなんだよ…イラつく心。
「大丈夫だ完璧にできてるぞ、ちぇり!また試作段階だから銃が悪いんだ。諦めずに続けてくれ!」
大雨の中叫び続けるちぇりと虚しい金属音、何をしてるのかと人々の目が集まった。変わらない状況、寒さにちぇりが震え出す。もう辞めよう…ジーグはちぇりを制止した。
「大丈夫だよ!きっと大丈夫!!そんな気がするの。私達を信じて!ヴァーチャー!全能の光の使者よ!願いを乗せて、打ち払え!道を示せ!!」
大太鼓がうち鳴らされたかのような轟音が響いた。物理魔法が宇宙に届く勢いで打ち放たれた。その衝撃に巻かれ雲は散り散りになり、光がさした。銃の衝撃に吹っ飛ばされたちぇりを抱きとめたジーグは2人同時に地面に崩れた。呆然とする2人に、雨音の様な拍手が祝福した。ポツポツとした音は、やがて豪雨のように2人を称えた。雨が止み、日差しが優しく街を包んだ。
「…何でも屋だ!何でも屋!!覚えておけ!何かあったら相談してくれ!頼んだ!」
ちぇりを膝に乗せ、座ったままの体制でジーグは宣伝した。まごまごと感謝を伝えるちぇりにジーグはぶっきらぼうに答えた。
「アイツや銃をヒーローみたいって言ってくれて、銃を打つ時『私達』って言ってくれて…ありがとうな。ちぇりも…私のヒーローだよ」
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久しぶりに、キリエが晴れました。
(ちぇりの何でも屋 売上2)
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