伸ばす手と手
doriko
伸ばす手と手
- 23
- 0
- 0
「…そっかぁ…彼、故郷の理事会員になってたなんて…とても努力家だし、誰よりも故郷を思ってたものね…すごいなぁ…」
呪詛屋の横を2つの傘が通る。恋人だろうか?雨に濡れながらも繋ぐ手が見えた。…ザーー…水を求め、雨を降らす呪詛を学ぶ。その運命のお陰で彼と出会い、そして…
「なら…私なんて仕事の邪魔になるかなぁ…うちの街の理事会員は頼りないけど…忙しいのはよく知ってる。会いたいとは言ってくれてるけど…単なる店主と理事会員かぁ」
運命は学びを終えると別れを与えた。幼い彼女は彼を追うことも出来ず、気づけば残酷なまでに時は流れ流れていたのだ。街の理事会員と呪詛屋…大きな隔たりという現実をまざまざと見せつけながら、この恋はまたさとらの元へ戻ってきた。さとらの答えを求め…。
…自分に自信が無い…。生まれて初めての恋心は彼女の宝箱の中、もう触れることも出来ない綺麗な寓話と化していた。未練がないといえば嘘になるが…現実味が無さすぎるのだ。彼は手を伸ばしている。後は自分が手を伸ばせば良いだけ、なのに…。彼の心にも、自分の恋にも、そして立場にも…怯えてしまっている。そんな自分が酷く惨めで悲しいまでにちっぽけに感じた。
ザー…雨で冷え込んだ日、暖を求め作ったのは世界樹のお茶。珈琲は…何となく避けてしまった。
哎呀ー!という声と共に扉から声が聞こえた。なんだろうか?さとらは彼からの手紙を急いで引き出しに押し込めると、身を乗り出して扉を覗く。そこに全身を雨に濡らしたメアリがいた。
「うう!つべたいネ!ショーの終わりがあと少してところで降って来たヨー!」
笑顔で話すメアリに、風邪ひくわよ!と叱りながらタオルを差し出す。
「私のお古でいいなら、子供の頃の魔女のローブがあるわ、そのままじゃ寒いでしょ?」
謝謝!メアリは真っ黒のローブに着替え、温かい世界樹のお茶を啜った。
「雨が降って来たなら、残りは後日って打ち切ればいいのに…」
そう言って、さとらはゆったりと椅子に座る。
「哎呀!そうはいかないヨー。お客サン帰らないなら、メアリも帰らないネ。それに…」
両手で掴んだカップで顔を隠しながら、上目遣いで語り出す。
「さとらだけヨ、秘密ネ!?…実ハ…毎回必ず見に来てくれる、メアリの…同級生君が居るネ。キリエの美味しいお肉屋さんを営んでるヨ。メアリ、お店ないカラ自由、でもあの子はお店の偉い人…忙しいネ。でも、絶対絶対来てくれるヨ!暑くても、風強くても、今日だって最後まで見ててくれたネ。メアリ、できる事これしかないヨー。驚かせて、笑顔を届けル。忙しいのに見てくれる、あの子に楽しんで欲しいヨー。お仕事頑張れるヨニ!」
かつて、彼の為に珈琲やお茶を作り続けた自分と同じ服装で、立場の違いを超えて手を伸ばす同級生に答えるメアリが、さとらに微笑みかけた。仄かな恋色に染まる頬…あの日の自分とダブって見えた。
すっかり体が温まったメアリはさとらに礼をしつつ、雨の街へと消えていった。…パタン。誰も居なくなった呪詛屋。不意に湧き上がる寂しさに、手は彼の手紙を求めた。すると、彼の手紙からポトリと何かが落ちた。封を開けた時に香った、その正体…。
「……珈琲の…豆…」
「さとらさん!おはようございます。朝早くに申し訳ございません…今日、砂漠の街へ向かうのですが、どうしますか?もし言伝や手紙等あればお預かりします」
みりんが早朝に呪詛屋を訪れた。仕事の関係でまた彼の街へ出張に行くようだ。
「ありがとう、みりん。お願い、これを彼に渡して。ちゃんと書けたと思うけど…あの…えーっと…変な顔してたら、お待ちしてますって事ですってちゃんと伝えてね…」
一体なんと書いたのだろうか。顔を赤らめ俯き気味にアワアワと話すさとらが、いつもの姿とかけ離れすぎて何とも愛らしい…クスリと笑って、お任せ下さい!とみりんは答えた。
‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇
手紙を届け、彼のキリエへの移動を手伝ってください。
コメント
まだコメントがありません