無歌の詩
NAZNA
無歌の詩
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園長を媒体にキリエの各地に根を張り、色を奪い続けた無歌は、花を打ち破った者達により、根源を破壊されみるみる枯れ落ちていく。温室に戻れたのも束の間、色とりどりの花弁を舞わせた春風が気味の悪い湿度を帯びて吹き荒れた。
「馬鹿な…馬鹿な…ゲヘナの力を持って尚、忌々しい色を放つのか?アッシャーの分際が…常を裏切った命ある者の分際が!」
春風と共に春の主が現れた。その姿は祭壇に居たそれと違っていた。己を媒体に、全身に無歌を這わせ、自身も色を失っている。禍々しいそれは叫び声を上げると、空間ごと花に飲み込ませた。
起き上がる7人、そこは全て灰色の酷く冷たい世界…息が苦しい…どうやら現世ではなく、世界樹の向こう…ゲヘナの一角らしい。人が居るべきではない世界。空間がギリギリと皆を苦しめる。
「常は…春と花の女神…ペルセポネ…」
「状況を分析します!知恵の神トート、全知全能の目は開かれん…いけない!魔力の凄い流れを感知しました!ちぇりさん!」
「任せて!絶対に皆を傷つけないから!!ヴァーチャー、立ち向かう者に護りの御御手を!」
スティックを春の主に向けて分析を行うシノから指示が飛ぶ。春の主が両手を広げると無歌の花が7人目がけ咲き乱れたが、間一髪ブローチに祈りを込めたちぇりの防御で事なきを得た。
「常は…騙されたのだ…冥府の柘榴を食わされ…冥府に鎖された…」
「いい加減付き合ってらんないわ!ジーグ、手加減なしよ!キュベレー!眼前の穢を焼き払え!」
「…砂漠の時の比じゃないぞ…覚悟しろ!トール!我等が雷鳴で全てを穿て!」
ヤミィの炎とジーグの雷が相乗効果をうみ、途方もない焔雷が主に蔓延る無歌を払った。しかし、死の概念のない神にやはりダメージがない。
「常を失えば…春は消える…常は…愛するこの世界を憂い、やっと戻った…命が凍えぬよう…常春をまた与えようと…なのに…なのにぃぃぃいい!!」
「いかん!これでは拉致があかない!奴を止める!援護してくれメアリ!…彼の地に全ての有は無と帰す、絶対零度の牙龍よ轟け!」
「哎呀!的当てならメアリ得意ヨ!失敗しちゃいけないネ…絶対絶対止めてみせル!来来、斉天大聖!停止那一步!!」
みりんは巨大な氷柱を作り上げると主目掛けて吹き飛ばした。すかさずメアリは風を操り、氷柱を隙間なく主の周りに突き刺した。
「常が戻った時には…もう…春の神の半神が神と同化し…主となっていた…。常の帰りなどどうでもよかったのだ…色のない世界で…この世界が凍えてないか不安で…春に彩られた世界に戻す事だけを信じて…なのに…なのに…なのに。この世界は4柱の主を立て…四季をめぐらせた。そこに…常の席などなかったのだ…美しい春と花の女神の姿を保てなかった常に…白黒の我に…」
ボタボタと灰色の涙を流し項垂れる主。
「色とりどりのこの世界が忌々しかった。何故、我に応えてくれないのか。なら、いっそ消してしまえと思った。色など…春など…」
「これが…応えです…貴女の花を愛し、慈しみ、育て上げ、飲み込まれて記憶を弄ばれてなお、貴女の花を想う者の…応え」
瞳に各々が憑神を宿す中、純血のフェアリーの血を借り、女夷がフィーと同化した。羽衣を纏い、フィーの周りは様々な花が咲いては萎み、そして咲いていた。主に向かい、すっと手を開くと、白黒の種がコロンと転がった。
「そして、無歌も彼女の愛に応えた。次は貴女の番…ペルセポネ…貴女が、貴女こそが我等春の神々の、たった一柱の春の主なのですから…」
…遠のく意識の中、泣き声だけが響いていた…それはまるで、ひとつの歌のような響きだった…。
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