海の底の罪
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海の底の罪
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「んーやー…ちっちゃこいのが来たなぁ…」
大柄のアグルの前には、薄暗い窼の空気に震える白と栗色の小さな人影。ちぇりとシノが手を取り合ってアグルを見上げる。…ガオー!!アグルが叫ぶと2人は悲鳴を上げて、面白いほど飛び上がった。腹を抱えて大笑いするアグル。
「はー!おもしれぇなぁ!!そんなに怯えてるのに、俺の所に仕事しに来たのか!?度胸があんのか無いのか分かんねぇが、気に入った」
そういうと地図とメモ、万年筆を手渡した。
「怖がりなお前らにピッタリの仕事だ。ある人物を見つけて欲しい。恐らくまだどこかにいるはずだ。とある情報を握っている…それを聞き出して欲しい。恐らく何もしなくても教えてくれるだろう。難しい事は無い…ただ、情報は重要な事だ。しっかり聞き取ってこいよ!」
荷物を持たされキリエの外へ。いつものニタニタ顔のアグル。最後に2人の背中を押して、お前らにしか出来ないと思うから…と呟いた。
地図に導かれ、世界樹から離れた海へ…街を経由しながら、数日をかけてやっとたどり着いた。
「わあぁ!海だよ!シノちゃん。大きいなぁ!これが海の香りかぁ!!」
嬉しそうにはしゃぐちぇりと対照的に、地図を見つめ困り顔のシノ…どうしたのか聞いてみる。
「目的地…どう見てもこの座標は海の中なんです。アグルさん間違った地図を渡したのかな…」
シノは受け取ったメモを取り出す。メモに何か挟まっている。アグルの手紙と2枚の新聞であった。2人は砂浜に腰を据えて紙切れに目を通す。
新聞は2枚ともそこまで古いものではなさそうだ。日付を見ると、去年の春頃発行されたものらしい。新聞の記事はこう書かれていた。ひとつはメリドールの著名な学者より、新種と見られる植物の発表があったという事、もうひとつはメリドール恒例の新春の宴にて、突如街中が色彩を失う珍事が起き、未明には厚い雪雲に覆われ、異常気象により街は壊滅の危機である事…。同じ街の名前、しかもこの2つの記事は1ヶ月ほどしかズレがなく、2つは短期間に起こった事柄のようだ。そしてアグルのメモに目を通す。
「地図が海を指してるって慌てた頃かな?って、冗談はさておき。新聞の内容は見たか?記事に書かれた街はもう無い。『何か』に崩壊されたんだ。俺はその植物じゃないかと睨んでるんだ…調べると、その植物を数名の研究者が共同で研究してたそうだ。その中にキリエの植物園の園長も関わってた。聞き込みに行ったら既にその植物は盗まれた後だったってオチだ。盗んだ奴の捜索は時間がかかった。マーメイドの亜人だったんだからな。最近はお前らがいる海で目撃情報がある。俺じゃあ警戒されるだろうから、どう見ても危険じゃなさそうなお前らに任せたって訳だ。盗んだ理由、そして、もし読みが当たってたらその対処法を聞き出してくれ」
そういう事か!シノは千里眼を詠唱する。髪飾りとステッキのおかげで海に居るようなクリアな視界が頭に飛び込む。ちぇりはシノの指示通り、話したいので岩場で待っていると書いた手紙を亜人が向かっている浜辺へ置いた。ドキドキしながら待っていると、夕方近くになって人影が現れた…園芸店の元店主だ。
「キ…キリエの皆さん…ですか?覚悟は出来ています。どうぞ軍に送ってください。罪は受けます」
透き通り、今にも消えそうな声。咳をする淡い水色の髪をなびかせた女性。ちぇりは彼女の咳を沈めようと背中をさすり、シノは水筒のお茶を差し出した。そして2人はこれまでの経緯を説明した。彼女から涙が零れる…
「そんな…あれは…あの話は本当だったんだ…キリエ以外にもあったなんて…街が…私は…」
「何かあったんですね…くーん…辛いのに一人ぼっちで居たら苦しいのに…」
ちぇりは涙目になりながら背中を摩り続ける。シノはメモとペンを取り出した。
「良ければですが、詳しく教えて貰えませんか。情報を集めてる方から頼まれて来ました。もしかしたら、貴女の情報が街を救うかもしれません!」
彼女は声を詰まらせながら話し始めた。花祭の準備期間に居た不思議な子供。子供の言っていた不吉な言葉、その言葉を受けて盗みを働き、植物を全て海に捨てた事…。
「ずっとずっと、怖くて、悲しくて…海を彷徨いました。どこかに消えたいって…でも、でも…園芸店で働いてた日々が忘れられなくて…結局捨てた場所に潜って戻ってしまう。押し潰されそうになる時は、私は街を守ったって自分を正当化して、街に戻りたくなったら、その罪を思い出して…同じ所をぐるぐる回るだけで…」
ちぇりは耐えられずに顔を覆って泣いていた。シノも心中を考えるだけで胸が痛かった。人知れず街を守っても、罪を背負って街に帰れないなんて…大好きな人にも会えず、海の底の盗品を見詰めてるなんて…どれだけ苦しいだろうか。
「子供は…応えろと言っていました。応えろと…その植物の名前は『無歌』という名の冥界の植物だそうです。もしかしたら…無下に枯らしても、また春には種が運ばれるのかも。分からないけれど、あの子の言う通り『応え』たら…何かが変わるのかもしれません」
2人は話をしっかり書き込んで、彼女にお礼をし、また来る約束をして帰って行った。まさかこの一日が運命を変えるとも知らず…
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マーメイドの友人が出来ました。
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