想いと依代
水樹奈々
想いと依代
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ガクンと俯き、フーっと煙草の煙を吐き出す。恥じらいにバツの悪そうな表情で顔を上げたアグルは度肝を抜かれた。いつも気だるげなジーグが一筋の涙を流していたのだ。え?俺泣ける話したっけ!?アグルは珍しく慌てふためく。
「あ…あぁ、すまん。もし新しく家族ができて、そいつに出ていかれたらって想像したら…私は…」
ポロポロと涙の筋が増える。自分より強い感情を聞き手に突っ返され、逆になんだか悲しめなくなったアグル。まぁ…でも共感して悲しむなんて、コイツ見かけによらず可愛いとこあんじゃん。アグルは微笑み煙草を咥えた。
「だから…」
微笑みに目を閉じていたアグルの脇に雷鳴が轟いた。真っ青になりながらゆっくり目を開くと、アグルの横の地面は黒く焦げている。
「これが正しいかわからんが…私でよければ、殴り合おう。気の済むまで…!!」
いや、言ったけれども…!咥えた煙草が震える。なんつう話の展開…この空気、俺は知ってるぞ…アグルは半神の目でジーグを見据える。きっとコイツも単一使いだ…チラつく蒼の氷の記憶。単一って性格が似るのか?…いやいや。
外に出た2人。火山岩の転がる窼のフィールド。
「悲しみが枯れるまで殴り合おう…耐えてみるさ」
手には魔法銃。他にも銃が腰にぶら下がっている。こいつ武器屋だっけ…単一に武器のプロ。下手な傭兵より厄介だ…。
「うっせーよ!!よくも愛用のチェアー焦がしやがったな!!俺のお手製なんだぞ!コンチキショー!二重に別れ作ってんじゃねぇよ」
あー…ごめん。いつもの調子で謝るジーグ。あ、それは悲しまないのね…あの椅子も割と悲しいんだけども!?無言で突っ込むアグル。
ジャキ…無機質な音が響く。ジーグは装填を終えてアグルへと構える。すると大ぶりのバズーカを構えるアグル。
「最近戦いに駆り出されてさぁ、戦利品。ちょうどいいわ、これぶっぱなしたかったんだよな」
意地悪くニヤつくアグル。ジーグは即座に回避する。ジーグのいた所に遅れて着弾し、魔法陣が浮かんだかと思うと、間欠泉のように水が吹き出す。…弾が大きい分、複雑な呪詛を詰め込める。威力が強い…!だが、装填に時間がかかる上に弾の速度も遅い。すかさずジーグが銃を放つ。アグルは慌てて胸ポケットの羊皮紙を投げつけ、手で陣を組む。紙は大きな土壁に変化すると壁に着弾したジーグの攻撃は壁を斬り裂いた。
「めんどくせぇなぁ…何個か詰め込んだら連射出来んじゃね?オラァ!オラオラ!!」
ヒュー…ダン!ダダン!!空襲の様なバズーカの雨。あちらこちらに魔法陣が広がり、岩だらけのフィールドは間欠泉のせいであっという間に水浸しになった。アグルは岩に上り、高台からガンガン銃をうち放つ。土の魔法弾に変えて応戦するが、逆に岩を増やしてアグルの逃げ場を増やしてしまった。ジーグは回避に専念しある瞬間を待つ事にした。
楽しそうにバズーカを振り回していたアグルに異変が起こった。バズーカが熱をもち、弾を放てなくなったのだ。あちぃ!あまりの熱にアグルがバズーカを投げ捨てるとバズーカは黒煙を上げて壊れてしまった。…威力の強い弾を使う分、装填に時間が掛かるのは銃を休ませる意味もある。無理やり詰め込んで連射すれば必ず壊れるのをジーグは見込んでいたのだ。
「気が済んだか?武器は丁寧に扱うんだな。雷神トール!戦車進む道に横たわる仇を打て!」
詠唱し手先に強い雷が走ったかと思うと、なんと攻撃はジーグの体を駆け巡った。あああ!と叫び声を上げるジーグ。
「ははっ!戦うんなら、ちゃんと状況を見て欲しいもんさね!何故俺が水の攻撃しかしなかったか。そして何故、俺は高台に居続けたか…お前を狙うため。そして…」
濡れない為か!あの攻撃はジーグの魔法封じも狙っての事だった。この短期間にこれだけの戦略…やはり、この男は戦いの中生きてきたのだと思い知らされる。さあ、どうする…?
「こんな親父から娘猫を貰い受けようと思ったら命がいくつあっても足りないな…。愛の強さはよくわかった。でも、私にも貫きたい想いがある」
ジーグは銃を取り替えた。先程の銃より大ぶりで、継ぎ接ぎだらけの不格好な銃。
「私は大いなる戦神、ミョルニルの所有者トールのカミツキ!!この心、この意志、今は御身に預けよう!心交わせ我が分身」
銃に埋め込まれた呪詛と宝石に香油をひと塗りしながら唱える。銃が俄に発光する…アグルの目はそれを捉えた。憑神が銃に移った…!??
「いっけぇぇえ!!!」
魔法は弾となって正確に飛んで行った。あまりの威力に回避が間に合わず、アグルの体を貫いた。ベシャ!濡れたフィールドに落ちる。
「…やった…やった!」
第二波を警戒してすぐに体勢を整えるが、ジーグは壊れてしまった依代銃のサンプルを見つめて震えている。
「ありがとう、アグル!ダメ元で打ってみたけど…成功に近づいてる…!すぐに改良しないと…!また話そう!じゃあな!」
え!ちょっと待てよ!唖然とするアグルへ振り返り、ジーグは微笑む。
「お前の注いだ愛情は、それくらいで彼女から消えたりしないさ」
落ちて怪我をしたアグルを心配そうに舐めるスノウがいつの間にかアグルの横に座っていた。
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柘榴石を手に入れました。
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