火山の中の相談所
米津玄師
火山の中の相談所
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「…よお、柘榴石持ってきたのか?どんな仕事でも用意してやるよ…」
屈んでスノウを撫でていたアグルが気配に気付き、ゆったりと立ち上がって振り向いた。
「…て、お前か。『多分』俺は何もしてねーぜ?」
ハングアップのポーズを取り、ニヤニヤと笑うアグル。小馬鹿にした態度を、ふん!と一蹴する。
「いちいち私の立場を揶揄するな。手土産まで用意してやったのに…」
サンドイッチの包みを見たアグルは、椅子を進めた。早速袋を開けると、分かってるぅ!と嬉しそうに叫び辛口サンドイッチに齧り付いた。
「ふぇ?なーにしに来た?土産までこさえてさ」
「飲み込んでから喋らんか、行儀が悪い!」
悪ぃ!と言いながらも食べる口は止まらない。はぁ…と溜息をついた。頼る相手を見誤ったか?でも仕方ない、ここまで来たのだ。
「手合わせして私に言った言葉を覚えてるか?魔法に頼りきりと…お前は人を見抜く力に長けている」
「あらヤダ!お土産まで持ってきて僕を褒めてくれんの!?照れちゃう!」
頬に両手を当て、わざとらしく照れてみせるアグル。…あぁ、話しにくいヤツめ…白い目を向けながら話を続ける。
「倶利伽羅を知っているか?炎の精霊だ。彼奴と対決してな…」
「いやいや、待てよ!倶利伽羅ってあの倶利伽羅?不動明王の専属、神の武器ってイカついやつだ。好戦的な精霊とは格が違う。神のために戦う存在だ。相変わらず恐ろしい事サラッと言うねぇ、軍師殿は。普通、神同様ネゴシエーターを挟んで交渉して立ち去らせるんだがな」
アグルが驚きのあまり捲し立てると、みりんは、わぁ!と声を上げて顔を伏せる。…あれ?俺なんか言ったかな?アグルの目が点になった。
「その通りだ!完全にやつを伏せたのは砂漠の民の説得と信仰心だった!私は彼らが居なければ戦いを止めずに、精霊殺しという最悪の結果を招いたかもしれない!…なんと不甲斐ない」
そーゆー事ね。精霊相手に1人で戦った時点で誇ればいいものを、こいつぁ納得できないんだろな…面倒な奴…アグルは頬杖ついてため息を吐いた。
「みりんさぁ…お前は偉いよ。普通の奴ぁ、アヴァロンの名家に産まれただけで偉そうにしやがる。軍師って席に胡座かいて人を顎で使って悦に浸るだろうさ。…お前は違う。家も種族も役職も鼻にかけない。それは凄い事だ。お前はお前だけでも十分強い。もう少し認めてやれよ?自分をさ」
「アグル、私はお前を…その…尊敬してるんだ。お前は孤児でなんの後ろ盾もなく、裏の世界に流れても…強い。私のように恵まれていないのに、私より強い。私は何もかもお膳立てされているのに…お前を見る度恥ずかしくなるのだ、己が」
アグルは驚いた顔でみりんを見た。まさか元軍のお偉いさんから、こんなならず者が尊敬されるとはね…どれだけみりんにとってこの告白が恥ずかしいものだろう。それでも気持ちを示してくれた。アグルはゆっくり目を瞑る。
「こんなに惚れられちゃあ…参ったな、俺今日死ぬかもな。はは、冗談だよ!尊敬だろ?分かってる。…お前は行動した。なら、俺も答えなきゃな。本音だ…聞く意思はあるか?みりん」
ぐっと眉を引き締めてみりんはうなづいた。
「お前は強い、それは保証する。どんな状況にも対応出来る。人なら状況を変更する事を考えるような場面でも、お前は一つ一つ自分と自分の一手を強く打ち出せる。小賢しい策もお前の前では無力になる。それがお前の強さだ」
アグルは背もたれに寄りかかって、じっと真剣な眼差しでみりんを見据える。
「…故に、変化が無さすぎる。どんな場面でもお前が出すのはお前という一手だけ。 視野が狭いんだよ。だから倶利伽羅に力でしか対抗出来なかった。スタイルがブレないのは強さだ。けど、もうちょっと戦いを楽しめよ。手合わせするのか、魔法で叩き潰すか、交渉するか…戦わないという選択肢だってある。戦いは何も向き合ってからじゃない。その前から策略は飛び交ってんだぜ?」
アグルは意地悪そうな顔でニヤッと笑う。
「…ゾクゾクするだろ?俺、そういうの大好き。みりん、お前は軍である故に戦いは仕事なんだ。…違う、戦いの本質は駆け引きだ。身を委ねて楽しめ」
…ふっ!また名言を生み出したな!キリッとキメ顔をしてみりんを見ると、ポカン…とした顔で反応出来ずにいるみりんがいた。…あちゃー、一気に詰め込みすぎたか…
「あー…えーっとな、つまりは…」
「…私には一生たどり着かなかったであろう視点だ!面白い!…まだよく分かりきってないが…ありがとう、スッキリしたよ!」
バン!と立ち上がって激しく握手をし、意気揚々と出ていくみりん。みりんに負けない程、ポカン…とした顔のアグルが1人佇んでいた。
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強さのヒントをもらいました。
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