いつも目指すものは
米津玄師
いつも目指すものは
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「どーしようもなく鈍臭いねぇ!ほれ!ボールをしっかり受け取る!!」
何度怒られて、何度泣いただろうか…この時だけは私は道を間違えたと後悔したっけ…師匠との修行を思い出して苦笑いしながら、ドラム缶を輪切りにしたような輪と質素な椅子、そしてカラフルなボールを用意し、真っ暗な広場に設置した。誰もいない暗闇、時折どこかで帰る人の足音や酒場の喧騒が聞こえる。息を深く吐くメアリ。
「派手な演舞やジャグリングは楽しめてるんだ…集中するのが苦手って意識するほど囚われんだよ、アンタは…。メアリお前はね、心から楽しむ才能があんだよ。どんな小さい事も、つまらない事も…嫌な事も。追い詰められてる自分を見てみなぁ…ほら、笑えるだろ?」
1回も出来ずに師匠の前で泣き出してしまったメアリに付き合って、キセルを吸いながら優しく頭を撫でた、皺がれた小さな手の温もりを思い出し、メアリはついに輪の上に椅子を傾けて乗せた。
立つだけでもふらつく輪っかに、足1本で椅子を立たせる。その背もたれに手を着いて、哎呀!と鋭い声を上げて逆立ちをする。心臓がはち切れそうな不安、しかし、心がブレると途端にバランスを崩してしまう。落ち着け…落ち着け…!!片手で持っていたボールを高く放り投げ、何とか後頭部と首でキャッチ。…で、出来た!!これがショーの会場なら拍手喝采だったろう。まだ感覚は忘れてない…メアリはほっとして、ゆっくり降りた。
出来たのだからきっと大丈夫!メアリは自分を鼓舞して2回目に挑む。しかし、鼓舞した事により肩に力が入ったのだろう、ボールを投げる以前に、逆立ちをする所でバランスを崩し、危うく顔を打つところだった。やはり…怖い…難しい…出来なかった時の打ちのめされたような心が疼く。
「…大丈夫、大丈夫ヨ…まだ1回失敗。まだ1回ある!前はできたから、きっとできる!」
不安で押しつぶされる心を奮い立たせようと、声を出して自分を励ます。そして冷静に失敗を思い出す。勢いよく逆立ちをしてしまった。動きをよく読んで、勢いをつけ過ぎずに足を上げていこう。ボールは問題ない…大丈夫、次こそは。
哎呀!呀!…夜が世界を支配し、さっきまで聞こえていた足音や喧騒ももう聞こえない。時が過ぎるのも忘れ、ひたすらに試練に打ち込むメアリの掛け声だけが響いていた。1度ボールを落としかけたが、5回、6回、7回…感覚を我が物にしたメアリはコツをつかみ、成功を重ねていく。あと少しだ…それ!8回目…!
「噫!!」
まさか…2回目と同じ失敗をしでかした。調子に乗ってしまい、また足を勢いよく振り上げて落ちてしまったのだ。倒れたままの体勢で息を切らして空を仰ぐメアリ…やっぱり…免許皆伝はたまたまだったのか…
「…追い詰められてる自分を見てみなぁ…ほら、笑えるだろ?」
頭を撫でる感触と共に思い出される言葉。ベタりと地面に落ち、酷い姿で夜中に泣きそうな自分…
「…っぷ!!は、あはは!あはははははは!」
変なの!!と思ったら笑いが止まらなくなった。さぁ、ラスト2回を楽しんで終わらせよう。
不思議な感覚だった。嘉嘉の国の音楽が聞こえる気がした。呀!ふらつきながらも成功。降りてから飛び上がって喜ぶ。…なんだろう、とても楽しい。ああ、もう1回!今度こそ!
「さぁ!ご覧あれ!メアリの最後の試練だヨ。失敗したらご愛嬌!ゆるしてちょーだいネ!」
口から漏れるショートーク。そして最後の一投…見事首でキャッチ!10回の中で最も様になっていた。喜びで顔が赤くなる。楽しい!楽しいよ師匠!これが教えたかったんだね!心で叫んだ。
数日後、メアリのショーに悲鳴と安堵の溜息がさらに加わったのは言うまでもない。
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賽子クエスト 成功
リザルト
クリティカル 2
確率 2/3
オーバーキルワード 無し
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