軍師 みりん
絢香
軍師 みりん
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歌を歌い門番の仕事中にジョウロで水を撒く。何やってんすか?と同僚の門番が覗き込んだ。
「兄から貰った花の種を蒔いてあるのだよ。沢山蒔いたから、きっと綺麗な花畑になるだろう」
軍上がりの堅い口調。いつもの軍師みりん…しかし、花畑を想像して子供のように目を輝かせる彼女の表現は、今まで見た事がなかった。同僚はそんな彼女を見詰めたが、はたと我に返る。
「…いやそれは良いんすけどまだ警備中っす、みりんさん…笑って誤魔化してもダメっす!」
ビシッと突っ込まれた。その後を先輩が通りかかり、ふざけているのかと2人して注意を受けた。本当に何気ない日常…しかし、想像もつかなかった。キリエの軍には自分より階級の高い者は居なかった。立場を退いてもやはり街の人々はみりんに遠慮し距離を取った。アヴァロンに居ても、キリエにいても…私はこの立場でしか見て貰えないのか。1度は絶望したが、不器用に…実直に…自分の出来る事を、自分のありのままでぶつけていった。今では軍師みりんとしての姿も含め、彼女は街に愛されている。
「…全く、門番の仕事はいつ危険が迫ってくるか分からない仕事なんだ!気を抜くな!!」
「…例えば叫びながら2人がかりで襲ってきたりっすか?大丈夫っす、氷の壁で撃退するっす」
厳しく注意をする先輩が以前、みりんに頼まれて、子供たちの前で悪役を演じた時の事を同僚がからかった。
「それは…あれだ!可愛い後輩に花を持たせてやろうっていう、俺の漢気だ!な!みりん!?」
先輩の言葉に、3人で仲良く笑った。
「…それにしても変わりましたね?みりんさん」
いつもの様に報告書を出張所に届けると、ニフは書類をまとめる手を止めて、じっとみりんを見つめて、ふふっと微笑んだ。
「変わったか…?私は全く自覚がないのだが」
「初めてお会いした夜の事。私まだ鮮明に覚えてますよ!とても堂々としていて、凛々しくて、私緊張しちゃってちゃんとお顔も見れなかったんですから。勿論今でもみりんさんは凄い方ですが…でも今はお話してて落ち着くというか…友人と居るような受け入れやすい空気というか…」
2人はハッとした。友人だって!?
「わわわ!私ったらアヴァロンの要人に馴れ馴れしく友人だなんて…!!」
「待ってくれ!そこ撤回されたら、私は悲しいぞ!!言ったな?ニフは私を友人と思ってくれているのだな!?」
みりんはすっと手を伸ばし、握手を求めた。
「ありがとう、私もニフの友人だよ…!」
2人は赤面しながら笑顔で握手を交わした。
家に着いて今日のニフとの会話を思い出す。そして、彼女との思い出を巡っていく。
「そういえば、この街は商業が盛んだから、私も何か商売をしようと思っていたんだよな…」
自分の言葉を思い出し、ふと頭を捻る。兄は立派に花屋を営んでいる。同じ花屋をやるにも、兄より上手くはできない。対して私は…必死に軍で働いて、軍師として兵を育ててきた。…後は?悪神を暫く再起できぬようズタズタにしたり…何百という魔獣の徒党を薙ぎ倒して山にしたり…魔王にトドメをさしたり…やめよう。思い出してもそんな思い出ばかりでゲンナリしてベッドに潜り眠りについた。
今日は街の外を警備した後、夕方から門番。いつも通り子供たちが遊びに来る。
「今日、護身術習ったんだぞ!カッコよかったぜ!!俺も強くなりてぇ!」
弾けんばかりの笑顔で興奮気味に語る子供たち。彼らに頼まれ、氷の剣を作り、剣士ごっこを見守った。すると1人がみりんに声をかけた。
「なーなー!前に見学で見たあの攻撃避けるの、どーやってやるんだ??」
そうだなぁ…とみりんは氷の槍を作り、少年に剣術の型を教えだした。それ以来何日も少年は型を教えてもらいに訪れ、なかなか良い仕上がりになった頃、少年と共にニフが現れた。
「私を友人と思って1つお願いしたく…」
話を聞くと、あのアヴァロンの元軍師直々に剣術を習えるらしいと噂が周辺の街まで広がってしまったらしく、出張所に問い合わせが殺到しとても仕事にならないらしい。
「教室等は存在しておりませんと言っても収まらないし、お金は払うから是非開校してくれとすら言われるんですぅ…も、もし良ければ…私達理事会からも稽古場の開校に協力致します」
…あれからあっという間に準備は進み、あれよあれよと「みりんの剣術講座」が開校した。期待の高さだろうか、目の前には沢山の受講者の子供たちが集まった。まずは武器ではなく魔法の稽古から!相手役の氷の塊を一人一人の前に作り上げる。各々一生懸命魔法で氷を崩そうとする子供たち。しかし1人何もせず佇む女の子がいた。
「私…魔法が下手だってクラスの子に笑われたの…」
不意に重なるあの日の記憶。みりんは優しい笑顔で大好きな人の言葉を借りた。
「…大丈夫、憑神の力が強いだけさ。自分と憑神を信じるんだ。きっと君は誰よりも素敵なカミツキになれるから…」
後ろから、憑神やみりんの家族の暖かい視線を浴びている様な…そんな気がした。
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END
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