変わらないもの

奥華子

「みんな嘘つきでしょ。この世で一番の内緒話って正義は大抵負けるってことでしょ。夢は大抵叶わない。努力は大抵報われないし、愛は大抵消えるってことでしょ。そんな耳障りのいいこと口にしてる人って現実から目背けてるだけじゃないですか。」 …そうかもしれないと思います。変わらないものなんてない。大切なものほど消えていくし、失ったものは元には戻らない。 でも全てのことに裏表があるなら、そんな現実だって裏を返せる。変わっていくから、変わらない思いに気づく。消えていくとわかっているから大切で、元に戻らなくともやり直せる。 「傷は塞がってるでしょ。たしかに小指だけいつもほかよりちょっと冷たいけど、こすってれば、じきにぬくもってくる。すべてが元通りとはいかなくても、修復することはできる」 「失ったものが完全に戻ってくることはなく、得たと思った瞬間には記憶になってしまうのだとしても。幸福は再生する。形を変え、さまざまな姿で、それを求めるひとたちのところへ何度でも、そっと訪れてくるのだ」 音楽も本も絵も、好きだった人たちも手離してしまって、一度失われたものはまるでひどく眩しくて億劫なもののように感じられていましたが、 何ヶ月ぶりでも拙くても弱々しくても、歌うと息ができた。これは変わりませんでした。 多分、形が変わってしまっても、本当に大切なものは大切なままなんだと思います。 2020.1.27. 引用: 坂元裕二『カルテット』 三浦しをん『まほろ駅前多田便利軒』