朗読台本「放課後のマチエール」
朗読:貴方/台本:繭と朝露
朗読台本「放課後のマチエール」
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アレンジ・アドリブ歓迎いたします。
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彼のキャンバスは白紙だった。
何を描くのかと問えば、何も答えず困ったように笑っていた。
はぐらかすでもなく、勿体ぶるでもなく、ただ適切な言葉を探し続けている。
彼の笑みに、私はそんな印象を持った。
次の日も、その次の日も、絵は白紙のままだった。
何を描くのかと問うても、彼は答えられずに、ただ笑うだけ。
次第に私は聞くことをやめてしまった。
夏休みが明けたころ、昇降口に大きな絵が飾られた。
青空のような、夕焼けのような、淡いむらさき。
丹念に重ねられた絵具の起伏が、照明に当てられてきらきらと輝いている。
誰の絵だろう、とだれかが言った。
いくら探しても、その絵にサインはなかった。
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美術部のはなし
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