花咲く君へ【アカツキ短編】
亜沙 feat.重音テト
花咲く君へ【アカツキ短編】
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店の扉が開くと同時に煙草の香りが漂う。
「よお、獣人」「何だ、半神」
不躾な挨拶に毅然としてアカツキは返した。
「おいおい、怒りなさんな。厄介な仕事を引き受けちまったんだよ。この案件、お前の力が必要だ。悪ぃが手を貸してほしい」
アグルは後ろに居る猫の獣人を前に出す。顔には少しだがアカツキと同じ朱色の刺青があった。
「お前の国は戦で滅んだが、宗教団体の狂信者の生き残りが今だに神の姿に近い獣人を拉致、監禁しているらしい。しかも暴徒化して、手当り次第黄金色の毛を持つ獣人を攫ってやがる。俺らの取引先にも被害が出ててな、正直困ってんだ。
この子も捕まって呪詛をかけられるところをギリギリで救出したって訳だ。彼女を奴等から離れたこの地でかくまうついでに、お前に見せようと思ってな。どうだ?引き受けてはくれねぇか?」
「國の恥だ…寧ろ、こちらから頼む。どうか参加させて欲しい」
朝早くアグルと共に街を出、被害が出ているという獣人の多く住む街へとたどり着いた。
「…これはどういう事か説明してもらおうか!」
黒の長髪のカツラを被らされ、顔には化粧。アカツキは可愛い少女の獣人に変装させられていた。
「仕方ねぇだろ?お前は奴等に顔が割れている。しかも刺青を見られたらまずい。隠すのに化粧は避けられねぇよ」
ぷかーと煙を吐き、無気力にアグルは答えた。
夕暮れが迫る時間になり、アカツキは宛もなく街の中を歩き回った。距離を置いてアグルが後を追う。夕闇が深まるにつれ、アグル以外に不自然に後を追う影が1つ、2つと増えていった。人気のない小道に差し掛かった途端、1人がアカツキに走り寄り体を抱きかかえ走り出す。仲間と思しき数名がアカツキを隠しながら共に走り出す。
やめてください!!と抵抗をしつつ、アカツキは花炎石を等間隔に落としていった。
街から離れた廃墟の塔に連れ込まれ、やっと下ろされた。
「今までの中で最も我らの神に近しい柱をお連れしました!」
拉致をおこなった数名の他に、似た服装の輩が何名かゾロゾロと集まって膝まづいた。すると奥から見覚えのある男が現れた。
「…ぉおお…素晴らしい!まるで我らの神そのものだ!國がまだ存在していた時の完璧な柱様に引けを取らない!!」
…思い出した!彼奴は以前神官を務めていた男だ。思想が過激な故、時折他の神官から警告を受けることがあった。あの時に比べ体はやせ、目はギラギラと光り、不気味な表情を浮かべている。気が触れているとしか思えない。
ざわめき出す集団。多勢に無勢、為す術もなくアカツキはじっと窓の外を見つめた。チカチカと外で火花が舞った。
「宇迦之御魂神に畏み申す!地脈を突き天を返せ!!」
ドンッ!と突き上げる様な地震が襲う。信者達は各々の憑神の名を唱え始めるが、しかし
ドンッドンッ!!!各所で仕掛けられた爆薬が炸裂し、一気に混乱を極めた。
「いやー前から思ってたが、アカツキ。お前詠唱スピードはえぇな。センスあるよ…商店街に置いとくにゃ勿体ねぇ」
屋根から侵入したアグルが爆弾を信者に撒き散らしながらヘラヘラと笑った。爆弾に加勢して、アカツキは魔法で蔦を伸ばして信者をさらに追い詰めた。奇襲を受け完全に統制を崩された信者たちは唯一爆破を受けていない出口へなだれ込む。逃すか!と追うアカツキをアグルは制止し
「安心しろ、わざと退路に誘導するよう仕込んでおいたんだ。出た先には俺の仲間が何人も待ち構えている」
程なくして外から大量の断末魔が聞こえだした。後は拉致された人を解放して出てくだけ…とアグルは煙草に火をつけてアカツキの方に目をやると、突如腹を抱えて笑いだした。
「お前…!いつも不機嫌な顔して澄ましてやがるが、今の顔……ぶっははははは!」
部屋にあった鏡を覗くと、カツラが見事にずれ、化粧も無惨に落ち、薄汚れたアカツキが映っていた。滑稽であるが、清々しい表情をしていた。
「あらぁ?失礼ね!わっちが魅力的だったからこの計画は成功したんでありんしょ?」
わざとらしく演技をして見せた。いつまでも廃墟に2人の笑い声が響いた。
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過去の因縁に終止符をうち、アグルと仲良くなりました。
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