【第0話】神々の戯れ(第1節)西方の神々
OCEAN TRAVELERS
【第0話】神々の戯れ(第1節)西方の神々
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【第0話】神々の戯れ
(第1節)西方の神々
緩やかな流れが体に心地いい。どこまでも青々とした広大な海原を縦横無尽に泳ぐ。威厳に満ち溢れたクジラが海面スレスレをゆったりと泳ぎ、艶めかしくもどこか癒しを感じる海獣がこちらへ微笑み、すぐ横を泳ぎ去っていく。鋭い気を放ちながら荒々しく目の前を過ぎ去ったのはサメだ。あんなものに突撃されたらたまったものでは無い。エイは目いっぱいに胸ビレを広げて海上を飛ぶように泳ぎ、すぐ脇の珊瑚礁ではクマノミ達がワイワイと楽しげに踊っている。半透明の笠に陽の光が反射して、辺りを美しく照らしているのはクラゲだ。
あぁ、とても美しい眺めだと。感嘆の声を漏らしながら海中に身を預ける私の周りに、いつの間にかイルカ達が集まっている。
随分と沖まで来てしまったようだ。イルカ達と戯れながら、ゆっくりと岸へ目指す。
「ようねーちゃん、1人?」
海上に顔を出すと見知らぬサーファーが2人、こちらへ近付いてくる。波もない穏やかな日だというのに、明らかなナンパ野郎だ。
「岸から泳いできたの?すごいね?」
「俺らとも泳がね?乗せてやるよ」
めんどくさ。近寄るなゲス。そう思いながら一捻りしようと身構えたその時。
「ん?なんだぁ?」
ゴゴゴゴ、と。内なる力が溢れ出さんが如く、海面が小刻みに震え始める。みるみるうちに揺れは大きくなり、海が盛り上がる。ナンパ野郎はキョロキョロと回りを見渡し、
「ひっ、」突如として現れた巨大な波の前に為す術なく、
「た、たすけ」見事に飲まれた。
すぐ目の前で起こった出来事だというのに不思議と私には何の被害もなく、わかり切っていた私自身も逃げる必要などなかった。
「ようねーちゃん、」そう、私は知っていた。
「乗るかい?」この波が、彼の仕業であった事を。
「……なんでアヒルボート。」
キコキコとペダルを漕ぎながら、今しがた津波を引き起こした隣の彼に語りかける。
「いや泳ぐのダルかったから。」「こっちのがダルいわ!」
ふぅ、と忙しなく足を動かしながら海面を眺める。海中では先程のイルカ達が怪訝そうな顔をしながらついてきていた。先程の津波を上手く避けきったのであろう。怖かったろうに、それでもついてくるなんて。可愛いヤツらめ。
「てか、あんなゴミの為に無駄な力使わなくたってええやん。」
指先を海に沈めてイルカ達の相手をしながら、
「ねえ、ポセイドン様?」
チラと隣の彼を見やると、若干日焼けをした彼の顔がムッとしかめっ面になる。
「俺のサキに手出しする奴は殺すわ。」「いや過激過ぎ草。」
名を呼ばれ、満更でもない気に浸りながら、
「そんなキノくんが大好きだよ。」「どうも、アムピトリテ様。」
2人で笑う。
━━━遥か西方。海に面したその場所には強大な暴力団によって支配されていた一帯があった。民達も住処を追われ、善良な者は1人もおらず、一帯は荒れ放題であった。
そんな折、どこからか2人の人間がその地を訪れた。当然その2人を追い出そうと荒れくれ者達が近付くが、返り討ちにされその命を燃やした。怒り狂った長を筆頭に暴力団が総出で2人に襲いかかったが、不思議な力の前に為す術なく、跡形もなく生を失った。その数、数百を超えたという。
様子を一部始終目にしていた民達によると、2人は歌によって嵐を呼び、地割れを引き起こし、津波を手繰り寄せて海の生き物達の怒りを武器に戦ったという。
以来、民達は彼ら2人を 海の神ポセイドン・海の女神アムピトリテとして崇め、感謝の念を込めて日々祈りを捧げたという。
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