§夢幻ノ箱庭§ 第九話~七ノ国の大罪人・中編~
§幻想舞踏会§
§夢幻ノ箱庭§ 第九話~七ノ国の大罪人・中編~
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§夢幻ノ箱庭§
第九話~七ノ国の大罪人・中編~
ボブが広場に駆けこむと、他の四部隊隊士は既に全員集まっていた。
乱れた息も構う事無く、まりーの元へと駆け寄った。
「まりーさん!」
「…ボブ。」
まりーは真っ青な顔をしていた。
後ろに控えるみーやレインも泣き出しそうな表情で俯いている。
「未久さんがいなくなったって…一体何があったんですか!」
「わ、私にも何がなんだか…
昨晩までは確かにお部屋に…」
「貴方がボブさんですね?」
淡々とした口調の女声が背後からする。
振り返った先には保安組織の制服に身を纏った女性が一人、静かに起立していた。
「…そうですが、貴方は。」
「黒ノ都市保安組織第十三班班長、歌々と申します。
青風八咫烏隊隊長であるそうまさんのお姿が見えない為、副隊長のボブさんが代理で隊士である眠井さんの身元引受を。」
書類を一枚出し署名を求てくる女性の背後では、歌々と同じ制服を着た海月とぽすとに挟まれ、眠井が立っていた。
「…どういう状況なのか説明がほしい。」
ボブは警戒心を露わにしながら低い声をだす。
「それは後程、皆様が揃い次第神官様よりご説明があるかと思います。
私は法に則り眠井さんを取り調べ、容疑が晴れた為手続きを求めているだけです。」
そうまと夢羽が遅れて到着したことで隊士が全員揃うと、広場の中央に一人の神官が現れた。
黒いローブをなびかせて現れたのは黒ノ神官、元黒ノ国妃である。
保安組織を従えて毅然と立つ姿は、まさに人の上に立つ者の威厳が溢れていた。
「順を追って説明しましょう。」
黒ノ神官は黒闇夜叉隊を率いるレイカ、ていなん、そうま、そしてまりーを一瞥する。
「今朝一番の巡回兵が四つの加護が上空から消失している事を発見。現状を確認するべく七色ノ広場へ向かうと、黄ノ神官が広場で倒れいる所を発見しました。
医療機関へ運び込まれましたが現在も昏睡状態が続き意識が戻る様子がありません。
神官統括である白ノ神官…もとい、光姫に連絡をしようと白ノ都市へ伝令をまわすと光姫が忽然と姿を消している事が同時に発覚しました。
…歌々、つづきを。」
「はい。」
後ろに控えていた歌々が前へと出る。
「統括者だった白ノ神官がいない今、【治安】を統括する我々黒ノ都市が先頭となり調査及び光姫の捜索を開始。
保安組織第十三班を筆頭に全都市を捜索しましたが、光姫様は現在も見つかっておりません。
規則に従い、調査は第二段階へ移行。
魔力の痕跡調査を行った所、七色ノ広場及び光姫様の自室、朱様の自室より
青風八咫烏隊の眠井様の魔力痕跡を特定。
任意同行の運びとなりました。
その後取り調べにより眠井様は容疑者から除外しました。」
報告書を読み上げると、歌々は一礼し黒ノ神官の後ろへと下がる。
「これにより…」
黒ノ神官が他の新刊と目配せをすると、大きく息を吸った。
「…黄ノ神官強襲の容疑及び、我が国の加護を奪い私利私欲に利用せんと逃亡した光姫を大罪人とし、<神官統括>の権限を剥奪。
指名手配とする!」
「ちょ…ちょっと待ってください!!!」
まりーが保安員の制止も振り切り前へと飛び出す。
「証拠はあるのですか!!!
姫様が…姫様がやったという証拠が!!」
「…物的証拠はありませんが、『過去で聞いたモノ』が我々神官の意見を揺るぎ無きモノにしました。」
「…過去で…?なんですかソレ…
そ、そんな不確かなもので…!!」
まりーが強引に神官へと詰め寄ろうとしたその時、
レイカが間に割って入きた。
「待って頂戴まりーさん。」
「レイカさん…。」
「気持ちは解るけど私は知ってる。悔しいけど…『ソレ』は覆せないわ…。」
レイカは下唇を噛みながら、黒ノ神官の後ろに控える歌々達を一瞥した。
「後で場所を設けるから…今は耐えてちょうだい。」
「………。」
まりーは悔しげな顔で後ずさる。
その様子を見た黒ノ神官は、呼気をひとつつくと再び声を上げた。
「白と黄の神官が不在の今、神官統括は代理で黒ノ神官である私が拝命します。
青ノ神官は白ノ都市、赤ノ神官は黄ノ都市を兼任で管理して下さい。
全部隊隊士は光姫の捜索及び拘束を最優先事項とします。
また協力者がいないかどうか、各隊隊士に保安組織員を監視としてつけます。」
「神官様。」
レイカが手を上げる。
「…何かしら。」
「保安組織は今捜索に人員をさいた方が良いかと思います。
部隊隊士の監視は黒闇夜叉隊にお任せ頂けないでしょうか。」
黒ノ神官の瞳が揺れる。
「…では十三班3名を黒闇夜叉隊へ正式に配属。
歌々達の監視の元動きなさい。」
「…私までお疑いになるのですか。
御変わりになられましたね。皇妃様?」
「悪く思わないで頂戴…。
貴女も容疑が全くないわけではないのよ、レイカ。
七ノ国は今、加護を失う訳にはいかないの。
貴女ならわかるでしょう?
今この国は…<矛>と<盾>を同時に失ったのよ…。」
太陽はいつの間にか高く上り、陽光を反射している宝石はまるで時が止まっているかの様だった。
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「レイカさん!」
解散後にまりーはレイカへと駆け寄る。
レイカは眉間に皺を寄せ、難しい顔で立っていた。
「…まりーさん。」
「姫様が罪人だという証拠!あれどういうことですか!?
私…納得できません!!!」
「僕も同感だね。」
まりーが叫ぶ後ろから、他の隊士達も集まる。
ていなんが怒りを抑えるように言葉を並べる。
「僕の父さんも、そまたんの父さんも忘れたのかよ…!
光姫が七ノ国になる前からどれだけ頑張ってたか…!」
「ていなん様、お父上にはお父上の考えがあります。
何も聞かずに否定はよくありません。」
ジェイドがていなんを諌める。
そうま率いる青風八咫烏隊、環を先頭に黄晶麒麟隊も集まる。
「僕の父さんが間違った判断をしたとは言いたくないけど、僕も納得いかないかな。」
そうまが笑顔を作る事無くつぶやく。
「レイカさん、神官たちは何を根拠に未久さんを…」
「それは…」
「それは私達が説明しましょう。」
レイカの声を遮るように、声が挟まれる。
歌々と海月、ぽすとがレイカの前に立ち、隊長達を見据えた。
敵意に近い警戒心が三人へ集中する。
「…納得のいく説明をして。」
まりーが沈黙を破った。
「はい。黒闇夜叉隊に配属された以上、上位ランク及び隊長様に抗うつもりはありません。
皆さま御同行願えますか。」
歌々は歩きながら淡々と言葉を並べる。
「私達三姉妹はそれぞれ固有魔法があり、調査として魔法の行使が許可されています。
海月は影を鎖へと変化させ、捕まえた相手がどんな怪力であろうと拘束できる【鎖魔法】。
ぽすとは未来を一定の条件下で音声の無い映像のみで垣間見る事が出来る【未来視】。
そしては私は他者の過去を一定の条件下で映像の無い音声のみで聴くことが出来る【過去聴】。
これらの魔法を用いて保安活動に努めています。」
そんな説明が終わるころには、歌々の足は止まる。
その場所は朱が倒れていたとされる場所…宝石の真下だった。
「実際に聴いて頂けると解るかと思いまして。」
歌々は、地面に手をつき歌を奏でる。
すると手をついた事により作られた影が動きだし黒いアンティーク調の箱が現れた。
「発動条件は、聴きたい<場所>で自分の影を作り出す事。
そして、その場所で<魔力>を特定すればその者の過去を聴く事が出来ます。」
歌々が手に持った箱をゆっくりと開ける。
すると箱の中から、誰もが聞きなれた声が聞こえてきた。
『 姫様…!これは… 』
『 落ち着いて 』
『 これは…一体どういう事ですか…? 』
『 朱さん… 』
『 姫様…お願い… 』
『 ………。
朱さん、願いが叶うまで…
貴女の命は私が預かります。 』
…つづく。
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