§幻想舞踏会§ 後日談【一】~花・陽光・風~
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後日談【一】~花・陽光・風~
これは五国が統一される事が決まった少し後のお話。
統一への第一歩として、国と国の間にあった国境が取り払われ、
関所での簡易的な手続きは未だ残るが、全ての国民は自由に他国を行き来が出来るようになっていた。
とある晴れた日。
青ノ国の大学前で、ボブとそうまは2人で来客を待っていた。
そうまは本を片手にのんびりと、ボブはソワソワと歩き回りながら時間を逐一確認していた。
「ボブ、落ち着きがないね。」
「む、すまん…。」
ボブが落ち着かないのも無理はない。
2人が現在待っているのは、暁月、レイン、そして光姫である。
光姫は五国統一に関する国務に忙しく、先日のパーティー以降会えていない。
今回、暁月とレインを温室に招待する事になったタイミングで思い切って光姫も誘ったのであった。
「あ!いたいた!ボブッキー!」
明るい声が響く。
暁月がレインと手を繋ぎながら楽しそうに駆けてきた。
そして、その後ろからにこやかに光姫も歩いてくる。
「ボブッキー!そうまさん!こんにちは!」
「師匠!!お久しぶりです!!」
暁月とレインは楽しそうにはしゃぐ。
レインは何故かボブの事を師匠と呼ぶようになっていた。
(詳細は物語上割愛)
「その懐かしい呼び名をやめるんだ。レインさんもお久しぶりです。」
ボブは先程までの落ち着きの無さが嘘のように振る舞う。
そんな幼馴染の様子に、そうまは笑いを堪える事に必死だった。
「そうまさん、ボブさん、ごきげんよう。お誘い下さりありがとうございます。」
「姫様ーこんにちは~☆」
そうまが本を仕舞い込み挨拶をする。
「み、未久さん、お久しぶりです。」
「ふふ、今日はよろしくお願いしますね。」
一行は、ドーム型の温室へと賑やかに向かって行った。
~~~
「うわぁ!凄い!!」
レインの感嘆の声が温室に響く。
温室は広大で見渡すかぎりに様々な植物が葉をひろげていた。
小さな鉢が並んでいる場所もあれば、沼地の様な土壌から顔を出す異形の植物まで、様々な品種が管理されている。
入口から見ても解るほどの巨大な木が温室の中心で光沢のある葉を生い茂らせていた。
「皆さん、中には触るとかぶれるものや希少な花等、危ない物や繊細な物もあるのでむやみに触らないよう気を付けてください。」
「「はーい!」」
ボブが意気揚々と先陣を切り、温室内を案内し出す。
「まずこれは鉄壁草と言ってな、俺がていなん様やジェイドの野郎からの攻撃を防ぐときに使う盾の内の一つでもある植物なんだ。
地中の炭素や鉄分を葉脈に含ませる事ができて…」
「師匠難しい事しゃべっててカッコイイ…」
「れいんちゃん…w」
「次にこれは猫耳草と言って…」
「ボブッキー!なんかれいんちゃんが蔦に絡まってる!」
「師匠ー!」
「な!ちょっ!!レインさん!その植物は蔦が絡まると解く事が大変なやつ!!」
「ちょっと!ボブ!!僕の服になんかくっついた!!」
「お前!それは綿製の衣類に寄生する植物で…むやみに触るなと言っただろう!!!」
「師匠~この蔦楽しいですねー!」
「レインさんはじっとしててください!!!」
レインはきゃっきゃと宙づりになって楽しみ、暁月は服に付いた謎の植物を引き抜こうとする。
ボブは2人を制しながら必死に蔦を解いていた。
「いや~こんなに温室が賑やかなのは初めてかも…」
そうまが含み笑いをしながらその光景を眺める。
ふと隣を見ると、光姫も笑いながら見物していた。
そうまが何かを思いついたように指を鳴らす。
「姫様、なんかあの3人はまだ時間がかかりそうなので先に他の所周りませんか?
本当にここは広いので、どんどん見て回った方がいいんですよ~
それに2人でデートするって約束も残ってますし☆
ちょっと先に行っちゃいませんか?」
「ええ、ではそうしましょうか。」
「決まりですね!じゃあ失礼して…」
そうまは光姫の手を引く。
上機嫌に鼻歌を奏でると、ボブ達の方から見える2人の姿は空間に溶けるように見えなくなった。
「かなり広い上に、道が複雑なのではぐれないでくださいね~」
一向ボブ達は、レインを助けようと加勢に入った暁月までもが蔦に絡まりさらに被害は拡大していた。
~~~
そうまと光姫は様々な植物を眺めながら、温室中央部の巨木にたどり着く。
「本当に大きいですね…」
「ええ、しかも幹が上部で枝分かれする部分は一種の空間になっていて、いつもここでボブと過ごしてます。」
そうまがおもむろに光姫の肩へと手をまわすと2人の身体を風が包み浮き上がる。
木の上へたどり着くと、そこには枝と葉によって天然の小部屋の様な空間が出来ていた。
「ここでいつものようにテストの自己採点をしてた所を、僕達は父である理事長に呼ばれ青風八咫烏隊の隊士となりました。」
「そうだったんですか!
…うん、ずいぶんと心地よいスペースですね。」
丈夫な幹に腰を掛け、生い茂る葉の隙間から見え隠れする温室の景色を見渡す。
そうまは穏やかな光姫の横顔を見つめる。
そんな視線に気が付いたのか光姫がそうまへと視線を向ける。
頬がじんわりと暖かくなった。
「…姫様。僕はこのまま青ノ国の神官を目指そうと思います。」
国が統一されるにあたって、一番の議題は最高権力者である「王」の存在だった。
光姫は悪ノ王の経緯を説明し、国が統一されようとも王を一人にする必要はないと主張。
「王」を、加護を守護する役目である「神官」と言い換え、五国神官5名をそのまま国を動かす代表者とすることに話はまとまっていた。
「そうですか。」
白ノ国の神官である光姫は穏やかにほほ笑む。
「いつかそうまさんと一緒に仕事が出来る日を楽しみにしていますね。」
「ええ、待っててください☆」
(…それが、僕なりの方法で姫様のおそばにいられる手段だから。)
そんな穏やかな空気をぶち壊したのは…、聞きなれた幼馴染の罵声だった。
「そうま!!!どこ行った!!!」
ボブの大きな声が温室にこだまする。
「師匠ー!こっちに綺麗なお花がありますー!!」
「ボブ!!れいんちゃんがー!!!」
「本当お願いだから大人しくして!?!?
俺はいつの間に未久さんと何処かに行った奴を見つけ出してシバかなきゃ…」
「師匠!!!お花に捕まりましたー!」
「だからレインさんはなんでそうなるんですか!!!」
「ボブ!燃やしていい!?」
「ダメだって言ってるだろ!!!!!」
3人の賑やかな声が届く。
そうまと光姫は顔を見合わせると、吹き出してしまう。
「本当…ボブはトラブル体質というか…。
面白いなぁ…」
「ですね。ふふふっ」
「そろそろ合流します?」
そうまが補助の為に手を差し出す。
光姫は幹に手をつき、手を取ろうとしたその時、自重を支えようとした手が滑る。
「っ!」
「危ない!」
そうまはとっさに手を掴むが、支える為に掴まる場所がない。
2人は大きな音を立てて下へと落ちて行った。
「……いた……くない?」
恐る恐る目を開くと、光姫の下にそうまが仰向けになっていた。
腕の中にしまい込まれ庇われた為、痛みはどこにも無かった。
「大丈夫ですか?姫様。」
乱れた長い髪を優しく梳かしながら、そうまは問いかける。
「すみません、バランスを崩しまして…。
そうまさん痛かったでしょう。」
「あははw僕は鍛え方が違うんで問題ありませんw
よく木の上でうたた寝して落ちる事もあるので☆
姫様に怪我が無くて良かった。」
「…優しい子。
あ、重いですよね、今どきま…」
身体を起こそうとすると、何かが引っかかる。
そうまの制服のボタンに髪が絡まってしまっていた。
解こうにも別の髪が流れ落ちてくる上に影になってしまいなかなか上手くいかない。
「ちょっと失礼しますね。」
そうまが光姫を芝生へ寝かせ、自分が上へと覆いかぶさった。
絡まった髪のみがそうまのボタンへと繋がっている。
「おお!これで解り易いです!」
光姫がいそいそとボタンに絡んだ髪を解く。
「おい!今何か大きな音が………」
先刻の落下音を聞きつけてボブと暁月、レインがやってきてしまう。
ボブは2人を見ると硬直した。
「…あ。そうまさんが押し倒してるー。」
暁月の空気を読まない発言が目の前の光景に固まっているボブへと突き刺さる。
「そうま…お、おまっ…!」
「やあボブ☆
ちょっと今(髪を解くのに)取り込んでて忙しいから後にしてくれない?」
「はっ、はあ!?!?
お前!い、今すぐシバく!!!」
「ボブッキー!落ち着いて!?」
「師匠!ココで暴れちゃいけないって、師匠がさっき言ってたじゃないですかー!」
暁月とレインがボブへとしがみつく。
「…そうまさん、ボブさんが激しく勘違いをしてますよアレ…。」
「もーボブは本当視野が狭いな~。」
(離れようにもまだ髪は絡んでるし…仕方ない。)
「姫様、落ち着いて(作業が)出来る場所へ移動しましょ☆」
「んぇ?あ、はい???」
そうまは光姫を抱き上げると、そのまま駆け出す。
「おいそうま!!!お前!!!
今なんて…ぶっ飛ばす!!!」
「師匠~!落ち着いてくだしゃい!!」
「ボブッキーここで君が暴れたら大事な植物達が滅茶苦茶になっちゃうってば!!」
いつもは穏やかな空気が流れているはずの温室に響き渡る怒号は、その後もしばらく続いた。
………後日談【一】 了
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