§幻想舞踏会§ IF・Annihilate~散り逝く徒花達・後編~
§幻想舞踏会§
§幻想舞踏会§ IF・Annihilate~散り逝く徒花達・後編~
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【IF・Annihilate】
(※このストーリーは別分岐のIFストーリーです。
第三十一話の分岐選択にて
【光姫を殺す】
を選択した場合のストーリーとなります。
制限条件として、
①大陸の侵食は停止中・隊士達は島に閉じ込められている。
②光姫の呪いはまだ進行が始まったばかりである。
③天然様はまだ嫉妬している自身にも気づかない無自覚天然であること。
④ミヅキヒメを呼び出すか呼び出さないかで意見分かれが起きていること。
です。)
~散り逝く徒花達・後編~
傷だらけの身体を引きずりながら夜闇に隠れるまりーは立ち上がるのも厳しい程だった。
「…やっぱり…てぃー様は強いなぁ…。
多対一の訓練もっと積んでおけば良かった…。」
背後ではまりーを探す林檎、暁月、爽、結音の声や足音がする。
(これ以上ここにいても…見つかるのは時間の問題…)
戦闘の途中に砕けてしまった抑圧珠の欠片を見つめる。
「姫様…どうかご無事で…。」
「…見つけた!」
「!?」
突然目の前に現れた人影にまりーはとっさにクナイを投げる。
「うおっ!?」
変な声と共に避けたのは、ボブだった。
「…ボブ…!?
…貴方も私に殺されに来たの?」
まりーは鋭く睨む。
「違います!!!助けに来たんです!!!」
ボブが必死に叫ぶ。
その声が林檎と暁月の耳に届く。
「そっちにいるのかな!」
足音がどんどん近づいてくる。
「…まずい。」
ボブはまりーと横抱きにすると、林の中を駆けだした。
まりーは状況を理解できずに困惑する。
「ボブ…皆姫様を殺すつもりじゃ…」
「…俺は…姫様が敵だと信じられない…。
俺は何が正しいかまだ分からない。
だから、解らないまま従えない!」
ボブは光姫を殺すと言われた時に走った胸の鋭い痛みが消えずにいた。
その痛みが今のボブを突き動かしていた。
「まりーさんが人質になったら、姫様は…
とにかく今は逃げましょう。」
「ボブ…」
背後の炎から逃げるように2人は夜の広場を駆け抜けていった。
~~~
「…あら、姫様。」
レイカは走る足を止める。
目の前には、光姫がじっと立っていた。
「………。」
「まりーさんを探すんじゃなかったの?
まあこちらの方が好都合だわ。」
レイカが指を鳴らすと、なるせ達は光姫を取り囲む。
(時間稼ぎしてるあいだに…ていなんちゃんがまりーさんを連れてきてくれれば…)
レイカの合図と共に隊士達が光姫へと襲い掛かる。
光姫は防御膜を出す事なく、紙一重で攻撃を避けていた。
レイカは不思議そうに光景を見つめる。
(…もしや呪いの進行で魔法が使えない…?これなら私達だけでもカタが付けられそうね…。)
徐々に光姫はスタミナが無くなって来たのか攻撃を避けれ切れず掠り出す。
レイカはなるせの針に自身の糸を与える。
それを合図になるせはキャンとの戦いと同様、光姫を拘束した。
「………!」
必死にもがくが糸はきつく食い込んでいく。
レイカは光姫の元へと歩み寄り、手には影で作り出した短剣を携える。
「…最後に遺す言葉はあるかしら?」
光姫の喉元に、切っ先が突き付けられた。
~~~
眠井が破壊されたゴーレムのかわりに新たな複製を行わんとペンを走らせようとする。
しかし、それを見逃さなかった夜蝶が閃光の如く走り寄ると眠井のノートを瞬時に奪い取った。
「…!!」
「まあ記者として見逃せないよね。」
ノートは夜蝶の手の中で燃え出す。
「…また書き直せば済む話です。」
眠井の手に新たなノートが生み出される。
「いや、させると思わないでほしいな~」
夜蝶はそのまま眠井へと襲い掛かる。
本来後方支援の眠井にとって、先陣特攻型である夜蝶との相性は悪い。
ノートへ文字を書き込む余裕などなく、回避に専念するしかなかった。
眠井の複製能力が無くなった事でゴーレムは1体に戻ってしまう。
ゴーレムはその巨大な拳で攻撃を仕掛けるが、軽々と避けられてしまう。
雪季は避けられないが、防御特化の為傷一つつかなかった。
キャンが振り下ろされたゴーレムの拳に踵落としを叩きこむ。
腕は粉々に砕け散り、バランスを崩したゴーレムの足元を朱がすり抜けた。
動けないハンペンの元へと走り寄り、スピードを殺すことなく拳を突きだす。
「避けなさいよ!馬鹿ハンペン!!」
さきがハンペンを蹴り飛ばす。
朱の拳は空を切った。
「痛いっす!!!自分はゴーレム出してる時は動けないんですって!!!」
「だったら一回ひっこめればいいでしょうが!」
「あ、確かに」
「…後で覚えてろ。」
悪態をつきつつも、さきの表情はいつもよりも余裕がない。
(水魔法に雷が溶けると耐性のない私はただダメージを受けるだけ…)
水の壁で防御しようにも相手が雷を纏った状態でこられては、さき自身へ伝導してしまうのであった。
「…本当私ってくじ運悪いんだから…。」
夢羽の方を見ると、作る氷全てを環に叩き割られていた。
(戦う相手を入れ替えたいけど、完全に先手を取られた。)
さきはため息をひとつつくと、不敵な笑みを浮かべた。
「まあ?スポーツ特待生の私は、
スポーツマンシップに則り、正々堂々と勝負するけどね!」
「先輩、自分は只の地質学の学生っす。」
「うるさい黙れ。」
夜の空に、激しい黄色の閃光が光り輝いた。
~~~
まりーを抱いたまま夜の広場を走り抜けるボブは、植林を抜け出し島端へとたどり着いた。
「…はぁ…はぁ…ここまでくれば…」
「ボブ…ありがとう…」
背後を気にしながら、まりーを下ろす。
「ボブ、ご苦労様。」
頭上から炎が降りそそいだ。
とっさに木の盾を作るがあっけなく燃え散ってしまう。
2人の前に、ていなんとジェイドが立ちはだかった。
「…てぃー様。」
まりーの身体に緊張が走る。
「あれ?ボブは僕の元にまりーちゃんを届けてくれたんだよね?」
「…ていなん様、俺は…納得できないんです…。」
「ボブ君、悪いけどていなん様の邪魔はさせないよ。」
ジェイドの身体から炎が沸きあがる。
まりーは赤ノ国のトップ2を相手取れる体力など、とうに残っていなかった。
手の中にある抑圧珠を握りしめる。
(姫様…私は貴女のお役に立ちたい。
でも、ずっと…役に立ててるのか、不安だった…。)
「ボブ…。」
小さな声でつぶやく。
「七色ノ宝石が誤作動を起こしてるのか、壁が消えてる。
つまり、姫様は抑圧珠を解放しているはず…。」
「ええ…そうですね…。」
(私は姫様の役に立ちたいだけ。
…だから、貴女の足枷に…足手まといになるわけにはいかない。)
まりーは、ボブへ抑圧珠の欠片を渡した。
「…姫様を、お願いね。」
「…え?」
まりーはボブの返事も待たずにていなんの元へと駆け出した。
ジェイドが立ちはだかり、大剣を振り下ろす。
切っ先がまりーの肩を掠めるが、そんな事構うことなく走り抜けた。
そして、勢いもそのままにていなんを抱きしめる。
「…な!?」
「てぃー様…苦しかったよね…。
国の為に、苦しい中、頑張って決断したんですよね…。」
まりーの勢いに押されていなんは後ろに倒れていく。
その先に、地面など無かった。
「…まりーちゃん…僕は…。」
ていなんの目から涙が溢れる。
まりーは笑顔で抱き締めつづけた。
「てぃー様、もう苦しまなくて良いんです。
私と一緒に…逝きましょう?」
「…ああ、そう…そうだね。」
ていなんはまりーの背中に手を回す。
2人は抱き合ったまま、夜の大陸へと落ちて行った。
「ていなん様!!!!!!」
ジェイドが悲鳴に近い叫び声を上げるのと、光姫がその場に到着したのはほぼ同時だった。
「…ま…りー……さん…?」
呆然と眼下を見つめる光姫へ背後からボブとまりーを追いかけてきた他の隊士達が駆けつける。
ジェイドは地面へと崩れ落ち、放心状態となっていた。
「…これはどういう状況?ていなん様は…?」
「ジェイド様…!?」
「まさか…」
光姫の身体を包む光が強く乱れる。
「まりーさんはどこ…?」
感知能力を最大にしてまりーを探そうとした光姫は、意図せずにまりー以外の隊士も見つけてしまった。
黒ノ拠点島でシャアが、
赤ノ拠点島でみーが、
青ノ拠点島でレインが、
黄ノ拠点島で夜が、
傷だらけで倒れていた。
島の防衛システムは、もう作動していなかった。
「…みんな…そん…な……」
まりーをいくら探しても島の中にいなかった。
それが何を意味するのか、理解することを光姫の脳は拒んでいた。
「あぁ…ぁ…ぁあぁぁ…」
両手で顔を覆い、狼狽える光姫の身体がどんどん激しく光ってゆく。
林檎と爽が叫び声を上げながら、光姫へと切りかかる。
「ていなん様を返して!!!!」
「許さない!!!」
林檎の切っ先が光姫へと当たろうとしたとの時、
光姫から衝撃波が広がった。
その場にいた全ての隊士が吹き飛ぶ。
光姫のそばにいた林檎と爽はその波を直に受け、島の外へと吹き飛ばされる。
暁月、結月、ジェイドは木に叩きつけられ意識を失っていた。
ボブも吹き飛ぶが、運よく低木の茂みに突っ込んだおかげで無傷とは言わないが他の隊士に比べ軽傷だった。
痛む身体を無理やり動かし、光姫の方を見る。
そこには、一つの恒星のように光り輝く姿があった。
「許さない…全員……許さない…!」
―― 絶対隷属魔法 発動 ――
光姫が地面に手を当てると、島へと光が走る。
そして拠点島へも光が走ると、黒紫色の光が呼応した。
七色ノ宝石へも光が伝わる。
「ああ…そこにあったのね…
なるほど…確かにこんなに穢れてたら…使えないわね…」
ブツブツと独り言を言いつつも、光姫は魔力を放出し続ける。
そんな様子を見ていたボブは、異変に気が付く。
「………?」
自身の身体から何かが抜けていくような感覚に襲われる。
何かはわからないが、確かに吸い取られている。
「ま、まさか…!」
ボブは種を撒き発芽させようと魔力を込める。
しかし、種が発芽することは無かった。
―…絶対隷属魔法は代償と引き換えに
全ての魔法を従える禁術…
「姫様が…俺達の魔力を奪ってるのか…!!」
~~~
「オーナー…!」
なるせの呼び声でレイカはその異変に気が付いた。
自分の隊士達の魔法はおろか、自身が生み出した短剣すら消えていく。
出そうにも魔力が自分の中のどこにも見当たらない。
「姫様…あなたまさか……、な!?」
目の前の光姫の姿が解けていく。
蜃気楼のように歪んだと思うと、その姿はそうまへと変わった。
「…あれ、魔法解けちゃった…。」
「貴方…一体どういうつもり…?」
先程までの攻防で既にボロボロのそうまは、肩で息をしながら笑みを浮かべる。
「あー本当はまりーちゃんをボブが助け出したら逃げるつもりだったんだけどな~…
ま、でも…後悔は無いかな☆」
そう言うと、その場に倒れ込む。
温かい血が流れ出ていく感覚に、身を委ねた。
(もう一度だけ見たかったな…あの笑顔を…)
~~~
「穢れていようがもう構わない…」
島の地面を伝い光姫の元へと魔力が集まってゆく。
各拠点島の黒紫色の魔力反応も例外なく吸収していく。
光姫の眩い光が黒く染まって行く。
黄金色の美しい瞳もその輝きを無くし、血の様に深い紅へと変わる。
まりーが毎日丁寧に取り付けていた青い薔薇のコサージュも、漆黒色の薔薇へなっていた。
島にあるすべての魔力が、光姫の元へと集った。
光姫は空を仰ぐ。
「………もう…何もかも…どうでもいい。
もう…未来も…何も………。」
手を空へ向けて押し上げる。
「全て………
キ エ テ シ マ エ 」
五つの光の柱が拠点島へと降りそそいだ。
下の大陸へも届くその柱にかかるすべての大地が、島が消し飛んだ。
「あはは…せっかく見つけた加護も…もう無い…無いのよ…!」
ボブは息がつまりそうなほどのプレッシャーに必死に抗いながらそんな光姫を見つめる。
「…姫様…。」
背後から足音が複数聞こえる。
レイカが黒く染まった光姫を見ると、絶句していた。
「姫様…あなた…!」
光姫はゆっくりと振り返ると、レイカを一瞥し、黒く光るクナイを無数に放ってきた。
「!?」
癖で魔法を展開し防御しようとするが、何も発動しない。
しかし放たれたクナイは1本もレイカに当たる事は無かった。
「…オー……ナー…。」
絞り出される声に振り向く。
そこには無数のクナイに刺し貫かれた黒ノ隊士達がいた。
「…逃げ…て…下さ…。」
なるせが必死に声を出す。
「逃がしませんが。」
呆然と自分の隊士を見つめるレイカの背中からひとつの衝撃が走る。
レイカはゆっくりと視線を下に向けると、黒い薙刀が自身の身体から突き出ていた。
「…私の隊士達の痛みは…こんなものじゃ足りない…。」
レイカは言葉を発することなく、その場に倒れた。
ボブは木にもたれながら、引きずるように立ち上がる。
その音に気が付いた光姫が、ゆっくりとボブの方へと歩み寄る。
「姫様…。」
「…死ぬまで恨みます。」
光姫の手が鋭く光る。
ボブは、光姫にゆっくりと片手を突きだすとそのてを開く。
そこには、抑圧珠がひとつ砕けていた。
「…何のつもり。」
「まりーさんに頼まれたんです。
…姫様を、頼むと。」
「…まり…さん…」
ボブは重たい身体を引きずりながら光姫の元へと歩み寄ると、静かに抱き締めた。
「どうか…怒りを御鎮め下さい…。」
「無理よ…私はもう穢れを取り込んだ。
もう染まった色は戻らないの…」
「そんなことありません!!だって姫様は…!!」
ドスッ…
鈍い音が響く。
ボブは、光姫の背後から剣を突きだすジェイドの姿を捕えた。
腹部に熱い痛みと流れ出る血を感じる。
ジェイドは虚ろな目をしながらブツブツとつぶやいていた。
「ていなん様の…仇。」
そのまま刺し貫かれた剣を引き抜かれる。
赤い血が舞い散った。
その場に崩れ込む。
「ボ…ブさん…」
光姫はボブの腹部へと手を当て、回復魔法を展開する。
しかし回復魔法は白き光の元の魔法。
黒く染まった光姫の手から、癒しの光が出る事はなかった。
それでも必死に手を当て続ける。
自分の傷などお構いなしに。
「…姫様…。」
(貴女はやはり…優しい方だ…)
ボブの脳内にまりーの言葉が蘇る。
―…あの方は…、あの子は…、
誰かに頼る事を知らない
只の寂しがり屋な人間なの…
ボブは光姫の手をゆっくり握る。
「まりーさんのかわりに…俺が最後までお供します。
……どこまでも。」
光姫の深紅に染まった目からは、透明な涙が流れていた。
「………ほんとう?」
「ええ…約束します。」
光姫は、ボブをゆっくりと抱き締める。
島全体を眩しい光が包んだ。
~~~
その空間は真っ白で壁も床も、ましてや天井もない、
【全くの無の空間】であった。
島のすべての力を従えた光姫は、ボブと共に無色ノ間へ次元異動。
世界の去り際に、七色ノ宝石ごと広場を隊士諸々消し飛ばした。
大陸を浸食している魔石ノ意志や
巨山の下に眠る悪ノ王も全て投げ出し、ボブと共に最後の時を過ごす事にしたのである。
「ボブさん…。」
「はい、ここにおります…」
光姫は隷属魔法の代償として視力と干渉術を全て失くした。
光姫がボブへと問いかけ、ボブがそれに応える。
静かな空間で2人寄り添いながら問いかけては応えてを繰り返していた。
「ボブさん…」
「はい、おります…」
「ボブさん…」
「おります…よ…」
「ボブさん…」
「…は…い…」
「ボブさん…」
「…………。」
「ボブさん…?」
「…………。」
「ボブさん…、私…あなたが好き…」
「…………。」
「ボブさ…ん…」
「…………。」
「最後まで…お供するって…
言ったじゃない…」
「…嘘吐き。」
「……ボブさん…」
「……ボ…ブ…さん…」
「……………。」
「……………。」
【IF・Annihilate】終わり
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