§幻想舞踏会§ 第三十六話~まりーとていなんの和解~
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第三十六話~まりーとていなんの和解~
翌日、まりーは白の拠点内を駆け回っていた。
「…姫様が…いない…!」
体調を伺おうと部屋を訪ねると、光姫が寝ていたはずのベッドは既に冷たくもぬけの殻となっていたのだった。
どこを探しても見当たらない。
「昨日あんなに無理をなさったのに…
もしもの事があったら大変…!
早く…早く見つけなくちゃ…!!」
拠点にいないのならば、この空の島で残る場所は一つだけ。
まりーは広場へと飛び出していった。
~~~
周囲を見渡ながら駆け抜ける。
しかしどこにも光姫の姿は見当たらない。
ふと前を見ると、七色ノ宝石を見上げているボブが立っていた。
昨日のボブを思い出す。
まりーは、こみ上げる感情に抗う事が出来なかった。
「…ボブ!!!」
「!?…ま、まりーさん?」
走った事で荒くなった息も整えることなくボブへと詰め寄る。
「ボブ、姫様をどこかへお連れしたわね!?
どこにいるの!!!
あんな状態の姫様を…どこにっ!!」
「ツッ!?ちょっと落ち着いて下さいまりーさん!!!
俺は何も知りません!」
(姫様がいなくなったのか…!?)
まりーの必死の形相は、周りなど見えていない様子だった。
「落ち着け…?
落ち着いてられると思うの?!
昨日の姫様を見たでしょう?
あんな状態でも…自分の御身より私たちを、皆を優先する!!
そんな姫様が拠点に帰ってなくてここにもいない。
ただでさえ力を解放して休息が必要なのに…
姫様を…姫様を返して!!
どこに、連れて行ったの!!!」
「…っ!分かってますあの方が優しいのは!!
でも今、俺は距離を取られているようなんですよ…
俺もあの方がどこにいるかは本当に知らないんです…。
俺も探しますから…!」
ボブが悔しそうにうつむく。
まりーは頭に上った血が尚も煮えたぎっていた。
(姫様…なんで帰ってこないの…。
どこに…いるの…?)
「……。
…私が探す。
ボブはいつも通りそこにいればいい。」
まりーは吐き捨てるように言うと踵を返し、ボブの返事も待たず走って行く。
「いつも通りって…
ちょっとまりーさん!…って
行ってしまった…
………。
俺も探そう…」
ボブはまりーとは反対の方向へと走り出した。
そんな様子を見ていた人影が、木陰から現れる。
赤炎鳳凰隊のていなんだった。
(今のはボブと…まりーちゃん…)
ていなんは意を決すると、まりーの走り去った方へと駆け出した。
~~~
「まりーちゃん!!」
自分を呼ぶ声が聞こえ足を止めて振りかえる。
ていなんがまりーの全速力に息一つ乱れることなく追いついて来ていた。
「てぃー…様。」
まりーは表情に影を落としうつむく。
「…何の用ですか?
今はやるべきことがあるので相手をしてられません。
ごめんなさい。」
そのまま背を向けると返事も待たずに、走り出そうとする。
しかし、ていなんに手を掴まれ前に進む事ができなかった。
「ちょっと待って…!まりーちゃん!」
「…!?
は、離して…!」
「待ってくれ…話があるんだ。」
まりーの背中へと必死に言葉をぶつける。
「…今は…今は無理です。
姫様を探さなくちゃ。
早く見つけないと…!」
ていなんは、抵抗する彼女の肩を掴み無理矢理自分の方向を向かせる。
まりーは苦悶の表情を浮かべていた。
強く掴んだ手をゆっくり離すと、そのまま頭を下げた。
一国の王女が、腰を曲げ、他国の姫君の従者へと、頭を垂れたのだ。
まりーは突然の行動に驚く。
「…この前は悪かった。
ほんと、ごめん。
でも………っ!!」
ていなんはゆっくりと顔を上げ、まりーをしっかりと見つめる。
「僕は自分の選択肢は間違っていないと思う。
これで正しいと思っているんだ。
…だけど、
…だけどね…
僕はキミに嫌われるのは辛いんだ…。
どうかわかってくれ。僕の覚悟を。」
ていなんの瞳は、どこまでも真っ直ぐだった。
まりーはていなんの視線から目を逸らせずにいる。
喉の奥から熱いものがこみ上げてきた。
声を必死に絞り出す。
「…てぃー様…
…なん…で、謝るの…
悪いのは…私だよ。」
視界が歪む。
感情が、言葉が、涙がとめどなく溢れてきた。
「…謝るべきなのは、私の方。
だって…てぃー様…間違ってないから…。
ミヅキヒメ様に会わなきゃ、って、
頭ではわかってる。
わかってた。
でも…
でも…私には姫様だけなの。
姫様がいてくれれば、私は何もいらない。
あの方さえ、元気に、笑顔で過ごしていただければ…
そう考えたら…どうすればいいのかわからない。
わからないの…!
姫様は自身を犠牲にしてまで、私たちを守ろうとしてくださってる。
なのに…なのに私は…何もできない…
姫様ばかりに頼ってしまって。
…だから自分が
…何もできない自分が、一番腹立たしいの。
姫様になにも、してあげられない。
こんな無力な自分に腹が立つ!!」
まりーは大粒の涙を零しながらその場に崩れ込んでしまう。
ていなんは、そんなまりーを静かに抱き締めた。
「まりーちゃん…お前はひとりじゃない。
僕だってみんなだっているんだ。
まだ光姫は死ぬって決まったわけじゃない。
僕と一緒に、光姫と大陸を救う道を探そう。
だから、一緒に大陸へ帰ろう。」
優しく、そして諭すようにまりーへとゆっくり言葉を紡ぐ。
「必ず守ってみせる。光姫も、大陸も……
僕の大切なまりーちゃん……キミのことも。」
温かい言葉が、ていなんの温もりが、光姫の死という恐怖によって強張っていたまりーの心を溶かしていく。
「うん…うん…!
みんなで…大陸に帰ろう。
みんなで…。
てぃー様。
ごめんなさい…
ごめんなさい…!!」
「んーん…大丈夫。」
ていなんは腕の中で泣き続けるまりーの頭を優しくなでつづけた。
~~~
どれくらいそうしていただろうか。
まりーは落ち着きを取り戻し、真っ赤な目で笑顔を見せた。
「取り乱して、ごめんなさい。
もう、大丈夫!
…姫様、探しに行かなきゃ。
いってくるね!」
まりーはすくっと立ち上がり、歩き出そうとする。
「…!まって、まりーちゃん。」
「え?」
ていなんがまりーを呼び止める。
そして、微笑を浮かべた。
「…あの野郎に任せよう。
…やっと、やっと自覚したんだ。
あの天然クソ野郎が…。
…自覚した想いは、もう誰にも止められない。」
まりーの拳に力が入っていたが、溜息と共に脱力する。
「……ボブのこと、だよね?
………。
…正直止めたい。
けど、それは私が勝手な判断でやるべきではない、よね。
…うん。
決めるのは、姫様。
見守るよ。
…悔しいけどね。
…あーあ。
姫様、取られちゃうなー!」
まりーは無理矢理笑顔を作り、空へと大きな声を放つ。
いつまでも自分が一番側で守っていくと思っていた光姫の隣に、自分以外がいること。
それを認め、素直に喜ぶ事は今すぐには無理そうだった。
けれど、どこか認めざるおえない気持ちがある事に、まりーは静かに気がついていた。
…つづく。
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