§幻想舞踏会§ 第二十二話~オチは相も変わらず彼の者へ~
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§幻想舞踏会§ 第二十二話~オチは相も変わらず彼の者へ~
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第二十二話~オチは相も変わらず彼の者へ~
これは、[魔石の意志]が光姫の手によって無事破壊された一時間後の話。
「姫様…大丈夫です?」
レインが心配そうに光姫を覗き込む。
光姫は眠そうに目をこすりながら、レインと共に広場の片隅にあるベンチに腰かけていた。
「大丈夫ですよ~。あー…早く直らないかしら。」
光姫の魔力開放により拠点の島々は誤作動を起こし防衛システムが作動、
そして各島へと続く橋も島がそれぞれ傾いた事により、崩壊し途切れている惨状である。
そのせいで全隊士が島に帰れず、広場で七色ノ宝石による拠点の修復を待っていた。
光姫は魔力を大量消費した後は日の下での睡眠が必要になる。
その為、容赦ない睡魔が襲っていたのであった。
「うーん…何か目が覚めるような事無いかな~…。」
レインの頭をなでながら、周囲を見渡す。
すると、男同士の言い争いがかすかに耳へ入って来た。
「ん?…ちょっとそこまで行ってきますね。」
「はい、お気をつけて!」
興味本位に声のする方へと光姫はむかう。
そこにはいつもの2人が言い争いを繰り広げていた。
「おいジェイド、お前。コレ見てみろ…真っ黒じゃないか!」
「ん…?ああ、僕の炎で燃えちゃった種だね。それがどうかした?」
「お前が燃やさなきゃこの種は敵に当たると同時に発芽して、
ツタが相手を締め上げる予定だったんだぞ…」
「え~どうせ発芽しても引き千切られてボブ君はきっとショック受けてたよ。
ククッ 良かったね、
ショックを受ける前に僕がお粗末な攻撃と勘違いして。」
「よ~し…よくわかった。今ここで叩きのめしてやる。」
「いいね、僕もこの間撒かれた変な花粉で犬の耳を生やされた事、根に持ってるんだよね。」
「ああ?良かったじゃないか可愛いポジション確立出来た上に色んな異性から撫でてもらえて。」
「なっ!なんでそのこと知ってるんだ!それにあれは他の方が勝手に撫でてきただけで!」
「うるせえ!こちとら彼女いないから男だけでパフェ食いに行くくらい非リア充なんだよ!」
「良く言うよ!この間だって白ノ国のレインさんとデートしてたし、僕知ってるんだからね!君がみーさんとペアマグカップ持ってるの!
絶対僕の方が非リア充なんだ!」
「やんのか愛玩ポジ野郎…」
「上等だよ天然タラシ男…」
(…相変わらず面白い喧嘩してるわー……)
光姫は止める訳でもなく掴み合いを始めた2人を、眠たい目をこすりながら眺めていた。
~~~
どのくらい取っ組み合いをしていただろうか、せっかく修復している途中の広場をまた破壊している2人の元へ遠くから声が聞こえてきた。
「ボブー!?ちょっとどこにいるのー?」
「…ゼェ、ゼェ…そうまが呼んでるな…。
…おいジェイド、続きは後だ。首洗って待ってろよ。」
「ハァ…ハァ…、そっちこそ燃やされて困る植物は隠しておきなよね。
全部灰にしてやるんだから…。」
お互いに捨て台詞を吐くと、ボブはそうまの声がする方へと去って行く。
その流れを終始眺めていた光姫はジェイドの方へ近づいた。
「ん?姫様ではありませんか。」
「…貴方達、仲が良いんだか悪いんだか。まったくいつも面白いですねぇ」
ジェイドが土埃を掃いながら立ち上がる。
「ボブ君が敵意むき出しだから悪いんですよ。」
「あらそう?ずいぶん可愛い敵意ですけどね?」
(まさに喧嘩する程仲が良いのね。)
光姫はクスクス笑いながらジェイドの拗ねた顔を覗き込む。
「姫様は何か御用ですか?」
恥ずかしそうにそっぽを向きながらジェイドは尋ねる。
正直光姫は眠気をはらすために散歩をしていただけであり、用事が無い。
つかの間思考を巡らせると、先程の言い争いの内容を思い返し、光姫は優しく(怪しく)微笑んだ。
「…ジェイドさん、どうやら先刻の戦い
他の方と協力して時間を稼いでくれたんですよね。
ありがとうございました♪」
そう語ると微笑み
(誰もが騙されるであろう白ノ国公務時スマイルである)
優しくジェイドの頭を撫でる。
「えっ…あ……はぃ…そんな…ことは…。」
身体を硬直させるジェイド。
次第に耳まで真っ赤になって行く。
(あらあら、これは確かに面白いですね…)
撫でる手をそのままに、空いている手で指を鳴らす。
すると、背後の茂みに黄晶麒麟隊の夜蝶が瞬時に現れた。
ジェイドの見えない後ろで、ジェスチャーを繰り出す。
(この可愛いジェイドさんの写真。撮っといて。)
(お任せください姫様。)
夜蝶は茂みの中から様々な角度で写真を撮って行く。
そうこうしているうちに、ジェイドを探して赤炎鳳凰隊の暁月と林檎がやってきた。
「あーいいなージェイドさん!姫様になでなでされてる!僕もされたい!」
「ジェイドさん探しましたよ。こんなところで何をなさってるんですか。」
林檎の肩を叩く夜蝶は
先ほどのジェイドの写真をスッと渡した。
林檎はじっとその写真を見つめる。
「…やよちゃん。もっと他にいい感じの角度ない?ジェイドさんの顔見えるやつ。」
「あーボクにも頂戴!」
ジェイドを探しに来たことも忘れ夜蝶の写真に夢中になってしまう2人に、ジェイドは助けを求めようにも身体が動かない事に気が付く。
恐る恐る光姫の方を見ると、満面の笑みを浮かべていた。
(この笑顔はダメなやつ!僕遊ばれるやつ!!姫様いつのまに干渉術による拘束を!?)
「…その功績を賞してご褒美に抱きしめて差し上げますよ♪」
ジェイドの顔が真っ赤になり頭上には湯気すら見えている。
この後、無事抱きしめられたジェイドは体力・魔力ともに問題ないにも関わらずしばらく戦闘不能となった。
(いやー…このピュアボーイをからかうの
やめれそうにないわね。)
光姫の眠気覚ましの為に遊ばれたジェイド、お疲れ様。
~~~
しばらくして、用事を済ませたボブが戻ってきた。
「ジェイド首洗って待ってた…か…
ん?なんか人が増えてるな。」
ボブは光姫、夜蝶、暁月、林檎の面々を見渡す。
ジェイドは光姫の後ろで耳まで真っ赤になっていた。
「あらボブさん。御無沙汰ですね。(訳:返信無視したね?)」
「え、あ、どうも。(訳:マジですか!?すみません。)」
ジェイドがブツブツと「ボブ君のせいだ…」とつぶやいているのを訝しみつつも、光姫と会話をする。
「どうやらボブさんも先刻の戦い、頑張って下さったそうで。」
「いえ、島を守る隊士として当然です。」
「そうおっしゃらずに、ご褒美に撫でて差し上げます。」
そう言って、手を伸ばそうとした光姫はピタリと止まる。
…頭に届かない。
ボブの高身長に対し、光姫は身長が1□□cm。
背伸びしてギリギリであった。
(この巨人め…。)
「…ボブさん、持ち上げて。」
むくれながら両手を広げる光姫。
「あ、はい。」
何のためらいもなく光姫を軽々持ち上げる。
そして、光姫はボブの頭を撫でた。
「聞きましたよ~♪あなた、時間稼ぎとか言って
戦ってる最中に目的忘れて乱闘まがいをしたんですって…?」
ギクリとボブの肩が跳ねる。
「いえ、俺は攻撃しようとしたのですが…ジェイドが邪魔を…」
「違いますよ姫様。ボブ君から手を出して来ました~」
「お前ええええ!!」
くってかかろうとしたその時、ボブは自身の身体が動かないことに気が付く。
(…まさか。)
光姫はジェイドの時と同じ笑顔を見せていた。
「もー他の方が頑張ってるのに何してるんですか~」
光姫は指先に小さな光の球を生み出しながらボブの頬をグリグリする。
「姫様チリチリしてる!焦げる!それやめて!
そっそれに…!」
「ん?」
「別にこんな拘束しなくても、あれだけの戦いを終えたあとですし、
姫様に撫でられるなどむしろ光栄な事です。」
そう言いボブは(頬をグリグリしてくる手を防御する為に)抱きしめる。
夜蝶はそんなシーンすら必死にシャッターを切っていた。
「あら、照れないのですね。
(チッ) 流石天然。つまらないの…。」
フウとため息をひとつつくと、魔法を解除し光姫は両手をパッと広げた。
「はい、魔法解除しました。下ろしてくださっていいですよん。
今回は投げ飛ばさないでね。」
ボブがやれやれと言わんばかりに下ろそうとしたその時、
「ボブ!」
そうまが飛び出してきた。
「速報見たよ!ひどいじゃないか!」
「なんだそうまいきなり…。速報ってなんだ…?」
そうまが号外用紙を見せつける。
【速報】ボブ氏、ついに光姫に手を出す?!
「ひどいよ!君はもう他の子とデートしてるのに、
(デートはカモフラで本当の目的は別にあるけど)
僕がデートする予定の姫様にまで手を出すなんて!!」
「ちょっと待て!なんだその速報は!!」
ボブは驚愕し、ハッと夜蝶の方を見る。
夜蝶はすでに先ほどの場所から消えていて、そこには盗撮されたであろう写真がいくつも落ちていた。
「あいつかあああああ!!」
(いやー面白い速報だわ夜蝶さんナイスw)
光姫がクスクス笑う。
ボブはそんな様子の光姫を下ろすことなく、抱きしめ続ける。
「ん?ボブさん?
(私も写真ゆっくり見たいし)
早く降ろしてくださいな。」
「その前に、この写真はなんですか…。
まさか姫様の指示じゃないでしょうね。」
(写真はジェイドさんのついでだし、速報は自動で出て行ったからな…)
「…姫は知らないね?」
光姫はそっぽを向いた。
そんな光姫の顔を片手で自分に向けさせ近づける。
「いいですか、あの写真及び速報。
降ろしたらちゃんとデマだと否定してください。
このままじゃ王族である貴女様に手を出した国家犯罪人になってしまいます…!」
「デマ?ナンノコト?ワカラナイネ?
ほらもう腕疲れましたでしょ?降ろしていいですよっ」
「カタコト!!
いいえ!ちゃんとお約束して頂けるまで降ろしません!!」
光姫は1人の人間として、純粋な筋力等の身体能力は一般の人に比べて弱い。
日頃脱走し、まりーを含む従者を撒けるのは逃げ足だけがある程度早いのと、魔力感知能力による逃げ隠れが異常に上手いだけである。
そんな光姫が魔力も無く、既に捕まった状態であれば、ボブ程であれば片手でなんなく抱き上げ、逃がさないようにすることなど簡単なことだった。
そんな2人の背後からシャッター音がする。
「これはスクープだ…。」
夜蝶がカメラを手に目を輝かせている。
「うわー!これはキスの距離だね!?」
暁月も大喜び。隣の林檎はその後の制裁を既に察し、ボブに合掌していた。
ボブはそんなことも露知らずジタバタと逃げようとする光姫に確約させようと必死にしている。
次の速報が出るのに、5分とかからなかった。
【速報】ボブ氏、光姫様にキス!?(加工無写真有)
そうまはそんな一連の流れを見て、ポケットから種袋を取り出す。
「ジェイドくん…。」
「あ、はい。」
「これ燃やしていいよ。」
そのやりとりに気づくボブが叫ぶ。
「まて!そうま!それは俺の大事な!!」
ボブが手を伸ばそうとしたとき…
「ちょっと林檎ちゃん?暁月ちゃん?ジェイド探して来てって言ったじゃ…
って、何この状況。
なんでボブ、光姫抱き上げてるの?」
赤炎鳳凰隊のていなんがジェイドを探しに行ったまま戻らない2人の後を追ってやって来た。
そんな主の元にジェイドが速報の情報と写真を持っていく。
そして、ていなんが読んでる後ろから、物凄い勢いで飛び出してきた人影がもうひとつ。
白光天照隊のまりーだった。
「…ボブ………。
この速報は何………?」
「え?姫様を抱き上げてるあの速報ですか?」
「しらばっくれるの…?」
「あ、まりーさんだ~」
光姫はジタバタするのと止め、のんきにまりーへと手を振る。
「ちょっと下ろすの手伝って~」
「…かしこまりました。仰せのままに。
ボブ。白ノ国の王族、正当後継者である光姫様を今すぐおろし下がりなさい。
今なら死刑の一歩手前の罪状で許すから。」
まりーの手には既に光り輝く剣が携えられている。
その後ろからは、何故かライターと薪(小)の様な物を持ったレインがわなわなと出てきた。
「ボブ…ボブも好きだけど…
我らが姫様を抱きしめ、抱き上げ、キスするなんて…!」
「え、ちょっとまっ…
一体何の…!?」
ツンツンとボブをつつく感覚に振り返ると、林檎が一枚の紙を見せる。
そこには速報の号外用紙に光姫の背後からとられた写真が添えられていた。
ボブは数秒その用紙を見つめ…
「な、なぁぁぁあああ!?!?」
「…耳元で騒がないでくださいよ、うるさいなぁ…。」
光姫は今もボブの腕の中で足をプラプラとさせ目をこすっている。
「姫様!早く否定してください!こっちは刻一刻と命の危険が迫ってるんですよ!」
「ん~…うーん…。」
(何か私の知らぬ所で予想しない速報が流れてるみたいですね~…。
うん、眠い。
思考がまわらない。)
「ちょっともう眠気限界だから寝るね…。」
考える事が面倒くさくなり軽く狸寝入りを決め込もうとした光姫は、存外暖かいボブの腕の中で本当に眠りへ落ちて行った。
「嘘ぉ!?この状況で寝たぁぁああ!?
ちょ、姫様!?起きて!起きて下さい!!」
光姫はスヤスヤと寝息を立てている。
「おや…眠ってしまわれたのですか、姫様。
無理もない、あれだけ魔力消費した後にも拘らずボブに捕まり何か変な薬草でもかがされたんですね…。」
まりーの殺気がさらに強くなる。
「まりーさん!!誤解です!!!
いつもの冷静なあなたに戻ってください!!」
「問答無用!!」
まりーは光のクナイを数本生み出すと、躊躇いもなく投げ飛ばしてきた。
「危ない!まりーさん!まって!!」
「姫様を下ろしなさい!いつまで抱いてるの!?
私達の姫様を誑かすなんて万死に値する!」
「ちょっと…まっ!降ろそうにも…!」
必死に避けながらボブは逃げ惑う。
そう、降ろそうにも先ほどからの攻防で、光姫の羽衣と装飾がボブの制服へと完全に絡まってしまっていた。
まりーの攻撃の傍らレインもなぜかライターを片手に薪(小)を投げつける。
「姫様を返してボブ!」
こんな騒乱の中でも未だに光姫は起きない。
(こうなったら…!)
ボブは森林に紛れんとばかりに駆け出した。
「あ!逃げた!」
まりーが叫ぶ。
追いかけようとしたとの時、
「まりーちゃん…。ここは僕にまかせて。」
「…てぃー様…。」
ていなんがまりーを制し前へ出る。
「ボブくん…君さぁなんで僕よりモテてんの…?
…許さない。」
ていなんの両手が引き抜いた双剣ごと燃え上がる。
「ジェイド。2時の方向、80の力で打ちあげて。」
「かしこまりました。」
ジェイドは両手剣を引き抜き、ていなんがその上に乗る。
そして、熱風と共にていなんが打ち上げられた。
~~~
「…ここまでくれば…。」
ボブは近場の茂みに隠れ、光姫の絡まった羽衣を解く。
そしてゆっくりとその場に寝かせた。
「…次にお会いした時は絶対に捕まえて全ての誤解が解けるまで、降ろしませんからね…。」
そう言いながら、上着を光姫に掛け、
寝顔にかかる髪を片手で優しく避ける。
そして周囲に人の気配がいないことを確認し、青の拠点へと逃げ帰ろうと駆けだした、その時。
「 ―…炎舞空牙。」
「え」
上空からていなんが落ちてきた。
爆発音と地鳴りが鳴り響き、まりー達はボブの逃げた方を見つめていると黒煙が空へとあがっていく。
煙の中から瓦礫と一緒に飛び出てきたのは黒焦げのボブであった。
そのまま青の拠点へと吹き飛んでいく。
しばらくすると姫様を抱きかかえ、ていなんが戻ってきた。
~~~
拠点島へと続く橋の修復も完了し、
さきとハンペン、眠井が拠点島へ入ると
いつぞやのデジャブの様に、黒焦げでうつ伏せに伸びているボブがそこにいた。
「センパイ、また何かしたんすか。」
「ほっとこほっとこ。どうせネタキャラだから時間と共に復活よ。
行こう2人とも。」
「「はーい。」」
3人は和気藹々と雑談をしながら拠点の室内へと入って行く。
「お…お前ら…扱いがひど…。」
「ボブ先輩!!」
「ぐはぁっ!」
背中に衝撃が走る。
どこから飛んできたのか夢羽が紙を片手に涙目になりながら、ボブの上に落ちてきた。
(さきといい…夢羽といい…俺の上に着地するのはなんでだ!!!)
声にならないうめき声をあげながら心の中で叫んだ。
夢羽はそんなことお構いなしにボブを揺さぶる。
「先輩!なんで…なんで先輩が光姫様と…き、ききき、キスしてるんですか!?
ひどいです!!」
「げふっ…締まってる…首締まってる!」
「私が光姫様の事、憧れてるって知ってて!
あのお方にこんな…ハレンチな!!
先輩とは言え酷いです!」
「ま…まて…誤解…!そっ、そもそも!
お前は黒ノ国のレイカさんが憧れなんだろう!」
夢羽の手が掴む服が徐々に凍っていく。
「何を言ってるんですか!レイカさんももちろん素敵ですが、私が心から敬愛しているのは光姫様です!!!
ここに志願したのもあのお方とお近づきになれるからで…!」
「なっ、そうなのか!?
…ってまてまてまてまて!!
凍る!冷たい!凍るから!」
「ボブ先輩のばかああああ!!」
こうして、その後そうまが戻ってきて仲裁に入るまでボブへの制裁は続いたのであった。
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