§幻想舞踏会§ 第十六話~始まりの「傷」と「涙」~
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第十六話~始まりの「傷」と「涙」~
それは煉獄の魔石が破壊された翌日。
隊士達が寝静まる丑三つ時も過ぎた夜の出来事だった。
「…うーん。眠れない。」
白光天照隊のまりーは寝返りを繰り返していた。
いつもならぐっすりと寝るのだがどうにも寝つきが悪い。
「…ちょっと散歩して身体を動かそう。」
思い立ったまりーは衣服を着替え、静かに部屋を出た。
その物音に気が付いたのか、隣の部屋で寝ているみーが扉から顔を覗かせる。
「あれ…まりーちゃん、こんな時間にどこへ?」
「ごめん!起こしちゃった?
ちょっと寝つき悪くって、身体動かしに散歩してくる~」
「ううん、気にしないで。気を付けてね。」
みーは眠たげに目をこすりながら自室へと戻って行った。
~~~
「夜風は気持ちいいな~。」
中央広場まで足をのばしたまりーは星と宝石が輝く空の下をのんびりと宛ても無く散策する。
中央に位置する大きな噴水に寄ると、
流れ出る水は星の輝きを反射させ、夜にも関わらず輝いていた。
「昼間の広場もいいけど、夜の広場もまた違っていいね~」
噴水のおかげでひんやりと肌を撫でる風を目を閉じて感じる。
『………まりーさん。』
「え?」
まりーは突然名を呼ばれ、振り返る。
そこにいた人物は、無表情でまりーをジッと見つめていた。
~~~
ドンドン
ドンドンドン…
(ん…?)
扉を強く叩く音が聞こえ、光姫はうっすらと目を開く。
窓からは朝日が差し込み、夜が明けたことを示している。
乱れた長髪を一つにまとめ、叩かれ続けている扉へとあくびをしながら向かう。
(この魔力は…。)
「はぁい…。レインさん待ってて~今開けますん…。」
「姫様!?大変です!まりーさんが…!」
「…?」
焦った様子のレインに不穏の気配を感じながら扉を開くと、レインが涙目になって飛び込んできた。
「一体どうしたんです?」
「まりーさんが…まりーさんが…
……っ、誰かに襲われたんです!」
「…!?」
「今朝がた広場に出てきた別部隊の隊士が見つけてくれたみたいで…
い、今みーさんが回復魔法に専念してくれてて…」
レインはグスグスと泣きながら必死に説明をする。
光姫は寝間着もそのままにレインさんの手を引き、部屋を出る。
「…話は移動しながらしましょう。まりーさんとみーさんはどちらに?
案内してください。」
「はっはい…!」
~~~
まりーが運び込まれた部屋にたどり着くと、すでにシャアも部屋に来ていた。
まりーはベッドに横になっており、みーが回復魔法を必死に展開していた。
傷は既に癒えているようで、見当たらない。
「みーさん、運び込まれた時の状況は。」
「…ボロボロでした。特に背中に大きな一撃を受けたらしく、完全に不意を突かれたとしか…。
傷の回復は完了していますが、魔力ダメージが精神に到達しているようでまだ意識がもどりません…。」
「そうですか…。」
光姫はまりーの額に手を当てる。
(………これは…)
周囲を見渡しながら、光姫は問いかける。
「まりーさんが着てた服は?」
「あ、別室で干してますね?濡れたまま倒れたみたいで汚れが酷かったから洗っちゃいました。」
シャアが状況を詳しく報告する。
レインは涙目でまりーの傍に付き添い、みーは外傷が既に癒えているはずにも関わらず回復魔法を続けていた。
「…夜さんは?」
「夜ちゃんならさっき広場の方へ、回復もできない自分はせめてまりーさんの胸元の装飾が無いから探してくるって…」
「…広場へ私も行ってきます。皆さんは拠点島からの外出を控えて下さい。
しゃーさん、まりーさんをお願いしますね。
レインさんみーさんの魔法補助を。」
そしてみーさん。念のため魔力は温存しておいてください。
回復魔法がまた後で必要になるかもしれません。」
光姫はそう言いながら、隊士達の返事も待たず、部屋を足早に出て行った。
(夜さんが危ない…!)
~~~
広場へ出ると人数が普段より少ない。
そして広場にいる隊士達は皆どこか警戒するように周囲へ気を配っていた。
まりーが襲われたことが既に広まっていたのである。
光姫はまっすぐ中央の噴水に向かうが夜の姿は見当たらない。
周囲を軽く見渡すと、迷うことなく舗装された道を無視して、植林の中を進んでいった。
そして、しばらく進むと…
そこには、倒れている夜がいた。
「…夜さん!」
光姫が駆け寄り夜を抱き上げる。
夜の服は濡れてズッシリと重く、所々打撲跡が見受けられる。
周囲を見渡すと木に夜の衣服であろう切れ端が引っかかっていた。
(おそらく木に叩きつけられた…。)
「ぅ…姫様…これ…。」
夜は光姫に気が付くと、握りしめていた左手を差し出す。
開かれた手からはまりーの胸元についてた、水色の珠が転がり落ちた。
「…ありがとう、夜さん。
今連れて帰ってあげますからね…。
…あとは私に任せて、ゆっくりしてください…。」
光姫は夜を抱きしめると、自身も含め光の膜で球体を作り出して包み込む。
そしてそのまま浮きあがり、白の拠点へと真っ直ぐ飛んで行った。
~~~
「みーさん、疲れている所申し訳ありませんが夜さんをお願いします。」
光姫は夜をそっと寝かせる。
みーとレインは真っ青な顔で夜へ駆け寄った。
「夜ちゃん…どうして…」
「姫様これはいったい…」
「…隊長権を行使します。たった今から明日朝まで白光天照隊隊士の拠点島からの外出を禁止します。
私は五隊長会合室へ行くので、みーさん以外は自分の部屋にいてください。」
「でも!姫様にまで何かあったら…!」
レインが泣きながら光姫にしがみつく。
そんなレインの頭をそっと撫でると、光姫は優しく微笑んだ。
「レインさん、私を誰だと思っているんですか?
私は大丈夫…。
それよりも、レインさんは泣きやんで?
お二人が目を覚ました時に素敵な笑顔を見せて差し上げてね?」
「は………はいっ」
光姫は服を掴むレインの手を優しく離すと、一人静かに部屋を出た。
扉を出てふと廊下の奥を見ると、シャアがこちらへ身体を向けてじっとしていた。
光姫も真っ直ぐと見つめ返すが、二人の間に会話は無い。
シャアの表情はクマのキグルミのせいで読み取れない。
どのくらいの沈黙が流れたであろうか、シャアは静かに自室へと戻って行き、光姫も彼女を追う事なく玄関へと歩いて行った。
太陽は既に地平線の向こうへと傾き、赤い光で島を照らしている。
白の拠点島を後にする光姫は真っ赤に染まっており、
その表情にいつもの笑顔は無かった。
…続く。
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