§幻想舞踏会§ 第十五話~魔石破壊と忍び寄る不穏の兆候~
§幻想舞踏会§ 五隊長/neru
§幻想舞踏会§ 第十五話~魔石破壊と忍び寄る不穏の兆候~
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§幻想舞踏会§
第十五話~魔石破壊と忍び寄る不穏の兆候~
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「みんないくよ!」
なるせの掛け声と共に、黒闇夜叉隊の隊士達は歌を紡ぐ。
…―時には噛んだりして 痛みを覚えさせて
溢れるエキタイで汚してよ 全部
足の先からずっと 這わせたその神経はもう
感触に溺れる 身体ココロを連れて…
「この島を攻撃するとは…」
「一体どのような了見で?」
「あまり私達を舐めていると」
「すぐに痛い目を見ますよ?」
「あなたに本物の闇をご覧に入れましょう」
黒の拠点島を攻撃している煉獄の魔石の周辺に黒い霧が立ち込める。
霧は次第に濃くなって行き、魔石を完全に包み込んでいく。
それは新月の夜のように、深く先の見えない『黒』であった。
魔石を静かに飲み込んでしばらくすると、大きな破裂音と共に霧が霧散し、中から粉々になった魔石の欠片が落ちてきた。
「夜目、遠目、傘の内。」
「お、美しく見える条件のやつだねっ」
「美しくないモノは夜に隠し破壊すればいいってわけだ」
「とりあえずオーナーに怪我がないか見てこなきゃ!」
「なるせは相変わらず心配性だねぇ…」
煉獄の魔石はのこり4つ…
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黄晶麒麟隊の行動は五部隊の中で一番の早さであった。
隊士5人は橋の前に並ぶ。
各々が身体を動かし、準備体操のように身体をほぐしていく。
「よし、誰があの魔石に一番にたどり着くか競走ね。」
「私はかんねぇが前を走ってくれればどこまでもついて行くわ♡」
「それは競走じゃなくて鬼ごっこだ変態。」
「パパラッチ魂にかけて足の速さは負けない…!」
「ピ、ピカァ~…。」
「いや、はぁくんこの時くらいネズミキャラ捨てなさい。」
「…ボルテッカーみたいに頑張る!」
「それ自分にもダメージいくから電光石火にしといて…」
いつもと変わらない雑談に花を咲かせつつ、それぞれが魔石を見つめる。
「それじゃ…いきますか!」
環が空高く、金槌を放り投げる。
金槌は放物線を描きながら橋の中央に落下していく。
そして、金槌が橋に振れ、どこまでも響くような音を鳴らしたであろう刹那の時
5人は同時に駆け出した。
煉獄の魔石が放つ魔導砲の真下、広場へと続く橋を走りながら歌を紡いでいく。
…―大きな声でピリカピリララ
はしゃいで騒いで歌っちゃえ
煉獄の魔石?魔導砲?
”うるさーい!”なんてね
カミナリ落っこちた
隊士全員が電気を纏い、歌が紡がれる毎に移動スピードは上昇していく。
そしてまさに雷迅となった5人はスピードを殺すことなく跳躍し、
夜蝶と珀斗は拳、
キャンは足、
環は手に持った雪季(の頭部)で煉獄の魔石へ攻撃した。
魔石はそんな衝撃を受けきる事などできるはずもなく、
亀裂が鈍い音と共に広がり、粉々に砕け散った。
「ぐるりん!酷いじゃない!私で殴ったでしょ!!」
「肉体強化魔法の中でも防御に特化してるゆっきーなら問題無いよ♪」
「腕力ないんだから使われておきなよ。」
「みんな扱いひどくない!?」
煉獄の魔石はのこり3つ…
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青風八咫烏隊は風の吹き荒れる中で歌を紡ぎだす。
…―戦場へ!前線へ!そして死の淵まで!
命捨てた覚悟を示せよ
忠誠を!従順を!そしてその魂を!
全て捧げ勝鬨をあげよ
「さき!先導頼む。」
「ボブ、私にお願いするなら後でドーナツおごってよね。シーズンの新作ね。」
さきは声量をあげると、大量の水が足元から溢れ出し渦潮のように螺旋を描いた。
さきの魔法は生成魔法の流水特化型。
溢れ出る大量の水を難なくコントロールしていた。
「ハンペン、夢羽、眠井。先輩の俺達がフォローしてやる。ありったけ乗せろ。」
ボブが歌声を重ねていく。
さきの水に風が混じって行き、その水流が速くなっていく。
遠心力を風で押さえつけさらに速度は上がって行った。
「先輩方、いきます!」
夢羽が歌を込めると、氷の結晶が水に混じり出し青い水に白味がかかる。
ハンペンが歌い、さきの水に土が混じり薄水色が薄い黄土色となる。
「ちょっと!ハンペン!私の水を汚さないでよ!!泥水じゃん!!」
「先輩ヒドイっす!自分の生成魔法が土壌特化…地面関連だって知ってるくせに!」
「水色の土を出しなさいよ!」
「そんな土は存在しません!」
ギャイギャイ言い争っている二人の傍らで、玲華より引き継いだレポートノートにさきの魔法の情報を記録していく。
「…レポート完了しました。複製します。」
眠井が歌を奏でると、黄土色の渦潮が二つ、三つ…と増えていった。
「おお…、さすが玲華の後輩…。
魔法の特化傾向はやはりコピーの生成か。」
「記録をつけるのに時間がかかるので実戦向きではないですけどね。」
苦笑いしつつもボブに褒められ照れる眠井。
渦潮は合計で5つにまで増えていた。
「よし、そうま。あとちょっと待っててね。」
さきは狙いを定め、渦潮を一斉に魔石へ向けてはなった。
渦潮は内部の氷や細かな土が風と水流の速度により、まるで高振動カッターのような切れ味と強度を誇る。
渦潮があたった数だけ細切れになった魔石は、浮力を失いバラバラと広場へと落ちて行った。
煉獄の魔石は残り2つ…
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白の拠点島の入り口では、魔石を壊す準備…
ではなく、二人が取っ組み合いをしていた。
「ぬーぎーなーさーいー!」
「いーやーだー!!」
まりーがシャアが着ている熊のキグルミを脱がそうと必死だった。
「その服焦げたり壊れちゃってもいいの!?」
「それでも私は着てたいの!私はクマさんなの!」
みーはあらあらと他人事のように見つめ、レインはオロオロとし、夜は静かに目を閉じていた。
しばらくして、夜がパっとめを開く。
「まりーさん、遠隔魔法準備が完了しました。
魔石は3分後に沈黙します。」
「お、ありがとう!」
まりーは丸くうずくまっているシャアから離れ、魔石を見つめる。
すると、魔石はみるみると魔導砲の威力を弱めていった。
白光天照隊もとい白ノ国の民が得意とする魔法系統は例外を除いて干渉術。他者の魔法または身体へ影響を与える魔法だ。
隊士の夜はその中でも、対象物の魔力に自身を同調させ魔法行動を支配する遠隔操作魔法に特化しているのである。
「れーちゃん、身体強化の魔法お願い。」
「うん!」
レインはまりーとシャアへ能力強化の魔法を施す。
「ほら、もうキグルミ着たままでいいからいこう、しーちゃん。」
「まってました☆」
先ほどまで取っ組み合いをしてたとは思えない切り替えっぷりで、二人が正面に魔石を捉える。
そして、歌声を重ねていくようにそれぞれが歌いだした。
―…空へ舞う世界の彼方
闇夜を照らす魁星
君と僕もさまた明日へ向かって行こう
夢で終わってしまうのならば
昨日を変えさせて
何て言わないからまた明日もこうやって
笑わせて
干渉術系の中でも、回復魔法に特化したみーは全員の魔力消費を回復で補強し、
シャアは物質干渉(魔力を持たない物質へ強制的に魔力を干渉させる)により、キグルミの手に付いている爪を長く、そして鋭利に変化させた。
まりーは光によって模られた剣を片手に構える。
そして魔石が完全に魔導砲を止め、沈黙した次の瞬間、二人は魔石に向かって飛びかかり、
爪と剣による連撃を繰り出した。
煉獄の魔石は細切れになり、小石の山となった。
広場に着地すると、シャアは崩れ込み肩を上下に動かしている。
「え!?どうしたのしーちゃん?」
「き…キグルミ…息が…くるしくて…」
「………だから脱げって言ったのに。」
キグルミの通気性を考慮しなくては…
そう決意を固めたシャアであった。
拠点島に残った3人のうち、みーは拠点へと戻る支度を始める。
「あれ?お部屋にもどるのみーちゃん?」
その様子に気が付いたレインが問いかける。
「うん、姫様がお昼寝する前に飲んで頂けるようミルクティー淹れてくる。
もちろんみんなのもね♪」
「そうだね、姫様にとってお昼寝は大事だからね!」
「ひめしゃまー!夜は頑張りましたー!ほめてくださいー!!」
煉獄の魔石は残り1つ…
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「魔導騎士空域戦闘配備」
「「「「はい」」」」
ジェイドの一声で赤炎鳳凰隊の隊士は隊列を組む。
「ジェイドさん、どうやって破壊しますか?」
「…ていなん様の炎の球で入り口は塞がれてるので遠投破壊を試みます。」
ジェイドは自身を中心に左右に2人ずつ隊士を配置する。
「弓式炎鳥術用意」
…―少年少女前を向く
くれる炎天さえ希望論だって
「ツレモドセ」
三日月が赤く燃え上がる
歌声と共に、全員が真っ赤な和弓を構え
矢を添えぬ状態で弦を引く。
歌が紡がれるにつれて真っ赤な炎が5人の和弓に集まり出し、
隣接した弓とさらに炎が繋がって行く。
そして現れたのは、一羽の火の鳥だった。
「各員、放て!」
5人が同時に弓を射ると、鳥は高い声を張り上げ、
煉獄の魔石へ真っ直ぐ飛んで行った。
鳥は羽を大きく広げながら魔石に正面からぶつかり、魔石は鳥が触れた先からドロドロと溶けていった。
煉獄の魔石は、全て破壊された。
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「ひゃ~…これはひどいね~」
全ての魔石が破壊された後の広場へ様々な部隊の隊士が集まる。
手入れの行き届いていた自然公園のような中央広場は魔石の黒い破片が至る所に散らばり、魔導砲と各部隊が放った魔法による汚損(泥水)と破壊で各所が痛んでいた。
レイカが隊士を引き連れながら広場に現れ、足元の欠片を一つ掴みあげる。
「…破壊の為に使われた隊士達の魔法の名残がかすかに感じるけど…普通の石だわ…。」
「レイカちゃーん♡あと黒の可愛子ちゃん達~♡」
ていなんがいつもの調子で駆け寄ってくる。
ジェイドは呆れ顔で後ろを追ってきていた。
「あらてぃー様、お疲れ様。」
「レイカちゃん…怪我はないかい?僕の子猫ちゃんに少しでも傷がつこうものなら、僕の心はガラスのように砕け散ってしまうよ…」
「お気づかいありがとう。この通りなんともなくてよ。」
ていなんが全力でレイカへ絡んでいる所に、風で髪の毛がボサボサになったそうまと
これまた電気の影響で髪の毛が広がった状態の朱も集まる。
「皆さんご無事のようで。」
「ああ…静電気で髪の毛が…。」
「二人とも斬新なヘアスタイルね…。」
両手で必死に髪を抑える朱の後ろでまたもや奇声があがる。
「拾って!集めるのよ!!これは魔法クラブ会長として研究する義務があるのよ!!ついでにその石を七色の宝石へぶつけるの!そしたら欠片が落ちてくるかも!!」
「しゅーちゃーん!!!助けて!またゆっきーが暴走してる!」
夜蝶と珀斗が必死に雪季を押さえつけている。
すると、キャンがつかつかと歩いて来くるや、全ての石を雪季から奪い取り島の外へ蹴り飛ばした。
「あああーーーー!!!」
雪季の悲鳴も虚しく、蹴り飛ばされた石は光姫によって張られた光の膜に触れた物から全て消滅した。
「…うちの玲華も相当の変わり者だと思ってたけど、朱さんのとこ本当凄いね…」
そうまが笑いながら見守る。
「…本当すみません…。」
朱は先ほどよりもさらに一回り小さく縮こまっていた。
「あれ?そういえば光姫様はどちらに?」
朱の一声で周囲を皆が見渡すが姿が見えない。
まりーとシャアは2人で白の拠点島の入り口付近でなぜか取っ組み合いをしている。
「まりーちゃん!君のとこの姫様は~???」
ていなんがまりーへ問いかけると、まりーは逃げようとするシャアの首根っこを掴みながら答える。
「多分お昼寝してますー!」
「…へ?この状況で??」
全員が狐につままれた顔になる。
「姫様にとってお昼寝は大事なんですー!」
「姫様も可愛らしい所あるわね…」
レイカがクスクスと笑いながらつぶやく。
「むしろこの状況で昼寝できる事が凄いと思いますよ」
「確かに…。」
全員が光姫の行動に顔を綻ばせたその時。
< パンッ >
突然の破裂音が響き渡り、広場に転がっていた全ての魔石の欠片が爆散した。
魔石の欠片は跡形もなく姿を消し、広場は壊れたか所以外は元通りとなった。
「え…何が…」
広場にいるすべての隊士が驚きの表情を見せる。
この時、広場にいた隊士は誰ひとりとして気が付いていなかった。
【煉獄の魔石】とは何なのか
そして、消えた魔石は【何処】へ行ったのか…。
…魔石が破壊された次の日。
その事件は起こるべくして起きたのかもしれない。
§幻想舞踏会§
~煉獄の魔石編~
【全部隊成功】
本編へ続く。
コラボ曲・命のユースティティア
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